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第二話 魔導士見習いと村の大騒動

毛布にくるまりながら立ち上がる。下着一枚のままではいくら温めても寒さは取れない。少女――銀髪の魔導士見習いは、心配そうにこちらを見ていた。


「本当に、大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫……ただ、寒いけど」


床に置かれた水差しを見て、俺は脱力したまま手を伸ばす。井戸に落ちた直後の震えがまだ残っている。少女は手早く水差しを持ち上げ、少し離れたところから様子を見守った。


「……名前は?」

「レインです」

「私はリルナ。王都から来た見習い魔導士です」


リルナ。なんだか、名前だけでも世界が違う気がする。どこか上品で、けれど親しみやすい。井戸に落ちたばかりの俺には、天使に見える瞬間もあった。


「冒険者……ですか?」

「いや、違います。仮ですらない」

「仮でもないのに、井戸に落ちるなんて……」


くすっと笑うリルナの表情に、少し緊張がほぐれる。いや、むしろ笑っている場合か。下着一枚のまま井戸から出てきたんだぞ。胸の奥が赤くなる。


◇◇◇◇◇


そのとき、村人の一人が焦った声で叫んだ。

「大変だ! 村の倉庫に火事だ!」


村人たちは慌ただしく走り出す。どうやら井戸に群がっていた人たちも、さっそく駆けつけるらしい。俺も立ち上がり、リルナを見た。


「……え、行くの?」

「はい、手伝えるなら手伝います」


リルナはためらいなく応じる。俺も、やっぱりついていくしかないだろう。勇者じゃないけど、動けるだけ動こう。


村の倉庫に着くと、炎はまだ小規模だが、屋根に燃え広がるのは時間の問題だ。

「水! 水を持ってこい!」

「レインさん、桶を使ってください」


リルナは手早く火の周囲に魔法の障壁を張る。炎が少しずつ弱まり、煙が宙に巻き上がる。俺は慌てながら水を運ぶ。…いや、慌てるしかできない。


「もっと右! 左じゃ届かない!」

「はいっ!」


声がけに必死に応えながら、なんとか消火に貢献できた気がする。最終的に炎は落ち着き、煙だけが空に昇っていく。村人たちからは拍手が起こった。俺は息を整えながら、リルナの方を見た。


「すごい……魔法、使えるんだな」

「まだまだです。でも、役に立ててよかった」


その笑顔は、井戸のときと同じく、少し遠くて落ち着いた輝きを持っていた。俺は自分の無力さに気づきつつ、同時に彼女と行動を共にする心強さも感じていた。


◇◇◇◇◇


消火後、村長がやってきて、俺たちを褒めてくれた。

「若い二人が助けてくれたおかげで、大事には至らなかった」

「ありがとうございます」


俺は頷きつつ、下着一枚の状態で毛布を抱えたまま感謝する。リルナも少し笑いながら、俺の隣に立っていた。


「ねえ、レインさん。今日はこのまま村に泊まったほうがいいです。怪我もないし、私が見てますから」

「……それも、悪くないな」


そう思ったのは、単純に寒さのせいかもしれない。だが、リルナの存在が少しだけ安心をくれたのは事実だ。


◇◇◇◇◇


その晩、村の宿屋で食事をしながら、俺は考えていた。

異世界転生――そんな大それたものではない。下着一枚で井戸に落ち、村の火事に巻き込まれ、魔法少女と行動を共にする。


でも、これが俺の新しい日常の始まりなのだ。

勇者じゃなくても、英雄じゃなくても、俺には俺なりの物語がある。そして、リルナという存在が、その物語に確かに色をつけてくれる。


――最悪なスタートだったけど、意外と悪くないかもな。

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