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ノヴァーズリンガ ―世界樹の子と世界の叡智―  作者:
誕生編

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3/6

名を刻むもの、翼を持つ影

世界樹エルディアから生まれた存在――

マナ=エルディアスは、世界と世界の狭間で数多の知識を見てきた“世界の叡智”である。


人間至上主義を掲げ、多種族と魔物を迫害するアウレリア帝国。

秩序と繁栄を謳うその支配は、やがて差別と殺戮を正当化し、世界そのものを静かに蝕み始めていた。


「知ってしまった以上、止めずにはいられない」


世界樹の意思を胸に、マナは行動を選ぶ。

差別に抗う者、追われた魔物、居場所を奪われた種族たち――

彼らと出会い、語り、選択を委ねながら、マナは静かに仲間を集めていく。


これは、剣でも王座でもなく、

知識と意志によって帝国の歪みを正す“不死身の大賢者”の物語。


世界樹の子は問いかける。

――支配とは、誰のためのものなのか。

魔法の森は、静かだった。


世界樹エルディアの内とは異なり、ここには明確な生と死の気配がある。

風は葉を揺らし、土は湿り、魔力は自然に溶け込みながらも、どこか荒々しい。


マナ=エルディアスは、ゆっくりと森の奥へ歩を進めていた。

足取りは慎重だが、迷いはない。

世界樹の内で得た知識が、この森の危険と、同時に可能性を告げていた。


そのとき――

かすれた声が、微かに耳へ届いた。


「……強く……なりたい……」


足が止まる。


マナは周囲を見渡し、気配を探った。

視線の先、木々の根元の影。

そこに、小さな存在がいた。


銀色の、半透明な体。

不安定に形を保つ――スライム。


「……強くなりたいのか?」


マナが声をかけると、銀色の存在は、びくりと震えた。


「……うん……」


か細い返事。


「強くなって……仲間を……助けられる自分に……なりたい……」


その言葉は、願いだった。

恐怖や欲望ではない。

ただ、誰かを守りたいという、純粋な意志。


マナはしばらく沈黙し、その存在を見つめた。


「……わかった」


ゆっくりと、しかし確かに告げる。


「一緒に来て。

ともに……強くなろう」


銀色のスライムは、少し間を置いて、頷いた。


「……うん……」


そして、ためらうように続ける。


「……刻印……ください……」


「刻印……」


マナは小さく呟いた。


そうだ、と知識が呼び起こされる。

刻印とは――名を持たぬ魔物に名前を刻み、魂を繋げる契約。

それは支配ではなく、繋がり。

刻印を受けた魔物は、刻印主に近しい存在となり、魂の形を定められる。


「……そうか」


マナは理解した。


「君には……名前がなかったんだね」


銀色のスライムは、静かに揺れた。


「……うん……」


マナは杖を地面に立て、静かに息を整える。


「……いいよ」


「君は今日から……メルだ」


言葉が、世界に落ちた。


「……メ……ル……?」


銀色の体が、わずかに輝く。


「えぇ。今日から、君はメル」


マナは微笑んだ。


「よろしく」


「……うん……」


次の瞬間――

銀色の光が、弾けた。


形が変わる。

流動していた体は、人の輪郭を取り始め、やがて――一人の少年の姿を成した。


銀色の髪。

幼い顔立ち。

まだ不安定だが、確かな“個”を持つ存在。


「……あれ……?」


少年――メルは、自分の手を見つめる。


「刻印の影響だよ」


マナが静かに説明する。


「刻印を魂に刻むと……人型なら、人型になる」


「……なるほど……」


メルは、ゆっくりと理解したように頷いた。


「……だから……ボクは……」


そのとき――


草が、揺れた。


わずかな音。

だが、マナは即座に気配を察知する。


「……!」


木々の間から、鎧姿の人影が現れた。


「アァ〜ン?」


下卑た声。


「何だぁ〜? ガキが二人いるじゃねぇか」


帝国軍調査部隊。

武装した兵士たちが、ぞろぞろと姿を現す。


「隊長、見てくだせぇよ」


一人が笑いながら言う。


「ありゃ、魔法使いですぜ。

しかも……綺麗で」


「……あぁ」


隊長は、マナを舐め回すように見た。


「そうだな」


「おい、女。そんな銀髪の小僧を置いて、俺たちと来い」


「……?」


マナは首を傾げる。


「私は……女ではないが」


少し考え、


「まぁ……いいだろう」


淡々と続けた。


「帝国の人間についていくつもりはないよ」


一瞬の沈黙。

次の瞬間、怒声が飛ぶ。


「何だと!?

オレたち帝国に逆らうのか!?」


メルが一歩、前に出た。


「……マスター」


静かな声。


「ここは……任せてください」


「……行けるのかい?」


「はい……」


迷いのない返事。


マナは小さく頷いた。


「だったら……頼んだよ」


「はい……」


帝国軍調査部隊隊長が、嗤った。


「いい度胸だな!

お前ら!」


「へへへ……」


「悪く思うなよ、小僧」


「なぶり殺してやる」


「その後に……あの女を……」


その言葉が、最後だった。


「……おしゃべりは……済みましたか?」


メルの声は、静かだった。


「……さようなら」


次の瞬間――

銀色の影が、消えた。


否、速すぎて見えなかっただけだ。


刹那。

鋭い音。

兵士たちの悲鳴。


一人、また一人と倒れ伏し、気づけば――

立っているのは、メルと隊長だけだった。


「なっ……!?」


隊長の顔が、蒼白になる。


「ひ……ひぃ……!」


「……上出来」


マナが、淡々と告げる。


「う……うぁぁぁぁぁ!!」


兵士たちは逃げ出した。


「ま、待て〜!!」


隊長もまた、必死に踵を返す。


森に、静寂が戻る。


「……逃がして……よかったのですか?」


メルが尋ねる。


「えぇ」


マナは頷いた。


「どうせ……放っておいても、報告はしたでしょう」


「……なるほど」


メルは感心したように言った。


「さすが……マスターです」


「……それで」


マナはふと、視線を向ける。


「マスターとは……私のことかい?」


「はい」


メルは即答した。


「魔物と契約した人は……魔物から、マスターと呼ばれます」


「……そうだね」


マナは小さく笑った。


「改めて……よろしくね、メル」


「はい……マスター」


その様子を――

遠く、木の上から見下ろす影があった。


小さな体。

背中には、紺の翼。


「……ふふ」


少女は楽しそうに呟く。


「なにか……面白いこと……起きないかなぁ……?」


翼が、静かに羽ばたいた。


物語は、確かに――

動き始めていた。

第3話では、マナ=エルディアスが初めて「名を与える側」になる瞬間を描きました。

メルとの出会いは、力ではなく“繋がり”によって世界を変えていく物語の始まりでもあります。

そして、静かに物語を見下ろす翼を持つ影――。

世界はもう、彼女たちだけのものではありません。

次回もお楽しみに

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