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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
七章 妨略の覇者
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47 桃色の願い

「あなたの望みが悪魔の全滅かセヴィスの仇か知らないけど、この武器でサキュバスを殺すのね。あなたの言う通り、サキュバスを放っておくのは非常に危険だわ。殺すなら、わたしもそれで賛成する。

 でも、わざわざ盗む必要がどこにあるの? 他国もサキュバスの存在は知っているし、交渉すれば済む話だわ」

 と言うと、モルディオはどこか空しそうに首を振った。


「それができないんだ。ジェノマニア王国の信頼は完全に失われたからね。クロエの不祥事、ウィンズの不在、シュヴァルツの殺人……こんな奴らが美術館のトップだったんだよ?」

「そうね。じゃあ、今の美術館は誰が仕切ってるの?」

「候補生を除くA級祓魔師で、結局生き残ってるのはミッシェルだけ。そのミッシェルも、フロストが殺されたショックで立ち直れない。だから今はB級の上位十人とジョフェン学園長が会議して仕切ろうとしてるけど、頼りないよ。僕にS級をやれって言ってくるぐらいだからね。まあ、辞退したけど」


 エルクロス学園に入ったモルディオの目的はあくまで、事件の調査依頼とセヴィスの打倒だ。

決してS級になることではない。

こうなった今、彼がS級になる意味はないのだろう。


「で、この武器は誰が使うの?」

「フレグランスに決まってるじゃん」


 フレグランスと聞くと、頭に最初に浮かんでくるのは彼の顔だ。

しかしセヴィスはこれだけ大きな鎌を扱えるだろうか。

同様に、モルディオも大きな武器はあまり得意ではない。

ならば一体、誰なのだろうか。


 ここから先は、自分で調べることだ。

モルディオに聞いてばかりでは、情けないにも程がある。

例え聞いても、教えてくれないだろう。


「……分かったわ。わたしは負けた。この武器は責任を持って完成させるわ。

 でも勘違いしないで。わたしはフレグランスを捕まえるのを諦めたわけじゃない。例えフレグランスがサキュバスを倒して、影の英雄になろうとも、必ず捕まえる。ただそれだけよ」

「勝手にしなよ。無理だと思うけど」


 これ程屈辱的な武器制作依頼は、初めてだ。

ローズは煮えくり返った腹に誓う。

フレグランスは必ず牢獄にぶち込む、と。


「それで、フレグランスが最後のダイヤモンドを盗み次第、グロウの本拠地覇者の塔でサキュバスの居場所を知ろうと思う。グロウが知らないわけないからね。ハミルとシェイムも塔に行こうとしてるみたいだから、僕はジェノマニアで様子を見る予定だよ」

「あなたは塔に行かないの?」

「本来なら僕が行くべきなんだろうね。でも、こんなこと信じたくないけど、サキュバスのタロットでは、僕は塔のカードだった。だから塔と聞くと、殺される予感しかしないんだ」

「情けないのは変わってないわね。未来は自分で切り開く……ってあなたの口癖じゃなかったかしら」

「そうだね。未来は自分で切り開く。ただそれだけだよ」


 相変わらずの意味深な言葉を残して、モルディオは先に教会を出て行った。


***


 同時刻。


「行く前に、ミルフィに挨拶しようと思うんです」


 シェイムにそう言われて、ハミルは開店直後のクリムゾン・スターにやって来た。

そういえばシェイムはミルフィを守る為にこの国に来たと言っていたが、彼女を置いて祖国に行っていいのだろうか。


「いらっしゃいませ。ハミル君に、シェイムちゃん」


 アルジオが頭を下げるが、店内の雰囲気はいつもより暗い。

今日はマリがいないらしく、アルジオは一人で皿を運んでいる。

その皿にはハンバーグのソースが少しだけ残っていて、それがハミルに彼を思い出させた。


「ミルフィはいますか?」


 シェイムが尋ねる。


「奥にいますが、今は別のお客さんが」

 とアルジオが言いかけた時、奥の扉が開いてグレイが出てきた。


「グレイ、何でお前がいるんだよ!」


 グレイは何も答えず、レストランを出て行った。

お客さんとはグレイのことだったらしい。

ミルフィに何の用があったのだろう。


 すぐにアルジオが、厨房にいるシンクに視線だけで許可を確認する。


「どうぞ」


 シェイムは軽く頭を下げ、ミルフィのいる部屋に向かう。

この部屋は、クロエの実験台になったハミルが、グランフェザーに操られて入った場所だ。

あの時の自分は本当に愚かだった。


「入りますよ」


 シェイムはノックもせずに部屋に入る。

幼馴染のミルフィにも敬語なのか、とハミルは違和感を覚えた。


 でもおれの幼馴染は、もう。

クリムゾン・スターのハンバーグ、幼馴染という言葉、先程橋の上から通ってきた河川敷。

この辺りは、あいつを思い出させるものばかりだ。


「シェイム? それにハミル」


 ミルフィは編み物をしていた。

水色のリボンのような、リボンにしては細いものを作っている。

これは確か、首に巻くと願いを叶えるという、ヴィーナ・リリーの伝統工芸ブラニューデだ。

基本的に二本セットで、一人で二つ着けたり、二人が一つずつ着けたりと、用途は様々で土産として人気だと聞いたことがある。


「それ、まだ作ってたんですね」

「面白いよ。教えてくれてありがと。で、何かあった?」


 ミルフィの首にはピンク色のブラニューデが巻いてある。

これと対になるものを編んでいるらしい。


「今日、ハミル先輩とヴィーナ・リリーに帰ることにしたんです」

「そっか。元々トーナメントが終わったら帰る予定だったもんね」


 シェイムはグロウやサキュバスの話は出さない。

心配をかけたくなかったのだろう。


「寂しくなるけど、あたしのことは心配しなくて大丈夫だよ」

「はい。そういえば前から思ってたんですが、そのブラニューデ、色違いますよね」

「うん、セビにあげようかと思って」

「っ!」


 ハミルは思わず前に一歩踏み込んだ。

ミルフィは平然としている。


「あいつは……」

「セビは絶対帰ってくる。だからあたし、これを編んでるんだ」


 ハミルは目を見開いた。

幼馴染のおれが諦めたのに、彼女はまだ信じているのだ。


「あたしは、信じてるから」

 というミルフィの声が震えた。


 やっぱり、彼女はあいつが好きだったんだ。

そんなこと、最初から分かってた。

でも、おれもこのひとに惹かれたのは事実なんだ。

あいつに先を越されたくなくて、クラスの人間に彼女だって嘘をついたこともある。

この前のトーナメントの日に、「人の彼女を取ったらいけないんだな」ってランドにこっぴどく怒られたっけ。


「……ミルフィさん」


 ハミルはそっと彼女に手を伸ばす。

すると、

「先輩っ!」

 すぐにシェイムに押さえ込まれた。

驚くハミルの腕を引っ張り、シェイムはずかずか歩く。

そのまま部屋を出て、店を出てしまった。

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