第7話 逃走の白砂
白い光が消えたとき、天城レイと白鷺ミナトは無人の公園に立っていた。
夜の静けさが一気に押し寄せ、さっきまでの警報と怒声が嘘のように遠のいていく。
レイは大きく息を吐いた。
「……ここは?」
「クロノスの探知が一番弱い“隙間”よ。
時間の層が薄くて、彼らの監視が届きにくいの」
ミナトは振り返って微笑んだ。
その笑顔はどこか疲れていて、無理をしているようにも見えた。
レイの胸が締め付けられる。
「さっきの……俺を助けるために、あの力を?」
ミナトは小さく頷いた。
「あなたを渡すわけにいかなかった。
クロノスは“管理”という名で命を選別する。
与える者であっても、彼らの手に落ちれば……」
風が吹き、ミナトの白い砂が舞う。
レイは気になっていたことを口にした。
「ミナト……君、少し痩せた?」
ミナトは一瞬だけ目をそらした。
「……与える力を使うと、少しだけ自分の時間を消費するの」
「なんだよそれ……それじゃ――」
「大丈夫。慣れてるから」
慣れている――その言葉が逆に重かった。
ミナトはレイの手を取る。
「今は急いで移動しないと。
クロノスはすぐ追ってくるわ」
その言葉と同時に、夜空を裂くように光が走った。
レイは反射的に振り向く。
街灯の影の中から、ひとりの青年が歩み出てきた。
金髪が闇に揺れ、口元がにやりと笑う。
「おっと、見つけちゃった」
ナギ=ファロウ。
ミナトがレイの前に立つ。
「来た……ナギだけじゃない。後ろから別の気配も」
レイは息を呑む。
ミナトの白い砂が周囲に薄く広がり、守るように風を巻く。
「ミナト、俺が戦う」
「だめ。あなたはまだ力の制御ができない」
「でも、このまま逃げてばかりじゃ……」
ミナトは振り向かずに言った。
「逃げることは生きることよ、レイくん。
あなたは奪った“時間”の重さを抱えている。
今は無理をさせたくない」
ナギが片手を上げた。
「説教は終わった? 悪いけど、二人ともクロノスに来てもらうぞ」
空気が震え、ナギの能力《数秒巻き戻し》の前兆が走る。
レイは覚悟を決め、刻印に力を込めた。
その瞬間――
ミナトがレイの手を強く握った。
「ごめんね、レイくん」
え……?
ミナトの白い刻印が強く輝き、
レイの周囲だけ“時流”が逆に押し返されるように伸びる。
ナギが目を見開いた。
「おいミナト、それは……っ!」
ミナトは微笑む。
「あなたを守るためなら、何度でも使う」
白い砂が爆発した。
時間がねじれ、世界が歪む。
ナギの能力すら飲み込み、
レイとミナトの姿は夜の公園から掻き消えた。
残されたナギは、砂を踏みしめながら舌打ちする。
「……マジでやばい方向に進んでんな」
夜風が静かに吹き抜け、白い砂の残滓だけが揺れていた。




