帝国、脅威としてマナを認識
世界樹エルディアから生まれた存在――
マナ=エルディアスは、世界と世界の狭間で数多の知識を見てきた“世界の叡智”である。
人間至上主義を掲げ、多種族と魔物を迫害するアウレリア帝国。
秩序と繁栄を謳うその支配は、やがて差別と殺戮を正当化し、世界そのものを静かに蝕み始めていた。
「知ってしまった以上、止めずにはいられない」
世界樹の意思を胸に、マナは行動を選ぶ。
差別に抗う者、追われた魔物、居場所を奪われた種族たち――
彼らと出会い、語り、選択を委ねながら、マナは静かに仲間を集めていく。
これは、剣でも王座でもなく、
知識と意志によって帝国の歪みを正す“不死身の大賢者”の物語。
世界樹の子は問いかける。
――支配とは、誰のためのものなのか。
夜の帳が、ゆっくりと森を包み込んでいく。
昼間の戦闘の痕跡がまだ残る草地の端で、マナ=エルディアスたちは焚き火を囲んでいた。
小枝がはぜる音だけが、静寂を破っている。
「……これが、野営ってやつか」
メルは周囲を警戒するように立ち、剣から手を離さない。帝国軍との戦闘が終わったばかりで、気を抜くことはできなかった。
「初めてにしては、うまくやれてると思うよ」
そう言ったのは、少し離れた場所に腰を下ろす翼の少女――シノノメだった。
月明かりを受け、背中の漆黒の翼が静かに揺れている。
彼女は今日、帝国軍を単独で殲滅し、正式に仲間として迎えられた存在だ。
マナ=エルディアスは焚き火の向こうから、彼女をじっと見つめていた。
「……改めて聞いておきたい。シノノメ、お前はなぜ帝国に追われていた?」
その問いに、焚き火が一瞬大きく揺れたように見えた。
シノノメは少しだけ目を伏せ、やがて小さく息を吐く。
「……やっぱり、話さないとダメだよね」
彼女は焚き火の前に歩み寄り、仲間たちと同じ輪の中に座った。
「私はね、帝国で生まれた吸血鬼族なんだ」
その言葉に、メルがわずかに眉をひそめる。
「帝国は……吸血鬼族を迫害している」
「うん。正確には、“管理”って言ってたけどね」
シノノメは自嘲するように笑った。
「吸血鬼族は危険だって。寿命が長く、魔力が高く、従わなければ脅威になるって」
焚き火の光が、彼女の赤い瞳を照らす。
「だから帝国は、私たちを研究施設に集めた。
血を抜かれて、魔法を使わされて、言うことを聞かない子は……消えた」
場の空気が、一気に冷え込む。
マナは拳を握りしめた。
「……帝国らしいな」
「ある日、研究中に“事故”が起きたことにされた。
本当は、私が暴走しただけなんだけど」
シノノメは背中の翼に視線を落とす。
「その時、私は逃げた。
逃げて、逃げて、追われ続けて……今日に至る、ってわけ」
沈黙が落ちる。
やがてメルが、静かに口を開いた。
「……あなたは、帝国にとって“脅威”だ」
「うん。だから、マナと一緒にいるって決めた」
その名が出た瞬間、マナはわずかに目を見開いた。
「帝国は“世界の叡智”を何よりも恐れてる。
マナ=エルディアス、あんたは帝国が絶対に支配できない存在だから」
――同時刻。
アウレリア帝国・皇都。
重厚な会議室では、数名の高官と軍の幹部が集められていた。
「報告しろ」
玉座の前に立つのは、軍務卿ヴァルハルト。
「南方森林地帯にて、第三追撃部隊が壊滅。
原因は……吸血鬼族の翼を持つ少女と、マナ=エルディアスの介入です」
ざわめきが走る。
「マナ=エルディアスだと……?」
ヴァルハルトは眉をひそめた。
「確認した。
世界樹エルディアから生まれし“世界の叡智”。
あれはもはや、反乱分子ではない」
彼は、冷酷な声で言い放つ。
「――帝国への脅威だ」
「対処は?」
「討伐命令を出す。
吸血鬼族の少女は捕獲。
マナ=エルディアスは……可能であれば拘束、無理なら消せ」
帝国は、静かに牙を研ぎ始めていた。
――再び、森の夜営地。
焚き火の炎が小さくなり、夜が深まっていく。
「なあ、シノノメ」
マナは静かに言った。
「ここにいる限り、帝国は何度でも追ってくる」
「知ってる」
「それでも、仲間でいいか?」
シノノメは一瞬驚いた顔をし、すぐに笑った。
「……やっぱり、聞くまでもなかったね」
彼女は立ち上がり、翼を大きく広げる。
「私は、もう逃げない。
ここで戦う。仲間として」
メルは剣を鞘に収め、深く頷いた。
「ならば、共に進もう」
焚き火の光の中で、三人と一人の影が並ぶ。
だがその背後で、帝国の追撃はすでに始まっていた。
静かな夜は、嵐の前触れにすぎなかった。
第五話までお読みいただき、ありがとうございます。
今回はシノノメの過去と、帝国がマナを明確な「脅威」として認識する瞬間を描きました。
焚き火の静けさと、帝国側の冷酷な決断の対比が、これから訪れる嵐の前兆となっています。
仲間として歩み始めた彼らが、どんな選択を重ねていくのか――次話も見守っていただければ幸いです。




