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ノヴァーズリンガ ―世界樹の子と世界の叡智―  作者:
誕生編

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2/4

旅立ちと、世界の鼓動

世界樹エルディアから生まれた存在――

マナ=エルディアスは、世界と世界の狭間で数多の知識を見てきた“世界の叡智”である。


人間至上主義を掲げ、多種族と魔物を迫害するアウレリア帝国。

秩序と繁栄を謳うその支配は、やがて差別と殺戮を正当化し、世界そのものを静かに蝕み始めていた。


「知ってしまった以上、止めずにはいられない」


世界樹の意思を胸に、マナは行動を選ぶ。

差別に抗う者、追われた魔物、居場所を奪われた種族たち――

彼らと出会い、語り、選択を委ねながら、マナは静かに仲間を集めていく。


これは、剣でも王座でもなく、

知識と意志によって帝国の歪みを正す“不死身の大賢者”の物語。


世界樹の子は問いかける。

――支配とは、誰のためのものなのか。

マナ=エルディアスが誕生してから、一ヶ月と少し。


世界樹エルディアの内部――

そこでは時間の流れさえ、外界とは異なっていた。

昼も夜も曖昧な、常に柔らかな光に満ちた空間で、マナは静かに息を吐いた。


「…………ふぅ……」


吐息は、白くも曇らず、ただ溶けるように消えていく。


この一ヶ月。

マナは世界樹の内で、言葉を学び、感情を知り、世界の断片を見せられてきた。

帝国の街。

泣き叫ぶ子ども。

鎖に繋がれた魔物。

沈黙を強いられた賢者たち。


知れば知るほど、胸の奥に重いものが溜まっていく。


その背後から、弾んだ声が響いた。


「マナ〜! 服ができたよ〜?」


振り返ると、小さな光の塊――下位精霊が、嬉しそうに漂っている。


「本当かい……?」


差し出されたそれを、マナはそっと受け取った。


「……これは……」


紺色の魔女帽子。

つばはやや広く、頂はとがりすぎず、どこか柔らかな印象を与える。

ローブは深い藍に近い色合いで、裾や袖には金色の模様が繊細に織り込まれていた。

それは装飾でありながら、魔力の流れを補助する術式でもある。


「よく……似合っている」


マナの声は、どこか照れたようでもあった。


「えへへ〜! 世界樹様の枝からとれた糸も使ってるんだよ〜!」


そこへ、落ち着いた気配とともに上位精霊が現れる。


「それだけではありません」


精霊の手には、一本の杖があった。


杖の軸は、世界樹エルディアの樹から削り出されたもの。

先端には、淡く輝く刃が取り付けられている。

神の金属とオリハルコンを混ぜ込んだ、剣付きの杖。


「あなたの要望通りです。

“戦うための杖であり、守るための剣”」


マナは静かにそれを受け取り、重さを確かめる。


「……ありがとう」


短い言葉だったが、そこには確かな感謝が込められていた。


その時、空間全体がわずかに揺れた。


「マナ……」


世界樹エルディアの声が、優しく響く。


「旅立つのですね……」


「えぇ」


マナは頷いた。


「少し……寂しくなりますね。

こうしている間にも、時間はあっという間に過ぎてしまう……」


世界樹の声には、ほんのわずかな――母のような感情が滲んでいた。


「ですが」


マナは、まっすぐに答える。


「世界を……放っておけません」


沈黙。

それから、世界樹は静かに語った。


「……えぇ。

必ず、帝国を打倒してください」


それは命令ではなかった。

願いだった。


「えぇ。必ず」


短い言葉。

しかし、その中に迷いはなかった。


「世界樹様〜! マナ様〜!」


下位精霊たちが一斉に声を上げる。


「転送陣の準備が整ったよ〜!」


「えぇ、すぐ向かいます……」


マナは一度、振り返った。


「それでは……必ずや、勝利を」


「えぇ……祈っています」


光が集まり、巨大な魔法陣が展開される。

その中心へ、マナ=エルディアスは静かに足を踏み出した。


世界樹の内から、世界へ。



――魔法の森。


「…………ついた……のかな……?」


足元には、柔らかな苔。

頭上には、重なり合う木々の葉。

濃密な魔力が、空気そのものに溶け込んでいる。


「……ここは……森か」


世界樹の内とは違う。

生き物の気配。

風の冷たさ。

遠くで鳴く獣の声。


マナは一歩、踏み出した。


世界は――動いている。



その頃、アウレリア帝国。


重厚な玉座の間に、慌ただしい足音が響く。


「陛下!」


家臣が跪き、声を張り上げた。


「どうした?」


玉座に座る皇帝は、退屈そうに顎杖をついている。


「世界樹エルディアに……微弱ながら、魔力の変動を感知しました!」


「……微弱、だと?」


皇帝の目が、わずかに細まる。


「はっ! 確かに感知しております。

調査部隊を派遣すべきかと!」


沈黙。


皇帝はしばらく考え込むように目を閉じ……やがて、口元を歪めた。


「……ふむ」


「許可する」


「ははっ!」


家臣が下がると、皇帝は玉座から立ち上がった。


「……世界樹の精霊どもを……」


低く、愉悦を孕んだ声。


「我が帝国の支柱に収めることができれば……」


笑い声が、玉座の間に響き渡る。


「ははは……ハハハハハハハ!!」



再び、魔法の森。


木々の陰、ひっそりとした場所で、奇妙な存在が蠢いていた。


銀色の、半透明な身体。

小さく、不安定な形。


「…………強く……なりたい……」


かすれた声。


誰にも聞かれぬ願いが、森に溶ける。


その存在が、これから――

マナ=エルディアスと出会うことを、まだ知らない。


世界は、静かに――

しかし確実に、動き始めていた。

第2話までお読みいただき、ありがとうございます。

今回は、マナ=エルディアスが「生まれた存在」から「歩き出す存在」へと変わる回でした。

同時に、帝国側の動きや、新たな存在の伏線も静かに置いています。

次回から、物語は実際に“世界とぶつかり始めます”。

この旅路を、どうか最後まで見届けていただければ幸いです。

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