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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
一章 敵躍の代行
5/100

5 館長室への侵入

「もし潜り抜けられなかったらどうするの?」

「デモニックは人間の顔を感知したらブザーを鳴らして、シュヴァルツか誰かに映像を送る。そうなったら壊しても意味がない。だから閃光弾か煙幕を使って……とにかくあの二つに感知されなければいいんだ。あいつらがブザーを鳴らしたら、終わりだと思った方がいい」

「分かったよ……って言いたいところだけど、よく分からないな。後でもう少し説明して。とにかくハミルには内緒でやらないとね」


 意外とモルディオはすんなりと受諾した。


「でもシュヴァルツがいつ館長室を離れるか分からないぞ」

「忘れたの? 候補生が長期休みに入る前日に、館長と副館長は夜の定期会議に参加して、候補生や祓魔師の強さについて審議してるんだよ。だから僕は冬季休みに入る前に侵入したいって言ったんだ」


 そんな会議があったとは、知らなかった。

首を傾げるセヴィスを、モルディオは呆れた様子で一瞥した。


「何で夜なんだ?」

「他の国の館長も来るから、時差も考慮してるんだろうね。会議開始時間は夜十時だから、明日のこの時間に、僕の部屋の前に来てくれないかな」


 ハミルが嘘を言っているとは思えなかったが、ハミルの話を聞いただけで館長室への侵入を決める。

どこまで無謀なのか、どこまで先を読んでいるのか。

相変わらず、ウィンズ並みかそれ以上に何を考えているのか分からない人間だ。



 次の日の夜十時、二人は再び館長室前にやってきた。

セヴィスは館長室の鍵穴に針金を入れ、鍵を開ける。

それから扉の隙間から黒く塗りつぶした使い捨てカイロを本棚とは逆方向に投げ入れると、デモニックが全てそちらへ向く。

その間に中に入り、セヴィスは手から放電する。

レーザーがうっすらと姿を現す。

やはりレーザーは本棚に集中していて、カイロとは離れている。

すぐにセヴィスがそれを潜り抜けると、モルディオが扉を閉め、後に続く。


「デモニックが集結してる本棚って?」

「あれ以外にないと思うけど」


 侵入する前に聞いておくことだろ、とセヴィスは自分を叱咤する。

だが上を見ると、デモニックの配置は明らかに不自然だ。

モルディオの言う、デモニックが集結した本棚の前で立ち止まると、セヴィスは白い本を探す。

本棚の周囲にスイッチがないということと、白い本が暗証番号のような鍵になっているのは、事前にモルディオの能力で調べてもらった。


「間に合わない、やってくれ」

「了解」


 モルディオは左手に持っていた拳銃で天井の付近のデモニックを撃つ。

弾丸が鋭い閃光を放つ。

撃った張本人も腕で顔を覆っている程の強い閃光だが、サングラスをしていれば軽減される。


 閃光が収まるまでのわずかな間に、セヴィスは全ての白い本の場所を把握する。

まばらに置いてある白い本の背には『悪魔の遺した傷跡』と巻数だけが書かれている。

すぐに暗証番号『0721』の順番に巻数の本を押す。

暗証番号の把握はウィンズの誕生日であった為、楽だった。

これだけで仕掛けたシュヴァルツの人格が伺える。


「開いた」


 本棚は静かに開いた。

中にはエレベーターのような部屋が広がっている。

二人はすぐ入り、『閉』ボタンを押す。

ここから先は必要ないと踏んだのか、監視カメラがない。


「左手で撃ったわりに、やけに正確だったな。お前拳銃もやってたのか?」


 エレベーターが下降を始めてから、セヴィスはサングラスを外して言った。


「僕はこんな能力を持ってたから、補助系にされる予定だったんだ。だから射撃は物心つく前からやらされてたし、両利きもほとんど必然的に」

「じゃあ遠距離系になった方がよかったんじゃないか? 何で細剣に移行したんだ」

「自分で斬る感覚を味わえるからね。拳銃だと相手がやられたと見せかけて、不意打ちしてくることがあるから、確信できないんだ」


 こいつもシンクと大差ないな、と言いかけて止める。

モルディオは純粋に殺戮を楽しむシンクとはまた違っている。

彼が好きなのは、悪人の悔しさに歪んだ表情だ。


「ここから先は、監視カメラはないと思う。ここまで電線を通したら下級祓魔師にバレる可能性が高いからね」

「もし下に誰かいたらどうするんだ?」

「相手次第かな」


 そう言うモルディオの右手は既に細剣の柄に触れている。

いつになったら懲りるのか。

人のことは言えないが。


 エレベーターの下降が無音で止まり、扉が開く。

そこに広がっていた景色は、とても華やかな美術館の雰囲気とはかけ離れていた。


 城の牢獄を彷彿とさせるような薄暗い地下道は狭く、二つ部屋が並んでいる。

モルディオの言う通り電線はなく、当然監視カメラもない。


「そこら中に血が飛び散ってるね。何で美術館の地下にこんな施設が……」


 先にエレベーターを降りたモルディオは、周囲を見渡す。

セヴィスはその後ろで、物音が聞こえないことを気にしていた。


「誰もいないな。もう撤収したのか」

「ハミルにこの場所がバレた以上、その確率は高いと思う。でもそんなことは端から分かっていたはずだよ。今はここで何が行われていたか、それを探るんだ」

 と言って、モルディオが手前の部屋に入る。


「じゃあシュヴァルツが何もない部屋の入り口に監視カメラを仕掛けた理由は何だ?」

「グロウの計画を探る人間を陥れる罠じゃないかな」


 廊下の狭さのわりに中は広く、木製の机と空になった本棚が並んでいる。


「本当に何もないな」


 机には液体が零れた跡がある。

ここでは実験が行われていたのだろうか。

いや、コーヒーを飲んでいただけかもしれない。


「隣の部屋に行こう」


 部屋を出て、すぐ隣にある部屋に入る。

この部屋の構造は先程の部屋とあまり変わらない。

違うのは、本棚にはいくつかのファイルが残されているということだ。

たったそれだけだが、それが大きい。


「ここに残してあるってことは、大して重要じゃないと思うんだけどね」


 モルディオは本棚の前に立ち、ファイルを一つ一つ調べる。

ファイルに貼られたシールには『悪魔の父サタン説』といった、聞いたことのない言葉が羅列している。

それを見ただけで頭の中が混乱したセヴィスは、資料を全てモルディオに任せることにした。


「クロエはグロウが人間の行動を操るとか言ってたんだ。もしかして、俺たちにわざと知らせようとしてるんじゃないか?」

「そのわりに、失敗した実験とか空想の話ばっかり書いてあるよ。必要なのはせいぜいこれぐらいかな」

 と言ってモルディオが取ったファイルには、『所持者実験Ⅴ 未完全の媚薬』と書かれている。

タイトルだけ見ると、とんでもない実験を想像しそうだ。


「ん?」


 モルディオがファイルについた奇妙な金属板に気づいた途端、うるさいベルの音が鳴り響いた。

ファイルのあった場所を見てみると、スイッチのようなものがある。

あまりにも簡易な対侵入者用システムだった。

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