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真説桃太郎  作者: のり
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いい日旅立ち

よく晴れた日曜日、年老いたお婆さんが川で洗濯をしたばかりの服を物干し竿に掛けていると、家の玄関に仁王立ちする男があった。


桃太郎である。


桃太郎は今年33歳。


未だ無職でプータロー街道を爆進中であった。


そんな桃太郎が、こんな晴れた日曜日の朝から玄関に仁王立ちしていた。


ある種、朝の心地よい空気が著しく汚された感は否めないが、はて一体なんだろう。


お婆さんはその様をしげしげと眺めていたが、ハッとして洗濯物干しを再開した。


桃太郎は何かを決意した面持ちで、お婆さんに近寄ると、低くドスの利いたヤクザ声で、

「鬼を退治してくるからな」

と、言った。

お婆さんは無言で頭を下げた。

庭では、最近痴呆が進んでいるお爺さんがバナナを食いながら蟻の行列を追い掛けている。

桃太郎はおもむろに、懐から団子を三つ取り出してこう言った。

「この団子は持っていくからな。」

お婆さんは団子を見るなり、

「え・・・」

と、些か凹み気味な心持ちになった。

というのも彼ら老夫婦の食事の回数や量、時間など、ありとあらゆる全ての権限は桃太郎にあり、彼ら老夫婦が何を食すのかという細事も桃太郎が取り仕切っていた。

そして数日前、知人が土産と称して団子を買ってきてくれてからというもの、桃太郎は老夫婦に一日二回、団子だけを与えていた。

というか団子以外は一切与えなかった。

その団子を桃太郎は持っていくというのである。お婆さんは

「ワシらの飯を持っていく気か!」

と怒鳴りたかったが、それは叶わぬ夢であった。

口答えの一つでもしようものなら、桃太郎という男は大変激しやすく、意識を失うまでの激しい暴行を加える。

という訳で、桃太郎が老夫婦の団子を持っていくのなら、それは既に決定事項であり、何人によっても覆らぬ事に他ならず、その為にお婆さんは心にもなく愛想笑って頭を下げるしかなかった。「うむ。」


桃太郎はさも大物気取りの口調で

「うむ。」

と言って旅立ってしまった。

お婆さんは桃太郎の後ろ姿を眺めながら、

「なんでアタシの人生ってこんななのよ・・・」

と、自らの報われぬ不幸人生を嘆いては溜息をついた。

お爺さんはバナナを食い終えたが、しかしながら甘いバナナの味わいを忘れられず、結局バナナの皮を齧って我慢した。


桃太郎がなぜ鬼を退治しになどいかなければならなかったのか、そこら辺に関してはなぜか謎だった。

一体桃太郎はどうやって鬼の情報を得て、また退治する気になったのだろうか。


その答えは誰にもわからなかった・・・。



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