42 露呈
ハミルは館長室の扉に手をかける。
A組が休憩もせずに、館長室の扉を開けるよう促してくる。
だがドアノブを握ると、このまま入ってもいいのだろうか、という謎の迷いが生まれてきた。
どうして、迷うこともないのに。
ハミルが逡巡していると、隣にいたモルディオが剣を抜き、
「扉を開けたら右上八十度から斧、その後左下四十五度から蹴り、真横から銃弾。僕が斧を受け止める」
と小声で言った。
それを聞くと、迷うことも許されない気がした。
ハミルは頷き、唾を飲むと、思い切って扉を開けた。
「死ねェ!」
彼の言った通り、扉を開けた途端、シュヴァルツが斧を右上から振り下ろしてきた。
すぐにモルディオが細い剣で斧を受け止める。
「チィッ!」
舌打ちと共に、シュヴァルツが蹴りを繰り出す。
ハミルはその足を殴る。
シュヴァルツがバランスを崩した隙に身体を翻して、弾丸を避ける。
「テメェ裏切りやがったなァ! クソッタレェッ!」
叫びながら、シュヴァルツが力を込める。
「っ!」
シュヴァルツの怪力に負けたのか、モルディオの剣が折れた。
これは想定外だったらしく、衝撃波が彼の右肩を切り裂いた。
すぐにシェイムが強風をシュヴァルツにぶつけ、その強風にチェルシーが水を流し込む。
激しい水流がシュヴァルツに直撃し、シュヴァルツは柱まで吹っ飛ばされた。
他の近距離系が銃を持った悪魔を倒すと、A組は柱にいるシュヴァルツを一斉に囲んだ。
「テメェ謀反は諦めたって……」
シュヴァルツはモルディオだけを睨んでいる。
ハミルが斧を拾ったことによって、シュヴァルツは丸腰になった。
万が一の為に用意していた悪魔も、A組全員には適わなかった。
もう反撃する術は持たないだろう。
「そうですね。確かに僕一人じゃ無理でした。でもクラスのみんながいればできます。あなたが彼を殺したことを利用するのは、正直したくなかったんですが」
モルディオは一体何の話をしているのだろう。
そんなことを考えている暇はなかった。
「はァッ? オレが殺した? 誰を?」
「とぼけんな! お前がセビを殺したんだろ!」
クラスメートたちが叫ぶ。
シュヴァルツは目を見開いている。
「何言ってんだ! ラスケティアを殺したのは俺じゃねェ!」
「じゃあ誰が犯人だって言うんですか」
「知らねェよサキュバスだ! 犯人はサキュバスなんだ!」
「わざとらしいですね。あなたがA級連続殺害事件の犯人で、邪魔な人間を始末してきたのは知ってるんですよ」
モルディオがレコーダーの音声を流すと、シュヴァルツは黙り込んだ。
だが、その表情を見る限り納得がいかないらしい。
「全てを話してください。言わないと、これを爪に差し込みます」
「ひっ!」
折れた剣の刃は、どういう仕組みになっているのか、先端だけが回転している。
あれを差し込まれたら、想像を絶する痛みがシュヴァルツを襲うだろう。
これではほとんど拷問だ。
「わ、分かった! 事件の犯人はオレだ、だからもういいだろ! これは止めてくれェ!」
「彼も?」
「あっ、ああ、ラスケティアを殺したのも、オレだ!」
何かおかしい。
シュヴァルツの反応は、セヴィスの時だけ渋々認めているように見える。
「やっと認めましたね。『ナイトメア・カタルシス』の設計図をください」
初めて聞いた名前だ。
一体何のことだろう。
「なっあれは駄目だ!」
「じゃあこれを」
「ふざけんな! てめェ、犯罪だぞ! 通報するぞ!」
「殺人犯がどうやって通報するんですか」
刃の先端が爪に擦れる。
ひっくり返ったシュヴァルツの声が響く。
「や、やめろっ、机の下にあるから、止めてくれェ!」
痛みを恐れているのか、シュヴァルツはあっさりと吐いた。
モルディオはシュヴァルツの机の下に向かい、謎の白い紙を取ってきた。
後ろからハミルが覗き込む。
紙には複雑な図が描かれている。
ハミルにはほとんど理解できなかったが、鎌の設計図であることは分かった。
中身を確認するとそれで満足したらしく、モルディオは剣の回転を止めた。
「拘束しよう。さっき持ってきた紐で両手を縛って」
指示を聞いて、男子たちがシュヴァルツの両腕を掴む。
すると突然、その手をシュヴァルツが振り払った。
「おいテメェら! 一つ聞くけどよ。オレより、もっと怪しいのがいるだろォ?」
シュヴァルツは座り込んだまま、モルディオを指差した。
「何でこいつは怪我してんだ? オレの斧を見ろ、血はほとんど付いてねェ。こいつはオレの魔力権で怪我してんだよ」
「それがどうしたって……あっ」
クラスメートたちは顔を見合わせる。
彼らにとってモルディオの魔力権は無効化であったことを、ハミルは思い出した。
「他にも考えてみろ。いろいろ思い当たることがあるだろォ? こいつはやけに先を見通してるなァ、とか、何でこいつは遠距離系じゃねェのに拳銃が上手いんだァ? とかよ」
クラスメートが騒いでいる傍らで、シュヴァルツはハミルとシェイムに顔を向けた。
「スレンダ、ハーヴェル、テメェらも思わなかったか? こいつはラスケティアだけじゃなくて、あいつの両親も助けられたはずなんだよ」
確かに、一度思った。
あの時セヴィスと一緒にいたモルディオなら、ラスケティア夫妻の死を見通せたはずだ。
そう思ったからこそ、二人は何も言い返せなかった。
「だからよォ、こんな奴信じていいのかァ? こいつは私欲の為に、テメェらを利用しただけかもしれねェぜ? なあ、モルディオ=アスカ」
クラスメートたちが、『違う』という答えを待つように、静かになった。
モルディオは黙っている。
「教えてやれよ。ぼくの本当の能力は未来予知だよって」
シュヴァルツは裏声を使って言った。
「未来予知!?」
全員、授業で知っているはずだ。
今、未来予知を持つ人間は世界で一人もいない、と。
「ぼくの本名はベルク=グラファイスだって」
その名を口にした瞬間。
シュヴァルツの顔面に靴が叩き込まれた。
さらに弾丸が胸を撃ち抜いた。
モルディオのこの行動に、誰もが驚きを隠せなかった。




