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ノヴァーズリンガ ―世界樹の子と世界の叡智―  作者:
誕生編

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5/6

帝国、脅威としてマナを認識

世界樹エルディアから生まれた存在――

マナ=エルディアスは、世界と世界の狭間で数多の知識を見てきた“世界の叡智”である。


人間至上主義を掲げ、多種族と魔物を迫害するアウレリア帝国。

秩序と繁栄を謳うその支配は、やがて差別と殺戮を正当化し、世界そのものを静かに蝕み始めていた。


「知ってしまった以上、止めずにはいられない」


世界樹の意思を胸に、マナは行動を選ぶ。

差別に抗う者、追われた魔物、居場所を奪われた種族たち――

彼らと出会い、語り、選択を委ねながら、マナは静かに仲間を集めていく。


これは、剣でも王座でもなく、

知識と意志によって帝国の歪みを正す“不死身の大賢者”の物語。


世界樹の子は問いかける。

――支配とは、誰のためのものなのか。

 夜の帳が、ゆっくりと森を包み込んでいく。

 昼間の戦闘の痕跡がまだ残る草地の端で、マナ=エルディアスたちは焚き火を囲んでいた。


 小枝がはぜる音だけが、静寂を破っている。


「……これが、野営ってやつか」


 メルは周囲を警戒するように立ち、剣から手を離さない。帝国軍との戦闘が終わったばかりで、気を抜くことはできなかった。


「初めてにしては、うまくやれてると思うよ」


 そう言ったのは、少し離れた場所に腰を下ろす翼の少女――シノノメだった。

 月明かりを受け、背中の漆黒の翼が静かに揺れている。


 彼女は今日、帝国軍を単独で殲滅し、正式に仲間として迎えられた存在だ。


 マナ=エルディアスは焚き火の向こうから、彼女をじっと見つめていた。


「……改めて聞いておきたい。シノノメ、お前はなぜ帝国に追われていた?」


 その問いに、焚き火が一瞬大きく揺れたように見えた。


 シノノメは少しだけ目を伏せ、やがて小さく息を吐く。


「……やっぱり、話さないとダメだよね」


 彼女は焚き火の前に歩み寄り、仲間たちと同じ輪の中に座った。


「私はね、帝国で生まれた吸血鬼族なんだ」


 その言葉に、メルがわずかに眉をひそめる。


「帝国は……吸血鬼族を迫害している」


「うん。正確には、“管理”って言ってたけどね」


 シノノメは自嘲するように笑った。


「吸血鬼族は危険だって。寿命が長く、魔力が高く、従わなければ脅威になるって」


 焚き火の光が、彼女の赤い瞳を照らす。


「だから帝国は、私たちを研究施設に集めた。

 血を抜かれて、魔法を使わされて、言うことを聞かない子は……消えた」


 場の空気が、一気に冷え込む。


 マナは拳を握りしめた。


「……帝国らしいな」


「ある日、研究中に“事故”が起きたことにされた。

 本当は、私が暴走しただけなんだけど」


 シノノメは背中の翼に視線を落とす。


「その時、私は逃げた。

 逃げて、逃げて、追われ続けて……今日に至る、ってわけ」


 沈黙が落ちる。


 やがてメルが、静かに口を開いた。


「……あなたは、帝国にとって“脅威”だ」


「うん。だから、マナと一緒にいるって決めた」


 その名が出た瞬間、マナはわずかに目を見開いた。


「帝国は“世界の叡智”を何よりも恐れてる。

 マナ=エルディアス、あんたは帝国が絶対に支配できない存在だから」


 ――同時刻。

 アウレリア帝国・皇都。


 重厚な会議室では、数名の高官と軍の幹部が集められていた。


「報告しろ」


 玉座の前に立つのは、軍務卿ヴァルハルト。


「南方森林地帯にて、第三追撃部隊が壊滅。

 原因は……吸血鬼族の翼を持つ少女と、マナ=エルディアスの介入です」


 ざわめきが走る。


「マナ=エルディアスだと……?」


 ヴァルハルトは眉をひそめた。


「確認した。

 世界樹エルディアから生まれし“世界の叡智”。

 あれはもはや、反乱分子ではない」


 彼は、冷酷な声で言い放つ。


「――帝国への脅威だ」


「対処は?」


「討伐命令を出す。

 吸血鬼族の少女は捕獲。

 マナ=エルディアスは……可能であれば拘束、無理なら消せ」


 帝国は、静かに牙を研ぎ始めていた。


 ――再び、森の夜営地。


 焚き火の炎が小さくなり、夜が深まっていく。


「なあ、シノノメ」


 マナは静かに言った。


「ここにいる限り、帝国は何度でも追ってくる」


「知ってる」


「それでも、仲間でいいか?」


 シノノメは一瞬驚いた顔をし、すぐに笑った。


「……やっぱり、聞くまでもなかったね」


 彼女は立ち上がり、翼を大きく広げる。


「私は、もう逃げない。

 ここで戦う。仲間として」


 メルは剣を鞘に収め、深く頷いた。


「ならば、共に進もう」


 焚き火の光の中で、三人と一人の影が並ぶ。


 だがその背後で、帝国の追撃はすでに始まっていた。


 静かな夜は、嵐の前触れにすぎなかった。

第五話までお読みいただき、ありがとうございます。

今回はシノノメの過去と、帝国がマナを明確な「脅威」として認識する瞬間を描きました。

焚き火の静けさと、帝国側の冷酷な決断の対比が、これから訪れる嵐の前兆となっています。

仲間として歩み始めた彼らが、どんな選択を重ねていくのか――次話も見守っていただければ幸いです。

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