第4話 白い砂時計の少女
夜の病院。
白鷺ミナトは、誰もいない廊下を歩いていた。
蛍光灯の光が冷たく反射し、足音だけが静かに響く。
手の中には、小さなガラスのペンダント。
その中で、白い砂が絶え間なく流れ続けている。
「……今日も、ひとり救えなかった」
彼女の声はかすれていた。
誰にも届かない祈りのように、静かに消える。
廊下の先に、少女の幻が立っていた。
長い髪、無邪気な笑顔。
――ユウ。
ミナトの胸が痛んだ。
かつての恋人。
彼はリーパーに“時間”を奪われ、この世から消えた。
残されたのは、この白い砂時計だけ。
そして、ミナト自身に刻まれた“与える力”。
「もしも誰かの時間を奪う者がいるなら、私は返す者になる」
それが、彼女がこの力を受け入れた理由だった。
彼女の掌に浮かぶ白い刻印が淡く光る。
その光は、まるで命の温もりのように柔らかい。
***
朝。
天城レイは、自室の机に突っ伏していた。
夜の出来事のせいで、一睡もできなかった。
鏡に映る自分の目の下には、くっきりとした隈。
「……俺は、どうなるんだ」
右手の刻印を見つめる。
その中で、金色の砂がゆっくりと逆流している。
すると、スマホが鳴った。
画面には“非通知”の文字。
「もしもし?」
『――あなたの力、制御できないままだと危険よ』
低く、落ち着いた女の声。
聞き覚えのない声だった。
『今夜、クロノス医療財団へ来て。
あなたが何者か、教えてあげる』
通話はそこで途切れた。
レイは携帯を見つめたまま、息をのむ。
「クロノス……?」
その名を口にした瞬間、背筋が冷たくなった。
昨日、ナギが言っていた組織。
時間を操る者を“狩る”存在。
「罠かもしれない……でも、確かめるしかない」
レイは立ち上がる。
窓の外には、どこまでも深い蒼。
刻印が微かに光を放つ。
その頃、別の場所でミナトが同じ空を見上げていた。
「……行くのね、天城くん」
白い砂時計の中の砂が、ひと粒だけ逆流した。




