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ノヴァーズリンガ ―世界樹の子と世界の叡智―  作者:
誕生編

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1/6

世界が歪む音

世界樹エルディアから生まれた存在――

マナ=エルディアスは、世界と世界の狭間で数多の知識を見てきた“世界の叡智”である。


人間至上主義を掲げ、多種族と魔物を迫害するアウレリア帝国。

秩序と繁栄を謳うその支配は、やがて差別と殺戮を正当化し、世界そのものを静かに蝕み始めていた。


「知ってしまった以上、止めずにはいられない」


世界樹の意思を胸に、マナは行動を選ぶ。

差別に抗う者、追われた魔物、居場所を奪われた種族たち――

彼らと出会い、語り、選択を委ねながら、マナは静かに仲間を集めていく。


これは、剣でも王座でもなく、

知識と意志によって帝国の歪みを正す“不死身の大賢者”の物語。


世界樹の子は問いかける。

――支配とは、誰のためのものなのか。

この世界はノヴァーズリンガ。

人間、亜人、エルフ、獣人、竜人、人魚、魔物、精霊――

数え切れぬほどの種族が、それぞれの土地で、それぞれの営みを紡ぎ、生きてきた世界である。

アウレリア帝国の街路は、今日も騒がしかった。


石畳を踏み鳴らす重い足音。

鎧に身を包んだ兵士と、酒と暴力の匂いをまとった荒くれ者たちが、通りの中央を占領している。


「オラオラ! ここは人間様の国だ!」


怒号が空気を裂いた。


その先で、耳の長い亜人の少女が地面に膝をついていた。

荷袋を抱え、逃げ場を失った瞳が必死に左右を彷徨う。


「お前ら亜人はなぁ、文句言わず働けばいいんだよ! 人間様に使われるために生まれてきたんだろ?」


嘲るような笑い声。

荒くれ者の靴先が、容赦なく少女の肩を蹴りつけた。


「いやぁ……っ!」


悲鳴は小さく、すぐに街の喧騒に溶けて消える。

誰も止めない。

誰も声を上げない。


それが――この国の「秩序」だった。


人間至上主義を掲げるアウレリア帝国では、亜人や魔物は労働力であり、財産であり、道具でしかない。

痛みも、意思も、尊厳も、そこには存在しないものとして扱われる。


石畳に伏せる少女の影が、夕暮れの光に長く伸びた。


その光景を――

人の目では決して届かぬ場所から、見つめる存在があった。



世界樹エルディア。


世界の中心に根を張り、天へと枝を広げる、命と知識の源。

その内側、精霊たちが集う空間では、張り詰めた空気が漂っていた。


「……このままでは」


澄んだ声を持つ上位精霊が、震えるように言葉を紡ぐ。


「帝国に、すべてを支配されてしまう……」


精霊たちの前に広がるのは、世界の各地の光景。

燃える村。

鎖につながれた異種族。

沈黙を強いられる賢者たち。


「は、はわわ……どうしましょう……」


下位精霊が小さく身をすくめる。

精霊たちは知っていた。

帝国の侵食は、すでに国境を越え、世界そのものを蝕み始めていることを。


けれど、彼らには止める力がない。


ざわめく精霊たちの声を、低く、深い響きが包み込んだ。


「……精霊たちよ」


世界樹エルディアの声だった。


「おちつくのです……」


一瞬で、空間が静まり返る。


「せ、世界樹様!」


精霊たちは一斉に頭を垂れた。


世界樹は語る。

悠久の時を生き、数え切れぬ世界を見つめてきた存在の声で。


「私は……この歪みを見過ごすことはできません」


「では……なにか、お考えが……?」


上位精霊が恐る恐る問いかける。


「私に、案があります」


精霊たちの間に、ざわりとした気配が走った。


「私の分身体に魂を与え……世界を正す存在として育てるのです」


「しかし、世界樹様!」


上位精霊が声を荒らげる。


「そんな時間はありません! 帝国の侵攻は、今この瞬間にも……!」


「安心しなさい」


世界樹の声は揺るがない。


「すでにこの計画は進んでいます」


精霊たちは息を呑んだ。


「重要なことゆえ、秘密にしていたのです。

私の分身は――すでに知恵の旅へと送り出されています」


「……!」


「まもなく、その旅を終え……ここへ、帰還するでしょう」


しばしの沈黙ののち、精霊たちの顔に光が戻る。


「さすが……世界樹様……!」


「世界は、まだ……終わっていない……!」


世界樹は何も言わず、ただ静かに枝を揺らした。



――知恵の空間。


そこは、形も時間も曖昧な場所だった。

無数の光が流れ、言葉にならない記憶が漂う。


「ねぇ……」


柔らかな声が、空間に響く。


「いつまで、旅をすればいいの?」


「もうじき、旅の終点ですよ」


答えたのは、優しい声だった。


「私は……誰なの?」


「それは、前にも言いましたね。

今は……まだ、言えません」


「……」


しばらくの沈黙。


「終点に着いたら……私は、なにをすればいいの?」


「知恵の空間での旅が終わると……あなたは、世界を変えるのです」


「……世界を?」


「えぇ」


優しい声が微笑むように響いた。


「――もう、着きますよ」


「……!」


光が、弾けた。



温かい。


どこか懐かしく、心地よい感覚。

包み込まれるような安らぎの中で、意識がゆっくりと形を得ていく。


「生まれた……!」


「生まれた! 世界を救う者……!」


精霊たちの歓喜の声が聞こえる。


「……ここは……?」


まだ拙い声が、世界に落ちた。


「ここは、世界樹の中ですよ」


「……あなたは、誰?」


「私は……世界樹」


「じゃあ……私は……?」


一瞬の沈黙。

そして、世界樹ははっきりと告げた。


「あなたは――世界を変える者」


名を授ける言葉が、世界に刻まれる。


「マナ=エルディアス」


その名が響いた瞬間、

世界のどこかで――歪みが、確かに軋む音を立てた。


そしてまだ、誰も知らない。


この存在がやがて

不死身の大賢者と呼ばれることを。


世界が変わる、その始まりであることを。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

第1話では、世界が抱える歪みと、その中で静かに生まれた存在を描きました。

まだ物語は動き出したばかりで、マナ=エルディアス自身も、自分が何者なのかを知りません。


この世界がこれからどのように変わっていくのか、

そして「世界を変える者」がどんな選択を重ねていくのか――

次話から、少しずつ描いていければと思います。


引き続き、お付き合いいただけましたら幸いです。

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