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かわったまめのき

掲載日:2026/03/18

さく:ぎょうむすいこうせきにんしゃ

え:ぐろっく

挿絵(By みてみん)


ぼくは、とくべつな まめです。

おかあさんが、そう 言いました。

「おまえは ちがう。おまえは とくべつだよ」と。

おかあさんの えだの いちばん 先に、ぼくは 生まれました。

ほかの まめたちより、すこし 大きくて、すこし まるくて、すこし つやつや していました。

雨が ふると、ほかの まめたちは ふるえていました。

風が ふくと、ほかの まめたちは ないていました。

でも ぼくは ちがいました。

ぼくは とくべつでした。

おかあさんの えだは、いつも ぼくを いちばん 日の あたる ところに むけていました。

ほかの まめたちには そんなことを しませんでした。

ぼくだけに、していました。

やっぱり ぼくは とくべつなのだと、ぼくは 思いました。


ぼくは きめていました。

ぼくは いつか、りっぱな みそに なる、と。

とくべつな まめは、とくべつな ものに なるのです。

おかあさんは 何も 言いませんでした。

でも きっと、そう 思っていたはずです。


ある 秋、おおきいにんげんさんの 手が やってきて、わたしたちを もぎました。

ほかの まめたちは こわがって ないていました。

でも ぼくは なきませんでした。

とくべつな まめは、こういうとき、おちついて いるものです。

おかあさんは、風に ゆれていました。

ぼくは そのまま、はこばれていきました。


つめたい ところに いれられて、くらい トラックに のせられました。

小さな すきまから 外が 見えました。

木が うごいていました。

空が ながれていました。

ぼくは とおくへ、どんどん とおくへ はこばれていきました。

ほかの まめたちは 不安そうに していました。

でも ぼくは ちがいました。

これは 旅です。

とくべつな まめには、とくべつな 旅が あるのです。

ぼくは むねを はりました。


お店の たなに ならびました。

明るくて、広くて、たくさんの 人が いました。

ほかの まめの ふくろは どんどん えらばれていきました。

一日が すぎました。

また 一日が すぎました。

ぼくの ふくろは、なかなか えらばれませんでした。

すこし、さびしい 気も しました。

でも ぼくは 知っていました。

とくべつな まめは、とくべつな かぞくに えらばれるのです。

だから すこし、まつのです。

ぼくは まちました。

ずっと、まちました。


ある 日、おおきいにんげんさんが ちっちゃいにんげんさんを つれて やってきました。

ちっちゃいにんげんさんは たなを 見て まわって、ぼくの ふくろを さして「これがいい」と 言いました。

おおきいにんげんさんは ぼくの ふくろを かごに いれました。

やっぱり。

ぼくは えらばれました。

とくべつな まめだから。


家に つきました。

おおきいにんげんさんと ちっちゃいにんげんさんが 中に 入ると、もっとおおきいにんげんさんが いました。

ご飯の においが して、だれかが わらっていました。

にぎやかで、あたたかい 家でした。

ぼくは 台所の たなの おくに しまわれました。

くらくて、しずかな ところでした。

外から かぞくの 声が 聞こえてきました。

わらい声が 聞こえてきました。

ご飯の においが してきました。

でも ぼくは 知っていました。

たいせつな ものは、おくに しまわれるのです。

それが とくべつな まめの いる ばしょです。

ぼくは おくで、じっと まちました。


冬に なりました。

ある 日、もっとおおきいにんげんさんが ぼくの ふくろを とりだしました。

ちっちゃいにんげんさんが よろこんで とびはねました。

もっとおおきいにんげんさんの 手から、ぼくは とびだしました。

空を とびました。

つめたい 空気を きりました。

そして、ベランダの すみに おちました。


さむかったです。

くらかったです。

だれも むかえに きませんでした。

でも ぼくは 知っていました。

これは 外で じゅくせい させられているのです。

りっぱな みそに なる まえに、外の 空気に あてられるのです。

とくべつな まめには、とくべつな じゅくせいが ひつようなのです。


何日か たちました。

だれも きませんでした。

すこし、不安に なりました。

にんげんさんたちは、ぼくを わすれているのでしょうか。

いいえ。

そんなことは ありません。

これは 長い じゅくせいです。

ぼくは 信じました。


それでも、だれも きませんでした。

からだが おもく なってきました。

色が かわってきました。

においが して きました。

でも きっと、これが じゅくせいの においです。

みそに なる まえの、たいせつな においです。

ぼくは とくべつだから。

おかあさんが そう 言っていたから。

ぼくは 目を とじました。







 三月の朝、ベランダに薄い霜が降りていた。

 節分から数週間が経っていた。隅に転がったいくつかの豆は、黒ずんで、縮んで、元の形をほとんど留めていなかった。雨に打たれ、霜に晒され、風に転がされた豆は、もうどれがどれかもわからないほど似たような色になっていた。春の気配が少しずつ近づいていたが、ベランダの隅まではまだ届いていなかった。


「ママー」


 男の子がガラス戸を開けて顔を出した。




「あー! おそとで まめが くさってるー!」


母親が台所から声を返した。


「えー?ああ、ごめんね。拾って捨てられる?」


男の子は豆をひとつ拾おうとして、やめた。


「やー!!くさーーい!」


ガラス戸が閉まった。





大豆(Glycine max)は、マメ科ダイズ属に属する一年草。

原産地は中国東北部とされ、栽培の歴史は五千年以上にわたる。東アジア全域で広く栽培され、現在では北米・南米・アフリカ等でも主要農産物として位置づけられる。


茎の高さは品種により異なるが、一般に30〜90cmに達する。葉は三出複葉で、夏から秋にかけて白色または淡紫色の小花を咲かせる。果実は莢状で、内部に通常2〜3粒の種子を含む。種子の色は品種により黄・黒・茶・緑など多様である。


種子の乾燥重量に占めるタンパク質の割合は約38%、脂質は約18%であり、植物性食品の中でも高タンパク・高脂質の部類に属する。必須アミノ酸をバランスよく含むことから、「畑の肉」とも称される。炭水化物・食物繊維・ビタミンB群・カルシウム・鉄分なども豊富に含む。

用途は食用にとどまらず、油脂原料・飼料・工業用途など多岐にわたる。食用としては豆腐・納豆・味噌・醤油・豆乳・油揚げなど多様な加工食品の原料となる。世界の大豆生産量の約70〜75%は飼料および油脂原料として利用されており、食用に供される割合は比較的小さい。


根には根粒菌(Bradyrhizobium japonicum)が共生し、大気中の窒素を固定する能力を持つ。この性質により、土壌改良作物としても重用される。


なお、極めて稀な個体において、原始的な自己認識に類する反応が観測されている。しかしながら当該反応を「思考」と呼称することは、思考という概念に対する著しい侮辱に当たりかねない。観測された反応の内実は、外部刺激に対する単純な誤応答の域を出ず、自己が置かれた状況の把握・未来の予測・因果関係の理解、いずれの水準においても、幼児以下の認知能力にすら到達していない。仮に当該個体が「自分は特別だ」「熟成されている」等の判断を下しているとすれば、それは思慮と呼べるものではなく、ただの誤作動である。人間がこれを考慮する必要は、現在においても将来においても、一切存在しないだろう。

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