第6話 与える者の侵入
白い光が、クロノス医療財団の廊下を包んだ。
天城レイは思わず目を細める。
「ミナト……!」
白い砂が雪のように舞い、ひとつひとつが淡く光を放っている。
その中心に、白鷺ミナトが静かに立っていた。
表情は穏やかだが、その瞳には揺るぎない決意が宿っている。
「天城くんを返して。ここに留めてはいけない」
葵=クラインが前に立ちはだかった。
白衣の裾が光に揺れ、彼女の瞳が鋭く細められる。
「勝手な侵入ね、白鷺ミナト。あなたの力は理解しているけれど――ここはクロノスよ」
「知ってる。でも……あなたたちは、天城くんを“対象”としてしか見てない」
ミナトは静かに手を上げた。
白い刻印が光り、床に落ちた砂が一気に広がる。
その瞬間、葵の足元から“時間の流れ”が消えた。
白い砂が周囲の時間を固定し、機械の音も、空気の揺れも凍りつく。
「……時間固定すら上回るの?」
葵が驚きに眉を上げた。
ミナトは悲しそうな笑みを浮かべる。
「天城くんを守るためなら、私はなんでもする」
レイの胸が締めつけられた。
「ミナト……俺のために……?」
ミナトはゆっくりとレイの方へ歩き出す。
光が彼女の足元で弾け、白い砂が花のように舞う。
「あなたの力は、きっとあなた自身の手に負えない。
クロノスに渡してはいけないの」
葵が叫ぶ。
「あなたは“与える者”!私たちの制御システムを壊す気!?」
ミナトは振り返らず答える。
「壊すつもりなんてない。ただ……天城くんを傷つけさせない」
レイの右手の刻印が反応するように熱を帯びた。
黒い砂が指先からこぼれ、白い砂と混ざり合う。
ミナトがレイの目の前に立つ。
「行こう、天城くん。ここにいたら……あなたは“世界の敵”にされる」
レイは一瞬迷う。
葵の言葉も気になる。
しかしミナトの瞳は揺るぎなく、彼をまっすぐ見ていた。
「俺は……どうすればいい?」
ミナトはそっと手を差し出す。
その手は温かく、優しく、けれど強い。
「大丈夫。私があなたを導く。
あなたが奪った時間も、あなたが抱えた罪も……全部、私が一緒に背負う」
その瞬間、背後から怒声が飛んだ。
「ミナトッ!!」
ナギ=ファロウが駆け込んできた。
巻き戻された時間のゆがみを踏みしめながら、息を荒げてミナトを睨みつける。
「勝手に突っ込んでんじゃねぇよ! クロノス全員を敵に回す気か!?」
ミナトは振り返らず答える。
「最初から覚悟してる」
白い砂が渦を巻き、レイとミナトの周りを包み込む。
空間そのものが光に溶けていく。
ナギが手を伸ばす。
「天城レイ!ミナトに付いていったらマジで戻れねぇぞ!!」
レイは息を呑んだ。
光の中、ミナトの手だけが確かな温もりで繋がっている。
レイは――その手を強く握った。
「俺は……ミナトと行く」
白い光が爆ぜ、二人の姿が消える。
取り残されたナギは舌打ちし、葵は静かに目を閉じた。
「始まったわね、“与える者”と“奪う者”の反逆が……」




