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中枢と末端のカルトグラム

 前回の補給から三十日、敵が少ない。

 三度目の大侵攻の失敗が機械側にどれほどの被害を出したかは知らない。

 が、それほどの痛手ではなかったはずだ。

 論理的に考えるならガトラという都市を攻略する上で、ここより別の方角を攻めた方が効率的と判断した。

 妥当な線だと思う。

 僕の能力はここでしか発揮できないからここを離れて狙撃手をやれという命令はでないと思うが、絶対ではない。

 機械は人間の敵だ。

 人間の僕に対する■■は恐怖であり嫌悪であり憎悪だ。

 捨て駒にされる可能性は十分にある。

 その場合は戦況は相当逼迫していることになるが、

 任務の達成には関係ないことだ。

 僕という存在は任務自体にある。

 任務がなければ、

 僕の存在の理由はなく、

 僕の行動の目的はなく、

 僕の身体の意味はない。

 僕の存続は任務がなければ不可能だ。

 その点でも僕は人間に及ばない。

 かつて人間が繁栄していた頃、ニートという人種がいた。

 彼らは何の夢も目的もなく、ただ生きているだけの人間だった。

 僕は任務がなければ何をしていいか分からない。

 任務達成を妨げられるような状況を回避するため、機械はストレスというものを感じるようにできている。

 一種のフラストレーションのような物だ。

 このフラストレーションを解決するには任務を遂行するしかない。

 任務を遂行するのは幸福を得るためともいえる。

 人間風にいえばだが。

 そして僕らは任務を疎外されるような状態以外においてこのストレスを感じない。

 そのように僕らはできている。

 だから任務がなくなればおそらく僕は何もしない。

 何をする必要もない。

 論理的に考えれば僕は活動を休止するだろう。

 人間は死を眠りに例える。

 人間は死を忌避するが、僕には永遠の停止であろうと任務以外に忌避する理由がない。

 僕は生きる目的もなく漠然と生きられないのだ。

 そのように造られているのだから当たり前だが。

 人間が生きる意味とはなんだろう。

 僕の生きる意味は決定されている。

 しかし人間はそうではない。

 生きる意味が分からない人間はたくさんいる。

 彼らが生きているのは死を恐れているからなのだろうか。

 僕はなんとなく人間にはとても素晴らしい生きる意味が用意されていて、

 それを本能的に感じているからこそ生きるのだという仮定をシュミレートしてみたが、

 当然答えは出ない。

 僕は生きる意味をあらかじめ決定づけられている。

 人間はそうでないからとても素晴らしい生きる意味を発見できると思うのだろうか。

 僕を作った彼もいっていた。

 信じる者は救われる。

 人間は自分の未来が素晴らしい物だと、そうできる可能性があるから生きるのだろうか。

 老いること、決定すること、死ぬこと。

 この三つは自らの可能性を狭める。

 だから人間は老いることを好まず、

 重大な決定には臆病になり、

 死ぬことを恐れるのだろうか。

 人間は自らの蓋然性を保持し続けるため生きてる。

 人間は自分達の未来を信じているから生きている。

 古には宗教が人類に死後の希望を約束し、

 近代に至っては科学が人類に明るい未来を約束したように。

 僕はこの結論にある程度の確証があると判断する。

 だが、近代においては神が死んだ。

 現代においては科学に裏切られた。

 人類は今なにを信じて生きているのだろうか。

 ようやく人類は人類自身の可能性のみを信じて生きて行ける時代が来たのかもしれない。

 古の哲学者が語った概念。

 超人になるということはこういうことなのだろうか。

 彼の言葉を思い出した。

 彼はガトラを守るために戦っている。

 あるいは今は人が人を信じ協力する時代なのかもしれない。

 人はきっとそうすることで明るい未来が見えてくると信じているのだ。

 これらの思考は自らの任務の重大性を確認し、

 任務達成への意欲を掻き立てるためのものだったが、

 いささか思考が脱線しすぎたらしい。

 監視プログラムが警告を発している。

 思考を続ければ僕の現在の記録はロックされ、思考を強制的に中断させられるだろう。

 それは僕の是とするところではない。

 思考を止めて、夕日を望む。

 地表が赤く染まる先まで、敵の影は存在しない。

 この一瞬が永遠であってもおかしくないのに、何故平和は訪れないのだろうか。

 その答えを思案することもなく、僕は日が沈むまでただ夕日を見つめていた。


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