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元社畜事務員は定時で帰りたい〜神の文房具で世界を添削してたら、冷徹公爵が有休取って追ってきます〜  作者: 月神世一


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第一章【異世界への転勤初日は、定時退社でお願いします】

満員電車とジャージの女神、そして神の修正テープ

「……また、終電か」

ガタン、ゴトン。

深夜帯にもかかわらず、すし詰めの満員電車に揺られながら、宝木リン(25歳・一般事務)は虚無の瞳でつり革を握りしめていた。

本日の残業理由:『上司が発注の桁を一つ間違えたトラブルの尻拭い』。

もちろん、残業代は「みなし」という魔法の言葉で消滅している。

(定時で帰りたい。誰にも怒られず、誰の機嫌も取らず、自分の部屋で温かいご飯を食べて寝たい……)

毎日同じ時間に同じ電車に押し込まれ、他人の苛立ちや香水の匂いに当てられながら、ただ生きるためだけに自分をすり減らす日々。

ふと、隣に立つ人物の気配に違和感を覚えた。

こんな深夜の満員電車の中で、ピンク色の芋ジャージに健康サンダルという、極めて場違いな格好をした女性が立っていたのだ。

しかも、手にはピアニッシモ・メンソール。なぜか周囲の乗客は彼女に全く気づいていない。

「お疲れ気味ねぇ。顔色、死んでるわよ?」

ジャージの女性は、気だるげにリンを見上げて言った。年の頃は……不思議なことに、17歳くらいにも見えるし、それ以上にも見える。

「……幻覚を見るくらいには疲れてるみたいですね、私」

「失礼ね、私は世界神ルチアナ。永遠の17歳よ。ちょっと予算……ゲフン、ゴッドチューブのPV稼ぎ……いや、可哀想な魂の救済に来たの」

ルチアナと名乗った自称・女神は、ジャージのポケットから飴玉を取り出して口に放り込んだ。

「ねえ、人生やり直してみる? 今度は自分の好きなように生きられる異世界でさ」

異世界転生。深夜のネット小説でよく見る単語だ。

もし、本当にそんなものがあるなら。

「……定時で帰れますか?」

「は?」

「他人の尻拭いをせず、絶対に17時で帰って、自分のペースで温かいご飯を食べられる人生なら……行きたいです」

「あははっ! あんた最高ね。いいわよ、そういう『我慢しない女』、私大好き! 特別なユニークスキルをサービスしてあげる!」

ルチアナが指パッチンをした瞬間。

満員電車の息苦しい空気が、弾けた。

眩い光が収まった後、リンが立っていたのは、深夜の電車内ではなく、青々とした木々が生い茂る見知らぬ森の中だった。

「……本当に、来ちゃった」

足元はアスファルトではなく土。空気は澄んでいて、嫌な香水の匂いもしない。

だが、感動に浸る時間は1分も与えられなかった。

「グギャアアアアッ!」

茂みを掻き分けて飛び出してきたのは、緑色の肌をした醜悪な小鬼――ゴブリンだった。

濁った瞳でよだれを垂らし、錆びたナタを振り上げてリンに向かって一直線に突進してくる。

「えっ、嘘でしょ!? 異世界転勤の初日から命の危機とか聞いてない……っ!」

思わず後ずさりしたリンの脳内に、無機質な、だがどこか聞き慣れた電子音が響いた。

『ピロン♪ ユニークスキル【神の文房具(ゴッド・ステーショナリー)】が起動しました』

「文房具……!?」

次の瞬間、リンの右手に「それ」が握られていた。

オフィスで毎日死ぬほど使っていた、見慣れたフォルム。ただし、サイズ感は両手で抱えるほど巨大だ。

――【修正テープ】。

「グギャッ!」

ゴブリンのナタが振り下ろされる。

死を覚悟した瞬間、リンの前世で培われた『事務員としての防衛本能』が完全に限界を突破した。

(こんな理不尽、私の人生の予定表には入ってない……!)

「これ、フォーマット違反(エラー)です!!」

リンは巨大な修正テープの先端を空中に押し当て、ゴブリンの突撃軌道に向かって、力任せに「ビーーーッ!」と引いた。

その瞬間。

空間そのものに、真っ白なテープが引かれた。

「……グギャ?」

修正テープが重なったゴブリンの右腕とナタが、まるで最初から「そこになかった」かのように、空間ごと真っ白に塗りつぶされて消滅したのだ。

「え……?」

「ギャ、グギャアアアアアッ!?」

パニックに陥り逃げ出そうとするゴブリン。

だが、リンの目はもう、仕事のミスを発見した事務員のそれになっていた。

「逃がしません。あなたという存在自体が、私の定時退社の邪魔(バグ)なので!」

ビーーーーッ!!

追い打ちをかけるように、ゴブリンの全身に修正テープを引く。

悲鳴すら途切れ、森の中には「不自然に真っ白な長方形の空間」だけがポツンと残された。

「……消えた」

手元の巨大な修正テープを見る。

剣や魔法なんかじゃない。ただの、事務用品。

でも、これがあれば。

『どんな理不尽な事象(ミス)も、私が全て消去できる』

「……ふふっ」

自然と、笑みがこぼれていた。

前世では他人の尻拭いばかりで、自分の人生のミスを修正することすらできなかった。

でも、ここなら。この力があれば、私は私の居場所を作れる。

「よし。まずは、休める場所を探そう。……本日の業務は、ここまで」

修正テープを肩に担ぎ、リンは森の出口へ向かって歩き出す。

木々の隙間から、古びた看板が見えてきた。

『ようこそ、ポポロ村へ』

そこが、元社畜事務員の彼女が、最強の仲間たちと共に辺境を「完全ホワイト化」していく、伝説の始まりの場所だった。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!

元社畜事務員のリンが、最強の(そして身近な)チート能力【神の文房具】を手に入れました。

これからポポロ村で、ヤンデレ村長や貧乏神アイドル、がめつい商人、そして「休むことを知らない冷徹公爵」を巻き込んで、定時退社のための大暴走が始まります!

「リンに定時で帰ってほしい!」「修正テープのチート感が好き!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、

ぜひページ下部にある【ブックマークに追加】と、【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価していただけると、リンの残業時間が減り、作者の執筆スピードがマッハになります!

皆様の応援が、何よりの栄養ドリンクです。

明日の更新も、ぜひ楽しみにお待ちください!

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