血翼と叡智、そして失われた竜の咆哮
世界樹エルディアから生まれた存在――
マナ=エルディアスは、世界と世界の狭間で数多の知識を見てきた“世界の叡智”である。
人間至上主義を掲げ、多種族と魔物を迫害するアウレリア帝国。
秩序と繁栄を謳うその支配は、やがて差別と殺戮を正当化し、世界そのものを静かに蝕み始めていた。
「知ってしまった以上、止めずにはいられない」
世界樹の意思を胸に、マナは行動を選ぶ。
差別に抗う者、追われた魔物、居場所を奪われた種族たち――
彼らと出会い、語り、選択を委ねながら、マナは静かに仲間を集めていく。
これは、剣でも王座でもなく、
知識と意志によって帝国の歪みを正す“不死身の大賢者”の物語。
世界樹の子は問いかける。
――支配とは、誰のためのものなのか。
風が、不穏に鳴いていた。
夜明け前の森は静まり返っている。
だがその静寂は、耳を澄ませた者ほど息苦しく感じる種類のものだった。
枝葉の揺れ。
土を踏む音。
微かな金属の擦過音。
――それは、確かに「戦の予兆」。
マナ=エルディアスは足を止め、森の奥を見据えた。
「……来るね」
淡々とした声。
だが、その一言で全員が察した。
メルは一歩前に出て、銀の瞳を細める。
「……数が多いです。それに……気配が重い」
シノノメは翼をわずかに広げ、口元を歪めた。
「へぇ……これは本命だね。帝国も、ようやく本気ってわけか」
次の瞬間。
整然と揃った足音が、森を踏み鳴らした。
黒と紅の装備に身を包んだ兵士たち――十数名。
だが、その気配は、これまでの帝国兵とは明らかに違う。
「――帝国精鋭部隊《紅鉄》」
シノノメが低く呟く。
隊列の中央から、一人の男が歩み出る。
銀灰色の長髪。
右目に刻まれた紅い刻印。
鎧の胸には、階級章と――名。
「対象を確認。
世界樹の子――マナ=エルディアス」
冷え切った声。
「帝国精鋭部隊隊長、ヴァルグリム=ゼイン。
帝国の名において、貴様を――排除する」
名を持つ敵。
それは、帝国が本気で“脅威”と認定した証だった。
「……なるほど」
マナは小さく息を吐き、仲間を見る。
「無理はしない。連携を――」
「言われなくても!」
シノノメが地を蹴った。
「《血翼魔法・紅月閃》!」
血紅の魔力が夜を裂く。
だが――
「散開、防御結界!」
号令と同時に、精鋭兵たちが陣形を組む。
血の刃は弾かれ、地に霧散した。
「――今です」
メルの声。
次の瞬間、銀光が弾ける。
音もなく背後へ――刃が閃き、六人が崩れ落ちた。
それでも、足りない。
「第二陣、前へ」
ヴァルグリムが踏み出す。
その一歩で、地面が沈み、空気が軋んだ。
胸が締め付けられるような圧。
「……強い」
「名あり……伊達じゃないですね」
赤黒い剣が抜かれる。
「まとめて始末できるとは、光栄だ」
一撃。
シノノメが吹き飛ばされ、
メルも魔法の爆発に叩き伏せられる。
包囲。
完全な劣勢。
マナが前に出た、その時。
――天を裂く、咆哮。
蒼白い炎が降り注ぎ、兵士たちが吹き飛ばされた。
「――退けッ!!」
そこに立っていたのは、角を持つ青年。
蒼い鱗。
竜の瞳。
その存在だけで、場の空気が一変する。
「……竜人族……?」
「絶滅した、はずだ……!」
青年は息を整え、マナを見る。
「生き残りは、いるさ」
「世界樹の子……ようやく、会えた」
運命の歯車が、確かに――音を立てて回り始めていた。
帝国が本気で牙を剥き、物語は一気に戦局へと踏み込みました。
そして、失われたはずの“竜”との邂逅――。
血翼と叡智が交差する戦場で、新たな運命が動き始めます。
次回、彼は何者なのか。
次回もお楽しみに




