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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
六章 私亡の鼓舞
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42 露呈

 ハミルは館長室の扉に手をかける。

A組が休憩もせずに、館長室の扉を開けるよう促してくる。

だがドアノブを握ると、このまま入ってもいいのだろうか、という謎の迷いが生まれてきた。

どうして、迷うこともないのに。


ハミルが逡巡していると、隣にいたモルディオが剣を抜き、

「扉を開けたら右上八十度から斧、その後左下四十五度から蹴り、真横から銃弾。僕が斧を受け止める」

 と小声で言った。

それを聞くと、迷うことも許されない気がした。

ハミルは頷き、唾を飲むと、思い切って扉を開けた。


「死ねェ!」


 彼の言った通り、扉を開けた途端、シュヴァルツが斧を右上から振り下ろしてきた。

すぐにモルディオが細い剣で斧を受け止める。


「チィッ!」


 舌打ちと共に、シュヴァルツが蹴りを繰り出す。

ハミルはその足を殴る。

シュヴァルツがバランスを崩した隙に身体を翻して、弾丸を避ける。


「テメェ裏切りやがったなァ! クソッタレェッ!」


 叫びながら、シュヴァルツが力を込める。


「っ!」


 シュヴァルツの怪力に負けたのか、モルディオの剣が折れた。

これは想定外だったらしく、衝撃波が彼の右肩を切り裂いた。


 すぐにシェイムが強風をシュヴァルツにぶつけ、その強風にチェルシーが水を流し込む。

激しい水流がシュヴァルツに直撃し、シュヴァルツは柱まで吹っ飛ばされた。


 他の近距離系が銃を持った悪魔を倒すと、A組は柱にいるシュヴァルツを一斉に囲んだ。


「テメェ謀反は諦めたって……」


 シュヴァルツはモルディオだけを睨んでいる。

ハミルが斧を拾ったことによって、シュヴァルツは丸腰になった。

万が一の為に用意していた悪魔も、A組全員には適わなかった。

もう反撃する術は持たないだろう。


「そうですね。確かに僕一人じゃ無理でした。でもクラスのみんながいればできます。あなたが彼を殺したことを利用するのは、正直したくなかったんですが」


 モルディオは一体何の話をしているのだろう。

そんなことを考えている暇はなかった。


「はァッ? オレが殺した? 誰を?」

「とぼけんな! お前がセビを殺したんだろ!」


 クラスメートたちが叫ぶ。

シュヴァルツは目を見開いている。


「何言ってんだ! ラスケティアを殺したのは俺じゃねェ!」

「じゃあ誰が犯人だって言うんですか」

「知らねェよサキュバスだ! 犯人はサキュバスなんだ!」

「わざとらしいですね。あなたがA級連続殺害事件の犯人で、邪魔な人間を始末してきたのは知ってるんですよ」


 モルディオがレコーダーの音声を流すと、シュヴァルツは黙り込んだ。

だが、その表情を見る限り納得がいかないらしい。


「全てを話してください。言わないと、これを爪に差し込みます」

「ひっ!」


 折れた剣の刃は、どういう仕組みになっているのか、先端だけが回転している。

あれを差し込まれたら、想像を絶する痛みがシュヴァルツを襲うだろう。

これではほとんど拷問だ。


「わ、分かった! 事件の犯人はオレだ、だからもういいだろ! これは止めてくれェ!」

「彼も?」

「あっ、ああ、ラスケティアを殺したのも、オレだ!」


 何かおかしい。

シュヴァルツの反応は、セヴィスの時だけ渋々認めているように見える。


「やっと認めましたね。『ナイトメア・カタルシス』の設計図をください」


 初めて聞いた名前だ。

一体何のことだろう。


「なっあれは駄目だ!」

「じゃあこれを」

「ふざけんな! てめェ、犯罪だぞ! 通報するぞ!」

「殺人犯がどうやって通報するんですか」


 刃の先端が爪に擦れる。

ひっくり返ったシュヴァルツの声が響く。


「や、やめろっ、机の下にあるから、止めてくれェ!」


 痛みを恐れているのか、シュヴァルツはあっさりと吐いた。

モルディオはシュヴァルツの机の下に向かい、謎の白い紙を取ってきた。

後ろからハミルが覗き込む。

紙には複雑な図が描かれている。

ハミルにはほとんど理解できなかったが、鎌の設計図であることは分かった。

中身を確認するとそれで満足したらしく、モルディオは剣の回転を止めた。


「拘束しよう。さっき持ってきた紐で両手を縛って」


 指示を聞いて、男子たちがシュヴァルツの両腕を掴む。

すると突然、その手をシュヴァルツが振り払った。


「おいテメェら! 一つ聞くけどよ。オレより、もっと怪しいのがいるだろォ?」


 シュヴァルツは座り込んだまま、モルディオを指差した。


「何でこいつは怪我してんだ? オレの斧を見ろ、血はほとんど付いてねェ。こいつはオレの魔力権で怪我してんだよ」

「それがどうしたって……あっ」


 クラスメートたちは顔を見合わせる。

彼らにとってモルディオの魔力権は無効化であったことを、ハミルは思い出した。


「他にも考えてみろ。いろいろ思い当たることがあるだろォ? こいつはやけに先を見通してるなァ、とか、何でこいつは遠距離系じゃねェのに拳銃が上手いんだァ? とかよ」


 クラスメートが騒いでいる傍らで、シュヴァルツはハミルとシェイムに顔を向けた。


「スレンダ、ハーヴェル、テメェらも思わなかったか? こいつはラスケティアだけじゃなくて、あいつの両親も助けられたはずなんだよ」


 確かに、一度思った。

あの時セヴィスと一緒にいたモルディオなら、ラスケティア夫妻の死を見通せたはずだ。

そう思ったからこそ、二人は何も言い返せなかった。


「だからよォ、こんな奴信じていいのかァ? こいつは私欲の為に、テメェらを利用しただけかもしれねェぜ? なあ、モルディオ=アスカ」


 クラスメートたちが、『違う』という答えを待つように、静かになった。

モルディオは黙っている。


「教えてやれよ。ぼくの本当の能力は未来予知だよって」


 シュヴァルツは裏声を使って言った。


「未来予知!?」


 全員、授業で知っているはずだ。

今、未来予知を持つ人間は世界で一人もいない、と。


「ぼくの本名はベルク=グラファイスだって」


 その名を口にした瞬間。

シュヴァルツの顔面に靴が叩き込まれた。

さらに弾丸が胸を撃ち抜いた。

モルディオのこの行動に、誰もが驚きを隠せなかった。

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