EPISODE3.藍翔の想いと敵組織の会談
藍翔が元気そうに振る舞いながら歩いていると、背後から誰かの声を聞こえた。
「ほら。そこ、動かないで」
「全く、急に声をかけてきて一体誰なんだよお前・・・って、いつの間に本部に来てたんだ?」
藍翔の背後に潜伏してたのは、空月奏乃。藍翔の従姉妹で、五歳年下。
言い忘れてたが、藍翔と遥斗は同い年で十九歳。
すなわち奏乃は今、十四歳である。
「えっへへ。やっぱり、藍翔の驚く姿、なまらめんこいって思うんだ」
「おいやめろって。こっちまで恥ずかしいじゃねえか」
藍翔の元気そうな姿に奏乃が微笑んだ。
「しばらく学校で忙しくて、会えなくて残念だったけどようやく夏休みだからわざわざ北海道から飛行機で来たよ。にしても怪我、酷いね」
怪我の箇所をツンツンする奏乃に藍翔がムスッとした顔で話をする。
「痛っ。こ、これくらいは軽傷だ。ところで両親はどうしてる?」
「元気だよ。うん。藍翔のこと、心配してた。『一人暮らし大丈夫だろうか』とか『友達できたかしら』とかしつこくて・・・」
ちなみに、藍翔の両親は北海道で有名な飲食店を営んでいて、藍翔は東京にある大学に通うという理由で高校卒業後に北海道を離れた。
電話でやり取りはするものの、一年ほど顔を見せていない。
「そうか。そろそろ帰らないとなあ。今度、有給休暇でも出そうかな」
「いいんじゃない?それよりさ、司令室に用事あるんだけど、藍翔もきっと用事あるでしょ?一緒に行っていい?」
奏乃が目を輝かせながら甘える。
「はぁ。そこまで言うならいいぜ。早く行こうか」
藍翔がため息つきながら、司令室に向かう。
その後ろ姿を見て、奏乃は嬉しそうに後を追った。
「失礼します・・・」
「失礼しまーす」
暗い表情をしている藍翔と明るく振る舞う奏乃との緩急の差が激しい。
「奏乃ちゃん、おひさ。藍翔さんは・・・お疲れ様です」
眠そうにキーボードを打ち込んでいた夏帆が二人を見かけて声をかける。
「俺だけ、辛辣じゃねえか・・・?」
少しショックを受ける藍翔に対して奏乃は嬉しそうに夏帆の元へ駆け寄る。
「夏帆さん!お久しぶりです」
「うん久しぶり。元気だった?勉強大丈夫そ?」
奏乃が嬉しそうに胸を張る。
「問題なしですよ!お陰様で」
「ならよかった。ところで二人とも要件があってきたんでしょ?なら早めに言って。仕事増やしたくないというか定時退社したいの」
現在時刻、午後五時三十分。
ЯEBIRTH CODEの定時退社は午後六時。
まあ定時退社する人なんかほぼいないというのが現状。
深夜でも異変は起きるものだから・・・。
そもそも残り三十分で二人の要件全てを終われるのかどうか・・・。
先に藍翔が起きた事象をメモで書き込みながら夏帆に口頭で説明する。
「まずは侵入者の件だが、一名撃破、もう一名はあと一歩のところで消えました。これがその戦闘データです。もうひとつ。遥斗が倒れた」
「・・・あの、さ。冗談やめてよね」
夏帆が苦笑い。
「こればかりは、冗談じゃない。今からそうだな、1時間ほど前くらいか。ま、気になるなら仕事終わりにでも行けば?」
藍翔が肩を竦める。
「どうでもいい・・・」
夏帆がプイと視線を逸らす。
「そうか。とりあえずこっちの報告は終わり。あとは、奏乃の話、か。どうせ長話になりそ・・・」
「なんか言った?」
「すみません。なんでもありません・・・」
奏乃の怒りに触れた気がした藍翔は急いで謝る。
「っと、話は変わるけど、状況は結構やばい。最近、北海道にこんな人たちがいたんだ。見るからに怪しいでしょ?だからね探り入れようとしたの。でもね、撒かれたの・・・嫌な予感が当たらないといいのだけれど。一応、GPSは取り付けたから、あとはよろしくお願いします」
奏乃がお辞儀をして司令室を出る。
「お邪魔しました」
藍翔も奏乃を追うように司令室を出た。
すぐ近くにあった自販機で飲み物を購入し、ベンチに座った二人。
「さてと、今回もまた無茶をして・・・呆れてくるよ」
「わりぃわりぃ。でも、まあ、今回ばかりは大目に見てやってくれ」
藍翔が美味しくなさそうにカフェラテを飲む。
「苦手なら別の買えばよかったじゃん」
「うるせぇ。そういう気分なんだから」
と言いつつ、藍翔が少し寂しい顔をしている。
「やっぱり、遥斗さんのこと?」
「え、あ、バレちまったか」
奏乃がバレバレだよみたいな顔をする。
「あいつは、良い奴なんだよ。でも、代償を払いすぎている」
「代償?何を言って・・・っ」
奏乃がある不自然な点に気づいた。
「もしかして・・・あの、力の正体・・・って」
「ああ。今考えていること、それが正解だ」
奏乃が泣き出しそうになる。
「だって、だってえ、そんなのあんまりだよ・・・いくらなんでも・・・残酷すぎる」
「だからこそ、俺は、あいつを助ける側でいたい。命をかけて戦うやつを食い止めるストッパーでないといけない」
「助ける、ね」
奏乃が自分に言い聞かせるように呟いた。
「そういう気持ちがあるのはいいんだけどさ、くれぐれも、気を付けてね。私、これでも心配症だから」
「ああ。わかってる。じゃあ、遥斗のところへ向かうよ。気をつけて帰るんだぞ」
藍翔が歩いていく様子を見た奏乃は神に祈った。
「どうか、ここ先の戦いに不幸が起きませんように」と。
「・・・っ。ここ、は・・・」
周りを見渡して一言つぶやく。
「僕は、倒れたのか・・・」
遥斗は、静かに起き上がると、身体中に取り付けていた機械が外れ、アラート音が鳴る。
「機械のアラート音も煩わしい。だが、一体何があった?なぜ、僕が医務室なんかに・・・」
その時、髪の毛がボサボサの空癒がやってきた。
「遥斗!?無理やり起きたらダメだって!」
「元気だから別にいいだろ」
「ダメなものはダメなの」
空癒の必死さに遥斗が渋々引き下がる。
「で、僕はどうしてここにいる?」
「希々から、2階の会議室付近で話してる途中で遥斗が倒れたって報告あったから医務室に連れてきただけ。検査は終わったけど、一応数日は任務に出たらダメだよ」
検査結果の紙を見せる。
遥斗が「そっか」と呟いて、立ち上がる。
「遥斗。その様子じゃ元気そうだね。最後にひとつだけ聞いていい?」
「どうぞ」
空癒は、ずっと気になってたことを聞く。
「その力は、一体、どこから湧き出てるの・・・?」
「・・・気づいてたか・・・。その考えの通りだよ。命を削って放つのが朧影斬。まあ、しょうがないよ・・・。だって、こうでもしなきゃ、僕の存在価値はないからね」
遥斗の笑い方はどこか、不気味だった。
「そんな生き方で本当にいいの?だってまだ、遥斗は十九だし、先は長いんだよ?」
「関係ないよ・・・。僕は、最後まで命を削って戦っていくから」
遥斗が歩きだそうとした時、医務室のドアを勢いよく開けて二人の人物がやってきた。
「話は聞いたぞ。遥斗」
「なんで、そんなことしてたんですか?」
そこにいたのは、傷だらけの藍翔と、司令室で藍翔に言われたことが気になってやってきた夏帆だった。
たまたま通路で出会って、ここまでやってきたらしい。
「藍翔に夏帆・・・。空癒・・・まさかこの様子、聞こえてた?」
「そうかもね。まあ、事情はさっき言ってた通り、問い詰めるならご自由に。遥斗。ちゃんと説明責任果たしなさいよ?」
空癒が怪しい目をして医務室から去る。
「さてと、バレちゃったら仕方ない。そうだよ。僕は、命を削って戦っていた。ずっと昔からね」
「なんとなく、察してたけど、いざ言われると実感がねえな」と藍翔は苦笑する。
「私にはなんも言ってなかったのに・・・酷いよ」と夏帆が涙を流す。
「だって、言えるわけないじゃん・・・僕だってそのことに気づいたのが二年前だから・・・」と遥斗は二人を見つめ、泣きながら、続きを述べた。
「僕だって、そのことに気づいた時は、泣いた。なんで命削らないといけないんだろうって。でも、使っていくうちにそのことを気にしなくなっていた。むしろ、そのことを知っていても元気であるかのように振る舞う。気づけばこの流れが染み付いていた。気づかれたら、余計に任務を全うできなくなる。それだけは避けたかった。でも、二人にバレちゃった。もう、存在価値なんかないよね・・・」と自嘲気味に話す遥斗。
その時、バチンという音が鳴り響いた。
藍翔が遥斗の頬を叩いたのだった。
「『なにが存在価値なんかないよね』だ。ふざけんなよ。いつからそんな風に変わったんだよ!!お前は、忘れたのか?忘れたとは言わせない。去年、お前が、任務の途中で傷だらけになって倒れていたあの日。初めて思った。遥斗も人間なんだって。もちろん、いい意味でだ。ずっと出会ってから力も行動も人間離れしていた。逆に任務中に怪我はするし、おっちょこちょいだし、結局人間なんだなって思った。俺は、お前が親友だと思うし、ЯEBIRTH CODEにいないと困る存在だ。だから、自分を責めないでくれ」
藍翔が言い終わると、夏帆が泣きながら遥斗を抱きしめる。
「私だって最初出会った時、怖い人だって思った。でも、一緒に行動したり生活するうちに、遥斗兄ちゃんは人間だと思った。私からしたら、大切な家族だし、大切なメンバーだから、存在価値ないとか言わないで・・・」
二人の言葉に遥斗が少しだけ声を震わせて呟いた。
「二人とも、ごめん・・・」
医務室には暖かい雰囲気が漂っていた。
空癒は医務室から出て、希々の元を訪れていた。
「希々・・・。初めての任務で、しかもまともに戦闘訓練させてないのに、こんな怪我をさせてしまって、申し訳ない・・・」
希々は意識を失っており、酸素マスクをつけている。
身体全体を見ると、痛々しい傷が至る所に見受けられる。
「ねえ・・・みんなが待ってるんだよ?だから、早く起きてよ・・・希々」
空癒が希々の髪をそっと触る。
「空癒さん・・・来てたんだ」
白髪のショートボブに編み込みの水色のメッシュが映える1人の女性が替えの点滴を持ってやってきた。
彼女の名前は、空癒と同じ医療班の科白希空。年齢は十五歳。家庭が裕福なため、学校は中高一貫校に通っている。
空癒さんを尊敬する見習いである。
「まあね。彼女の責任は私にあるから・・・」
「責任?」
希空が首を傾げる。
「私があの時、一緒に医務室にいることを選んでいたら・・・彼女は・・・希々は傷つかなかったのに・・・」
空癒が、静かに弱々しい声で呟いた。
「起こってしまったことは後悔しても取り戻せないことは、空癒さんもご存知じゃ?」
希空が、優しく諭すように問いかける。
「わかってる・・・わかってるよ。でも、後悔するものなんだよ。それだけ、私は希々が全てを握ってると思ってるし、希々を信じてる。だから、治療の方をよろしく頼むよ。希空」
「は、はい!」
空癒が去っていく姿を見届けた後、希空が希々の調子を見る。
「見た感じは意識が回復するまで、早くても明後日。遅くても今週中には回復するとは思うけど・・・こればかりは、どうだろう・・・希々さん次第でしょうか」
希空が診察レポートを書きながら扉の方を見た。
元気そうな二人のうち、藍翔の方の怪我が酷いことに気づいた希空が慌てて包帯と消毒液を取り出してきた。
「遥斗さんは元気そうですね。あと藍翔さんは、怪我が酷いですね。怪我、治療しますね」
急いで消毒液を傷口にかけ、包帯で巻く。
「これで応急措置は完了です。さて、二人揃ってここに来たってことは、おそらく希々さんのことでしょうか」
「話が早くて助かるよ。希々の状態は?」
遥斗が治療室を見渡す。
「気を失ってますが、生きてますよ。空癒さんから聞きましたが、藍翔さん、あなたは少しは新入りの扱いを考えた方がいいかと」
「うぐっ。そ、それはまあ、そうかもしれないけどさ」
藍翔がたじろぐ。
「そうですか。なら、これからは気をつけてくださいね。希々さんの状態を聞いて会わないなんて、それでいいのですか?」
「本当は会いたいけど、今は時間がないから、時間があったらまた来るよ」
遥斗がそそくさと出ていく。
「お騒がせしました」
藍翔が遥斗を追って出ていった。
「全く騒がしい人達ですね。先行き不安ですけど・・・きっと大丈夫でしょう!」
希空が希々を一瞥して、治療室から出ていった。
ー都内某所ー
廃ビルの一室が灯りに照らされていた。
廃ビルの一室にしては似つかない豪華なテーブルと椅子が置いてあり、椅子に四人の人のような何かが座っていた。
「ボス、お目当てのお客様が来ましたよ」と優しい慈愛に満ちた女性の声が部屋に響いた。
真っ白なストレートヘアに透き通った藍色の瞳。
他のみんながフードをつけている中、ただ一人フードを外していた。
「さて、と。今回の結果はまずまずと言ったところか。しかし、試作の薬を投与するのはなかなかに勇気ある行動だったと思う」とボスと呼ばれる声の低い男性の声が部屋に響く。
「あ、ありがとうございます・・・」
怯えている女性は、先程ЯEBIRTH CODEの本部を攻撃した女性に他ならない。
「ただし。一人、同胞を失った。それだけで君はクビになる。わかっていたでしょう?ボスだってそれを条件に加えてたはずですわ」と先程の女性の声。
「も、もちろんです・・・だから、もう1回チャンスを・・・」
怯えてる女性が四人の姿を見据えて懇願する。
「甘いね。そんな簡単にチャンスを与えれる人がいたら何も苦労しない」と今度は先程の男性とは違う中性的な声が響いた。
眠そうにフードを外すと顕になったのが、少年と言っても過言でないほど身長が低い黒髪、黒色の瞳を持つ男性。
「というわけで君を今日いっぱいで処刑とする」
ボスが指を鳴らす。
女性は、身体を炎に包み込まれながら叫んだ。
「そ、そんな・・・嫌です。私はもっと、うわああああああ」
燃え尽きるまで約五秒。
「こんなことに力を使うなんてもったいないと思うな。ボス」
先程の中性的な声の人物がボスと呼ばれる人物に意見を求める。
「まあ、任務をこなせない奴の処遇はあれでいいのだ。ところで・・・」
三人の視線が先程から何も言葉を発してない人物を見据えている。
「いつまで黙っているつもりかね?蓮唯」
蓮唯と呼ばれた人物がずっと被っていたフードを外した。
銀髪の整った髪で、瞳はあらゆるものを跳ね返す鏡のような銀色。
そう、彼こそがかつて行方不明となった希々の兄、音華蓮唯に他ならない。
「退屈だった。ЯEBIRTH CODEの本部が今でもある。それだけ聞ければ、俺としては何も問題は無い」
蓮唯が立ち上がって部屋から出ようとした時だった。
「そういえば、ЯEBIRTH CODEって、あんたが前までいた場所だよね?なんで僕たちの組織に入ったの?」
「俺は、あそこを恨んでいる。だから、単独で任務を受けた。そして、行方不明と偽ることでこっちに来た。簡単なトリックだろう?」
蓮唯が肩を竦め三人を見据える。
「一つだけ言っておく。こんな俺でも妹がいた。そして、俺はあいつに会わないといけない。だから、しばらくは自由に動かせていただく。何かあったら呼べ」
そう言い残し、蓮唯が部屋から出ていった。
「面白い人を連れてきましたわね」
「人体改造実験に二年かけ、そこから実戦経験を重ねたあいつを倒せる人など、そう簡単にはいるまい。それに、あいつには“あえて”感情を残した。なぜなら・・・」
待ち焦がれているようにボスの声を待つ二人。
「あいつは、この世界の命運を左右する“特異点”だからだ」
ボスが不敵な笑みを浮かべた。




