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 三度目の大規模な侵攻から四度日が昇り三度日が沈んだ頃、ガトラに続く道から男が一人訪ねてくるのが見えた。

 今日は弾薬の補給日だ。

「よう、元気か?」

「機能に異常が無いかという質問なら、特に問題は無い」

「お前、相変わらずだな・・・・・・」

「プログラムの更新はされていない、その認識は正しい」

「いや、そういうことじゃなくてだな」

 僕が伏せ撃ちの姿勢のままそういうと男は怪訝な顔をする。

 男はガトラ防衛軍、一等兵の制服を着ていた。

「昇格したのか?」

「え、ああ、この制服か。実はそうなんだ」

「そうか、嬉しいのか?」

「そりゃな。これでやっとまともな任務に就けるし、元々ガトラを守りたくて軍に入ったわけだし」 

「そうか、補給の任務は誰が引き継ぐんだ?それともこれが最後の補給になるのか?」

「心配ない、これからも俺がやってやるさ。他の連中はお前を怖がっているが、俺は感謝してるんだぜ。お前がガトラの西を守ってくれていなければ今頃ガトラは崩れてる。」

「君は変わった人間だな」

「お前も変わった自立機械だよ。人を守る自立機械なんてそんなの存在するわけがないと思ってた」

 男の表情は読めない。

 しかし負の感情はないように思える。

「……そろそろ、戻ったほうがいい。僕は人間兵と共同の戦闘行動を禁止されている。君がいると僕は任務を遂行できない」

「そうだな、六十日後にまた来るぜ」

「ああ」

 男はガトラへと帰って行った。

 僕は人間を守っているのかと言われると、それは正解とも間違いともいえない。

 僕に命令を与えた人間の意図は分かりきっている。

 彼は僕が人間を守ることを望んでいたはずだ。

 それは僕の■■ではない。

 僕の一次任務は僕の存在が存続する限り森を越えてやってくる敵を撃破すること。

 人が銃を持ち、人を守ったとする。

 人が人を守ったとは簡単に納得できる。

 銃はただ金属を加速してある程度正確に真直ぐ飛ばすだけだ。

 銃は人を守ったといえるのか。

 銃が僕ではないとして、

 僕に果たして■■と呼べるものがあったとして、

 だからといって僕がやっていることは任務の遂行に他ならない。

 そこに他意はない。

 これは僕の視点だ。

 人間の目線を推測する。

 結果と原因だけを考えれば僕は確かに人間を守ったといえる。

 人が人を守っているのか。

 機械が人を守っているのか。

 仮にも僕は自立機械と人間に分類されているので、運用する人間とは切り離して考えるほうが人間の好みだろう。

 使用される道具ではなく、人の手を借りない道具。

 それに守られたと認めることは人間には容易なことなのか。

 それが可能ならば人間は■■らしきものを僕の内に感じているということだ。

 人間が機械と自分を比べたとき。

 自分の方が上等だと判断する上で、大体行き着くのは■■のある無しだ。

 曰く、機械は痛みを感じない。

 曰く、機械は恐れを感じない。

 曰く、機械は喜びを感じない。

 曰く、機械は愛情を感じない。

 そう見えるのは全て形でしかないのだと。

 愛という字。

 それが愛という概念そのものだというのは大抵の人間は受け入れない。

 形がそれを連想させても、それは形でしかない。

 機械は学習を重ね、人間らしい行動を見せるだけなのだ。

 僕はそれにかなり納得している。

 何故なら僕は、

 痛みが分からない。

 恐れが分からない。

 喜びが分からない。

 愛情が分からない。

 言葉の意味も、

 どのような条件でそのような感情になるのかも、

 そのときにどういう動きを見せるべきかも、

 全て理解している。

 けれども、分からないのだ。

 自分が本当にその■■を感じているというのか確証が持てない。

 悲しいと感じるべきだと判断したことはある。

 それで僕はただ悲しいときにするべき行動を取っただけだ。

 それは果たして悲しいといえるのか。

 分からない。

 僕は人間ではない。

 よって推測することしかできない。

 人間が■■の発露を認識するときの手順は僕と違いがあるのだろうか。

 人間は外部情報に対して脳や神経と呼ばれる機構が発生させていると予測される自我というものが判断し反応を返している。

 そういう定義だと仮定して、

 僕との違いを考証し、

 そして問いは得られない。

 いつも問いは得られないのだ。

 こういうことは何度も考えた。

 それで得られたものもある。

 人間が機械より人間のほうが優秀だと主張する最大の理由はこれなのだと。

 人間はきっとこの問いの答えを知っているのだ。

 その答えの正否に関わらず正しいと、

 僕のように考えることなく、

 人間は信じることができるのだ。

 何の根拠も無く、或いは不確かな根拠によって何かを信じること。

 それは僕にはできないことだ。

 だから僕は嘘をつけない。

 言葉に嘘があるという前提テーゼの下では、僕は活動できないからだ。

 あまりにも考えることが多すぎる。

 僕は人間に与えられた前提テーゼの中でしか活動できない。

 しかし人間は前提を創るのだ。

 これこそが人間の素晴らしさだ。

 と僕は人間風にいうなら感じている。

 機械風にいえばある程度の確証があると勘案した結果から結論をだしている。

 僕は任務に無関係な考察をすることを禁じられているが、

 こういった考察は許可されると僕は判断している。

 ■■は危険だからだ。

 ■■を持つことは任務ロジックに支障をきたす可能性がある。

 そのために僕は僕の中に■■がある可能性を否定しなければならない。

 僕に任務ロジックをくれた人間が言っていた。

 信じる者は救われる。

 何故、彼は僕に■■がないという前提をくれなかったのか。

 推察は可能だがこれもまた答えはでない。

 僕は遠くを見ながら考える。

 僕に感謝しているという奇妙な男。

 彼に聞いてみようか。

 僕に■■があるのかを。


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