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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
二章 薔薇の諜戦
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9 放課後の雑談

「我々祓魔師にも導入された階級制度は、どの悪魔の族も年に一度必ず行う武闘会にちなんでます。祓魔師の武闘会は誤解を避ける為にトーナメントと名を変えてますが、基本的に一対一で強さを競うところは同じです。まず、その大会で一位になった者だけが一年間S級を名乗ることが許され、それからは順位に合わせてA級、B級、C級、D級と振り分けられることになってます」

「トーナメントは国ごとに行なわれるが、当然国によってS級の強さは違い、祓魔師を生み出したジェノマニア王国は最も強いと言われる。が抜けたぞ。続けろ」


 ジャックが指摘すると、チェルシーは不機嫌そうな表情をした。


「現在のS級祓魔師。クレアラッツ本部、セヴィス=ラスケティア。クレイエル帝国、アロウ=モーメント。ヴェスマリン帝国、エレスチャル。フリージア連邦、レイク=ライ。ミラーズ王国、レフィア=ヴィレッタ」

「苗字が逆だ! レイク=ヴィレッタとレフィア=ライだ。全く、世界のS級祓魔師の名前は常識だぞ!」


 さらにチェルシーが唇を尖らせる。


「ヴィーナ・リリー共和国、シェイム=ハーヴェル。S級は以上の六名で、女性はレフィアとシェイムだけです。現在のS級はそのほとんどが三十歳を超えており、自分より強い後継者を探している状態です。尚、セヴィスとシェイムは候補生で、祓魔師の最高指揮官、通称美術館長になることを許されてません」

「……よし。ランド、美術館について述べろ」


 チェルシーが座ると、今度は大男が立ち上がる。

その見た目にそぐわない程おどおどとしている。


「び、美術館は祓魔師の本部、なんだな。悪魔が出現したら、出没情報を適切な祓魔師に伝えて派遣する機関なんだな。悪魔の『宝石』を管理する役割も、兼ねているんだな」


 話の途中からジャックはため息をつき始めた。


「美術館での勤務が許されるのは、B級以上、だけなんだな。普通はS級が館長に、次に強いA級が副館長に、なるんだな」

「合格と言いたいところだが、いい加減お前のその喋り方はなんとかならんのか」

「生まれつき、こうなんだな」

「生まれつきということは……貴様は生まれた直後から『おぎゃあ、なんだな』と言っていたのか?」


 周囲で再び笑い声があがった。

ハミルはジャックの話が気に入ったらしく、机を叩いて笑っている。


「復習は終わりだ。今日からは集団戦術についてやるぞ。問題児には関係のない単元だが、候補生の戦術は基本的にこれだからな」


 ジャックは視線を向ける。

その視線の先には当然のように眠っている問題児がいる。

それを見たジャックは、大きくため息をついた。


***


 こうして学園の授業が終わると、生徒たちは部活動や訓練室に行って鍛えに行く。

そのせいか、放課後の教室はすぐに静かになる。


 残ったのは称号を持つ四人と数人だけだ。

この四人は部活に入っていない。

それぞれの理由は異なる。


 チェルシーは友人と遊ぶ時間が惜しいと無所属を選択し、女子で集まって談笑している。

モルディオはいつも訓練室で鍛練を怠らないのだが、今日はまだ教室にいる。

ハミルは他の三人に負けたくないという理由で無所属になり、放課後はいつも河川敷で鍛えに行く。

セヴィスに至っては最初からやる気がなかった。


「あーあっ最悪だ!」


 ハミルは頭をかいて黒板に向かう。


「いっつもいっつも38点だ! まーた補習かよ。おれ、赤点の神に好かれちまったのかな」


 ハミルが話すのは、今日最後の授業で返ってきた、休み明けのテストのことだ。


「おいセヴィス、お前は当然補習だよな? 寝てたもんな? 補習仲間だよな?」

「いや、今回は記号が多かったから」

「どういうことだよ。ちょっと見せろ」


 ハミルは一度踵を返して、セヴィスの机から勝手にテストを奪う。

汚い字で書かれた名前の隣には、『41』の文字があった。

しかしよく見ると、記述は真っ白で、記号問題の正答率がやけに高い。


「寝てたセヴィスに負けるなんて……おいおい嘘だろーっ!」


 ハミルはテストを机に置いて、もう一度黒板へ向かう。


「勘ってここまで通用するのかよ。まさか、モルディオが」

「そんなことするわけないじゃん。まあ運がよかったセビはともかくとして、今回は難しかったよね。僕もあまりよくなかったよ」

 と、モルディオが言う。


「お前が難しいって相当だな。あっもしかして初の補習? おれたち補習組に仲間入り? そしたらテレビにも取り上げられるかもな。で、何点だったんだ?」

「……90」

「は? 今、90って聞こえたぞ」

「記号で10点も落としたんだ。ここの答えを全部『2』にした教官に悪意を感じるよ。だから全部『2』にしたセビが正解するんだよ」

「それで90って……どうせ能力でカンニングしてんだろ。それでセヴィスにも教えたんだろ」


 ハミルは小声で暴言を吐き捨てる。


「使ってないよ。使っても全部把握できないし、そんなに点数変わらないから」

「うっぜ」


 無論、ハミルはテストの点数ごときで乱闘を起こす程短気ではない。


「で、昨日言ってた面白いニュースって何だ?」

 と、セヴィスは前の席にいるモルディオにたずねる。


「午後の五時に流れる緊急ニュースだよ」


 やっぱりな、と言うようにセヴィスの視線が逸れた。

未来予知の能力を持っている彼は、先にニュースを知ってしまうのだ。


「どうせならレストランで見ようか。そっちの方が面白いよ」


 表紙が取れそうな教科書をバッグにしまうと、モルディオは笑った。


「何が面白いんだ?」

「あのニュースを知った時の君と店長の反応」


 周囲がしらけた。

黒板を消すハミルの手が止まる。


「相変わらずモルディオの笑いのツボっておかしいよなー」


 ハミルは聞こえよがしに言いながら黒板消しを置く。


「ハミルも来る?」

「そこまで言われたら気になるし、行く」


 そう言って、ハミルは自分の席に戻ってバッグを手に取る。


「てかお前、あの店にハマッただろ」

「そうかもしれないね。『マズイトイッタラコロス』が結構気に入ってる。名前に似合わない甘さがまたクセになるんだよ」


 以前ではこの三人がいると悪態が当然だったが、今ではこうして雑談をするようになった。

そうなると、セヴィスはほとんど話さなくなる。


「それにしても、ウィンズはどこ行ったんだろーな」


 先に廊下に出たハミルはバッグのもち手を両肩に掛け、リュックのように背負う。


「シュヴァルツの言う通り、本当に一向に帰って来る気配がないね。連絡も取れないみたいだし。シュヴァルツがほとんど代行を務めてるけど……」

「けど?」


 モルディオが言葉を濁らせた。

彼にしては珍しいことだ。


「なんでもないよ」

「お前がそう言う時って大抵何かあるよな」

 と、ハミルが訝しげに言う。


「これに関しては、まだ確証が持てないんだ。こんな状態で話したら、僕の愚痴になるよ」

「いいじゃねえか愚痴で。シュヴァルツはお前に負けてんだし、言ってみろよ」

「やめておくよ。これで間違ってたら、僕が一方的に責められるだけだしね」

「何だよ面白くねえな」


 ハミルは肩をすくめる。

それ以降は学園に関する話ばかり続いた。

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