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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

超自然が創り出す恐怖

作者: 混沌

頭が痛い、何が歓迎会だ。幾らなんでも未成年に倒れるまで呑ませるなんて有り得ないだろう。いや、強ち最近では当たり前なのかもしれない。正直今夜は家路を辿ることすら出来ないと思う。吐き気が酷いがぶち撒ける訳にも行かない。道端で出すなど、迷惑の極みだ。私は予備の袋を手で掴み、顔を近付けた。


時は遡り数時間前、私は居酒屋の暖簾を潜った。あろうことか既に爺さん達は出来上がっていた。戸惑う私を手招きして、無理矢理口に押しこんだのだ。呑んだことのない私は一発でフラフラになり、限界だと伝えた。だが無意味だ。呑め呑め呑め呑め、と恐ろしいコーラスが場の雰囲気を創り出した。地獄を味わった私は、死にものぐるいで抜け出したのだ。


私は囁かな居酒屋の狂いを見つけた。九頭龍と言う名の店からは、途轍もない磯の香りが漂っていたのだ。訳がわからない。きっと酒にやられて私は色々と麻痺しているのだろう。早く帰って暖かい布団に潜り込みたい。歪む視界の中で、街灯が輪郭の無い光を生み出した。


気付いたら玄関の前で突っ伏していた。独り暮らしの私としては迷惑をかける相手がいないので、安心することが出来る。初めて体験する二日酔いなので、耐えられない私は直ぐ様トイレへ駆け出した。数分後、全て出し切った状態で布団に潜り込み、頭を抱えて蹲った。今日は月曜日、普通ならば大学へ向かう時間帯である。休もう、身体が言うことを聞かない。


脳に響く不快なチャイムが聞こえてきた。誰だ、未だ定まらない視界を頼りに扉へ歩く、巫山戯た声が放たれた。


「お〜い、まだ居るかぁ〜……次集まる日が決まったから教えに来たぞ〜」


扉を開けると赤い顔をした酒臭い爺さんがいた。団長である。私は地元の祭りの警備に嫌々参加することになり、時々爺さんが家を訪ねるようになった。歓迎会とは地元で行われる恒例行事だったのだ。酒瓶を揺らしながら遊びに来た。まだ呑んでいたらしい。見ているだけで胃が可笑しくなりそうである。


「次は土曜日、要するに祭りの日だ。気ぃ引き締めて来いよ。何てったって九頭龍様の誕生した日だ。シッカリ祝わなぁならねぇ……グヘヘ」


しかし腑に落ちないこともある。九頭龍様とはどのような神なのか一切教えてくれないのだ。我慢出来なくなった私は再び聞き出そうと試みた。


「もう一度お尋ねしますが、九頭龍様はどのような神なのですか?」


「この土地の守り神だぁ、何回も行っているだろぅ?全く、アンタも物好きな人だ」


酒が入っていることもあってか、矢張りマトモな答えを聞き出せなかった。土地の守り神か、一体どのような姿なのだろう。


「九頭龍様の姿は神々しくて眩しいくらいだぁ……象があるから祭りの日まで楽しみにしておきな」


ひとつだけ楽しみが出来た。これを心に頑張って行けたら良いなと思う。頭を抑えながら爺さんを見送った後、大きな欠伸をして布団へと踵を返した。


二日酔いも回復した金曜日の夜、大学での平凡だった出来事を思い浮かべながら風呂にダイブした。疲れを癒すのに重要だと私が考える行動のひとつである。時間が経つに連れて、脳を過る物が明日の祭りへと変貌していった。警備の仕事とはどのような物だろうか、九頭龍と言う名の神は本当に素晴らしい姿を見せてくれるのだろうか、刻一刻と迫る祭りは時を早く進めたのだ。


明るい日差しの中で神輿が運ばれる。私は自動車の誘導を任された。警報を持って交通整備に励むのだ。町に響く笑い声が場を創り出す。チラチラと見える伝統的な踊りが、私の脳を刺激した。時々呑まれる青光する液体が、次々飲まれている。薦められた私も、一気に飲み込んだ。


急に眩暈が、まるで世界が反転したような感覚に襲われる。磯の香りが漂い始めた。居酒屋で嗅いだ、あの匂いだ。恐ろしい掛け声と共に、何かが迫って来ている。何かが跳ねている。神輿だ。アレが後ろに存在するのだ。抗えなかった私は、振り向いて総て知ってしまった。


町の人々が銀光する鱗と、突出した瞼の無い目玉を私に向けていた。ヌルヌルとした青い液体が滴り落ちている。掠れた蛙のような声で叫んでいる。神輿が近づいてきた。


「イア!イア!クトゥルフ!フタグン!九頭龍様万歳!」


私の脳に襲いかかる悍ましい狂気を孕む光景は、全ての宗教を冒涜したのだった。屋台の名前を見たらすぐに判るだろう。赤黒い肉の塊、人肉を売るなんて有り得ない!いや、彼等は人間ではなく怪物なのだ。頭から丸囓りしている。鮮血が私の顔に飛び散った。


象は、九頭龍は、私の精神を喰い尽くそうと迫っていた。石で創られたそれからは、鮮明な邪悪が秘められていた。柔らかいゼリー状の皮膚を垂らし、無数の蠢く触手を口に蓄え、身体に不釣り合いな翼を拡げ、ギラつく瞳を私に向けていたのだ。


目を瞑ろうとしたが出来なかった。

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