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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
四章 反撃の紫怨
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27 転覆策略

『これはすばらしい! 完封です!』


 ぼやけた視界の中、うるさい実況の声が聞こえる。

目を擦ると、テレビにはグレイとチェルシーが笑顔で互いの右手をぶつけている。

あれは確か、以前ハミルとしたものと同じ動作だ。


「起きたみたいだね。足は大丈夫?」


 右側からモルディオの声が聞こえた。

顔を上げて右側を向くと、リモコンを持ったモルディオがテレビを見ていた。

部屋にいるにも関わらず、シャツとベストを着ていて、さらにループタイをしている。

とても部屋着とは思えないような、窮屈な服装だ。


「今はだいぶ退いてる。それで今は何時だ?」

「十一時半だよ」


 確か昼飯は食べていない。

そうなると、自分は午前中から寝ていたことになる。


「そんなに寝てたのか、俺は」

「無理もないよ。グレイが刺した毒は『デスパレッタ』。ある二種類の毒蛇の毒を混ぜて作る毒薬で、普通じゃ手に入らない猛毒だよ。解毒剤を飲まない限り、ずっと痛みが続くんだって。僕も初めて聞いたし」


 デスパレッタとは何だろう。

両親なら分かったかもしれないが。


「それ、どこで聞いたんだ?」

「父さんに電話して聞いたんだ」

「父さん?」

「僕の父さんは医者なんだ。最近連絡してなかったからすごい怒られたけど、君のことを話したら渋々協力してくれたよ。解毒剤はその毒蛇の血清なんだけど希少で、父さんのところにはないんだって。毒の持ち主であるグレイなら確実に持ってると思うけど」

「じゃあ尚更グレイをぶっ殺さないといけないな」


 モルディオはリモコンを操作して、グレイとチェルシーのインタビュー画面から巻き戻す。

どうやら録画したグレイの戦いを見て、予習しているらしい。


「そんな君に悲報。明日の初戦……こいつらが相手だ」

「そうか」

「そうか、じゃないよ。正直君が動けないと勝ち目がない。いろんな戦法を考えてるけど、負ける未来しか見えないんだ」


 つまり敗北は避けられない、ということだ。

例えグレイ戦で負けたとしても、他のチームに勝てば個人戦に出場できる。

だが、モルディオはグレイを負かすことに執着している。

それはセヴィスも同様で、グレイに勝つことばかり考えている。


「僕が負けず嫌いだからっていうのもあるけど、とにかくグレイ戦は絶対に負けたくない。でも僕が考えた正攻法は全部駄目だ。何か奇策がないと」

「奇策、か」


 モルディオはグレイ戦が始まるところで巻き戻すのをやめた。

二人は黙ってグレイが勝利するまでの流れを見る。


「どう思う?」


 再びインタビューが始まると、モルディオはペットボトルの水を差し出して言った。

喉が渇いていたのでちょうどよかった。

ここまで気を利かせた行動をとったということは、自分が喉が渇いたと言う未来でも読んだのだろうか。


「チェルシーの水壁のせいで、ほとんどグレイは見えなかったな。でもグレイの戦法は爪と浮遊を使った空中攻撃だけに見えた。思ったより単純だ」

 と言って、セヴィスはペットボトルを開けて水を飲んだ。


「この場面を見てくれない」


 モルディオはもう一度巻き戻して、チェルシーが水壁を出現させる直前で再生した。

ちょうどグレイが跳躍し、相手が火の魔力権を発動したところだ。


『これは炎です! しかし、水の魔力権を持つチェルシーがいては効きません!』

 と、実況がどこか嬉しそうに言った。

そこでモルディオは映像を止め、そこからスローで再生する。


「肉眼で見ると一瞬で分からないから、チェルシーのせいになってるけど……この火、グレイの顔に当たってるんだよね。なのにグレイは無傷なんだ」

「無効化ってことか? でもグレイの魔力権って浮遊だろ。お前みたいに嘘ついてたってことか」

「いや、浮遊の魔力権は確かに発動してるんだ。糸か何かで吊るしたって、あの動きはできないよ」

「じゃあ、まさか」

「これで確信したんだ。グレイはアフター・ヘヴン所持者だ」


 セヴィスは愕然としてペットボトルを置く。

アフター・ヘヴンの所持者がこんな身近にいたとは。

てっきりミルフィだけなのかと思っていた。

しかも様々な魔力権を使いこなす分、戦えないミルフィよりたちが悪い。


「チェルシーの水壁がうまく隠してるんだよ。だから空中戦を制しようと思っても、負ける未来しか見えなかったんだ」

「グレイがやけに女子とのペアを強要してたのはその為だったんだな。客や審査員の視界を隠すならシェイムの魔力権でもできる。と言うより俺やお前、ハミルじゃできないんだ。で、シェイムはハミルに取られたからチェルシーか。俺はハミルみたいに女子なら誰でもいいのかと思ってた」

「そういうこと。グレイは馬鹿だと思ってたけど、意外とずる賢い人間みたいだね。グレイが他にどんな魔力権を持っているか分からない以上、封じ込めるのは難しいよ」


 グレイを倒すのに必要なのは、グレイの魔力権関係なしに倒せる戦法だ。

もしくは、チェルシーの水壁を発生させないか。


 待てよ、とセヴィスは対グレイ用の戦法を考えてみる。

水壁でグレイが見えないなら、俺も観客たちから見えなくなる。

これは利用できるんじゃないか?


「どうしたの?」


 セヴィスは机の上にあるメモ帳を取って、モルディオのペンを使って汚い字で戦術案を書いていく。

その様子を、モルディオが奇異なものを見る目で見ていた。


「俺が今思いついた策だ」


 そう言ってメモを切り離して、モルディオに渡す。

しばらくそれを眺めると、モルディオは感心した様子で頷いた。


「これは結構卑怯な策だね。でも先に毒で攻撃してきたのはあっちだし、これなら現状を覆せるかもしれないね。まあいいんじゃない? 寝起きのわりに、随分頭が冴えてるみたいだね」

 と言ったモルディオの視線がベッドの横、拳銃の入ったトランクに泳いだ。


「で、ここにある重要な役割を誰がやるわけ? まさか僕にやれとか言わないよね」

「お前しかできないだろ」

「嫌だよ、怪盗フレグランスがやりなよ。足の痛み退いたんでしょ?」

「これはチビしかできないだろ」

「チビって言う方がチビなんだよ。このデカブツ」

「意味が分からない。悔しかったらミルクでも飲め、最小祓魔師」

「グロウは毎日ミルクを出してたし、僕も残してなかった。でも伸びなかったんだ。つまりミルクと身長は関係ないってことだよ。分かった? 最凶電気ウナギ祓魔師」

「そうか。それは、まあ……残念だったな」

「そういうこと。だからグロウが悪いんだよ」

「チェルシーはそんなに小さくないだろ」

「うるさいな。チェルシーは親の遺伝だよ、遺伝。大体、君だってルキアビッツで何を食ったらそんなにでかくなるわけ?」

「知らん、勝手に伸びた」


 このような大人気ない口論を続けた結果、モルディオは立ち上がってテレビの横に置かれたルーレットを持った。


「面倒くさいから、これで勝負しよう。僕が負けたら、やってあげるから」

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