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ノヴァーズリンガ ―世界樹の子と世界の叡智―  作者:
誕生編

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4/6

血翼の少女と、帝国の追撃

世界樹エルディアから生まれた存在――

マナ=エルディアスは、世界と世界の狭間で数多の知識を見てきた“世界の叡智”である。


人間至上主義を掲げ、多種族と魔物を迫害するアウレリア帝国。

秩序と繁栄を謳うその支配は、やがて差別と殺戮を正当化し、世界そのものを静かに蝕み始めていた。


「知ってしまった以上、止めずにはいられない」


世界樹の意思を胸に、マナは行動を選ぶ。

差別に抗う者、追われた魔物、居場所を奪われた種族たち――

彼らと出会い、語り、選択を委ねながら、マナは静かに仲間を集めていく。


これは、剣でも王座でもなく、

知識と意志によって帝国の歪みを正す“不死身の大賢者”の物語。


世界樹の子は問いかける。

――支配とは、誰のためのものなのか。

アウレリア帝国――皇都。


重厚な石壁に囲まれた謁見の間には、冷えた空気が漂っていた。

玉座の前に跪くのは、ぼろ切れのようになった鎧をまとった男――調査部隊の生き残りである。


「……申し上げます、陛下……!」


声は震え、言葉は途切れがちだった。


「魔法の森にて……正体不明の魔法使いと……魔物が……」


皇帝は、無言で報告を聞いていた。

黄金の装飾に囲まれた玉座に深く腰掛け、指先で肘掛けを軽く叩く。


「……続けよ」


低い声が、部屋に響く。


「は、はっ……!

調査部隊六名が……一瞬で……」


「一瞬で?」


皇帝の眉が、わずかに動いた。


「……魔物が……人の形をしておりました……。

銀色の……少年の姿で……」


沈黙。


「……世界樹の反応といい……」


皇帝は、ゆっくりと立ち上がった。


「どうやら……“芽”が生まれたらしいな」


口元に、歪んだ笑みが浮かぶ。


「よい。

追撃部隊を編成せよ」


家臣たちが息を呑む。


「魔法部隊を含めろ。

対象は――捕縛。

抵抗するなら……処分して構わん」


「ははっ!」


皇帝は、窓の外――遠い森の方向を見やる。


「世界樹の力……必ず、我が手中に収める……」


その目には、支配欲だけが宿っていた。



一方、魔法の森。


木々の間を抜ける風が、静かに葉を揺らす。

マナ=エルディアスとメルは、慎重に森を進んでいた。


「……さっきの戦い……大丈夫だったかい?」


マナが問いかける。


「はい……問題ありません」


メルは即答したが、その声にはまだ微かな緊張が残っていた。


「……帝国は……また来るでしょうか……」


「えぇ」


マナは頷く。


「必ず」


そのとき――

ふわり、と空気が揺れた。


「こんにちは」


突然、頭上から声が降ってくる。


メルは即座に反応し、マナの前に立った。


「お下がりください! マスター!」


「むぅ〜」


不満げな声。


「そんなに警戒しなくてもいいじゃん」


木の枝の上。

そこに、少女が腰掛けていた。


黒に近い深紅の髪。

白い肌。

背中には、夜の闇を思わせる翼。


「……その羽根」


マナは、静かに見上げる。


「吸血鬼族……かな?」


少女は、ぱっと笑顔を見せた。


「そうだよ!」


枝から軽やかに飛び降りる。


「そこのヒト、私は吸血鬼族のシノノメだよ!」


名乗りと同時に、翼がふわりと広がる。


メルは身構えたまま、視線を外さない。


「……吸血鬼族……」


「そんな怖い顔しなくてもいいってば」


シノノメは、くるりと一回転して着地した。


「ボク、別に帝国の味方じゃないし」


その言葉に、マナの視線が鋭くなる。


「……帝国を知っている?」


「もちろん」


シノノメは肩をすくめた。


「森にも来たよ。

吸血鬼族は……帝国からも嫌われてるからね」


「……なるほど」


マナは、少しだけ納得したように頷く。


「……それで、何の用だい?」


「ん〜……」


シノノメは顎に指を当てる。


「さっきの戦い、見てたんだ」


メルの方を見る。


「キミ、スライムだったよね?」


「……はい……」


「刻印されて……人型になった?」


メルは一瞬驚いたが、正直に答えた。


「……はい……」


「へぇ〜」


シノノメの目が輝く。


「面白いじゃん!」


その瞬間――

森の奥から、複数の足音が響いた。


「……来たね」


シノノメが、楽しそうに笑う。


「帝国軍だよ」


木々をかき分け、現れたのは――

武装した帝国兵たち。

魔法部隊を含む、明らかに先ほどよりも大規模な編成。


「発見したぞ!」


「包囲しろ!」


「抵抗するな! 捕縛対象だ!」


メルが歯を食いしばる。


「……数が……」


「大丈夫」


シノノメが、前に出た。


「ここは……ボクに任せて」


「……行けるのかい?」


マナが問いかける。


「もちろん」


シノノメは翼を大きく広げた。


「吸血鬼族、なめないでよ?」


次の瞬間――

空気が、凍りついた。


赤黒い魔力が、シノノメの周囲に渦を巻く。


「血魔法・夜宴の帳」


闇が広がり、兵士たちの視界を奪う。


「なっ……!?」


「見えない……!」


悲鳴が上がる。


シノノメは、空中を舞う。


「じゃ、さようなら」


指を鳴らす。


「血魔法・紅月掃討」


無数の赤い光が走り、闇の中で炸裂した。


次の瞬間――

地面に倒れ伏す帝国兵たち。


一層――

まさに、一瞬の殲滅だった。


闇が晴れ、静寂が戻る。


「……ふぅ」


シノノメは、軽く息を吐いた。


「どう? 役に立った?」


メルは、呆然としていた。


「……すごい……」


マナは、静かに彼女を見つめる。


「……なぜ、ここまで?」


「ん?」


シノノメは首を傾げる。


「帝国、嫌いだから」


即答だった。


「それに……」


少しだけ、真剣な表情になる。


「キミたち……面白そうだし」


沈黙。


やがて、マナは口を開いた。


「……一緒に来るかい?」


シノノメは、ぱっと笑った。


「いいの?」


「えぇ」


「じゃ、決まり!」


シノノメは手を差し出す。


「改めてよろしく。

吸血鬼族のシノノメだよ!」


「……マナ=エルディアス」


「……メルです……」


三人の影が、森の中で並ぶ。


帝国の追撃は、すでに始まっていた。

だがそれと同時に――


世界を変える旅の仲間が、また一人増えた。


物語は、さらに深く――

確実に、動き始めていた。

第4話までお読みいただき、ありがとうございます。


ここで仲間が揃い始め、物語はいよいよ本格的に動き出します。

帝国の追撃、血翼の少女シノノメ、そしてマナたちの旅路――

それぞれの思惑が、少しずつ絡み合っていく予定です。


次話からは、さらに世界の裏側と、帝国の“本気”が見え始めます。

引き続き、物語を見守っていただければ幸いです。

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