24 所持者の衝撃
テレビではフレグランスのニュースが終わると、以前自分が応えたインタビューの様子が流れ出した。
いつまで同じインタビューを流すつもりなのだろう。
眩しいフラッシュに嫌悪感を抱く自分の表情もいい加減見飽きた。
得体の知れない痛みは波のように襲ってくる。
先程教室にいた時と比べると、今は少し退いて楽になった。
この痛みに気を取られて、今日持って行こうと思っていたレンの『宝石』を部屋に忘れてきた。
テレビから移した視界にふと入ってきたのは、ベッドと壁の隙間に置かれた謎のトランクだ。
なんとなく気になって、腕を伸ばしてトランクを取り、開ける。
中には拳銃が二丁入っていた。
特殊武器ではなさそうだが、警察が使っているものと比べると細くて長い。
これがモルディオの武器であることは嫌でも分かることなのだが、本当に彼は何ができないのだろう。
そんなことを考えながら、セヴィスはそっとトランクを元の場所に戻した。
また足が痛くなってきた。
モルディオの武器とか、くだらないことは後で考えろ。
とりあえず足が治り次第、ローズはボロクソにして負かす。
グレイはぶっ殺す、くらいの勢いで潰す。
やっぱりブチ殺す。
そうしないと気が済まない。
モルディオが部屋を出てから二十分も満たないうちに、テレビに開会式の模様が映し出された。
『A級のシュヴァルツ=アルテミス副館長のタッグはB級のペスタ=フランドーです。そしてミッシェル=クランツとフロスト=ローゼンバーグ、こちらはA級のタッグです』
アナウンサーの紹介と共に、カメラが上級祓魔師たちを映している。
そこで、シェイムが一人大きく映し出された。
『彼女が、今回の為にヴィーナ・リリー共和国からやって来た、S級一年生シェイム=ハーヴェルです。なんと、ジェノマニア王国での顔出しは我々が初めてです! いやぁー、初々しいですねぇー。
注目のシェイムのタッグはB級、ハミル=スレンダです。去年はまさかすぎる戦法で登りつめた彼ですが、一年経ったハミルがどう戦うのか、見所です』
何が『まさかすぎる戦法』だ。
去年はその言葉を俺とチェルシーに連発していたくせに、今度はハミルにも使うのか。
セヴィスはテレビに対してため息をついた。
それからカメラにグレイが映るとすぐに舌打ちした。
『こちらはA級チェルシー=ファリアントと、そのタッグは初出場、三年生のグレイ=ディスノミアです。グレイは爪という独特な武器で候補生の部を勝ち抜きましたが、チェルシーと組むとどう変わるのか、気になりますねぇー。
そして今回最も注目されているのが、こちら』
カメラの映像が楽しそうに雑談をしている二人から、姿勢を正して座っているモルディオに移った。
『A級のモルディオ=アスカです。候補生の部では見られなかった、一年後の彼も気になるところですが、今回はなんと、あのS級の……』
カメラが慌しくスクロールし始めた。
自分を探しているらしいが、すぐに諦めてモルディオに戻った。
『えー、今はまだ見当たりませんが、S級のセヴィス=ラスケティアとタッグを組んだと以前から話題になっています。この二人は犬猿の仲だと噂されていたのですが、全くの勘違いだったのでしょうか』
勘違いではない。
実際モルディオがルキアビッツの為に行動しなければ、セヴィスは今も嫌っていただろう。
『たった今入った情報によると、寝坊、だそうです! いやぁー、さすがS級ってところでしょうか』
映像が二階席に立つアナウンサーになった。
言動のせいか、今日は一段と間抜けな面をしているように見えた。
セヴィス不在の開会式が終わり、タッグ戦の抽選が行われた。
結果はテレビで伝えられる。
初日であったせいか、自分たち以外は全員当たっていた。
だが、安心するのは早い。
今日のタッグ戦が終わると明日の抽選がすぐ行われる。
明後日が休みであることを考えると、明日は当たるだろう。
これでもし、明日も足の痛みが癒えなかったら。
それどころかさらに痛くなったら。
考えたくなかった。
***
下級の祓魔師が次々に戦っている中、喉の渇きを感じたグレイは、一人で廊下の自動販売機に向かった。
会場は人が多い為女子は連れてこなかったが、女の通行人がつきまとってくる。
「メロンジュースだな? 俺様がおごってやるよ」
つい先程、こんな勢いでチェルシーの分も買って来ると約束してしまった。
グレイは派手な財布を取り出し、自動販売機に近づく。
そこには、既に先客がいた。
すぐ終わるだろうと思っていたが、桃色の髪をした女がまじまじと自動販売機を見つめているせいで、なかなか終わらない。
「おい、早くしろよ。グレープだろ?」
女の連れと思われる金髪の男が、だるそうに頭をかいた。
女はゆっくりボタンに指を置き、そっと押した。
当然、下からジュースの缶が出てくる。
「すごいね、これ!」
ジュースを取り出した女は、何が珍しいのか興奮している。
どこの田舎から来たんだ、とグレイは男と同じように頭をかいて、前に進む。
「これくらい珍しいもんでもねえだろ。ほら帰るぞ」
と、男が言う。
女がグレイの方を向く。
「おっと」
グレイの腹に軽い衝撃が走った。
女は尻餅をつきそうになったが、男が支えたので倒れなかった。
「すみません」
女は頭を下げると、グレイの横を通り過ぎようとした。
だがグレイは反射的に女の腕を掴んだ。
「ちょっと待ちな」
女はきょとんとしている。
そんな女を上から下まで眺めてみると、綺麗な顔立ちに加えて胸も大きい。
田舎者であることが唯一の欠点か。
「何ですか?」
グレイは首を傾げる。
どういうことだ。
この女、俺様に一切興味を示さない。
自分でも思い上がり甚だしいと思うが、この俺様を目にして惚れなかった女は今まで一人もいない。
よく見ると、女の周りには何人かの男がいる。
まさか、この女。
「いや、何でもねえ」
グレイは女の手を離す。
キスをすれば確実に分かることだが、この場でしたら目立つ。
「行くぞミルフィ」
男はミルフィという女を連れて、会場に戻って行った。
「ミルフィ、か。アフター・ヘヴンの所持者がまだ……はっ、笑えるぜ」
グレイは小さな声で呟くと、自動販売機でグレープジュースを二つ買った。