第2話 黒い砂時計の刻印
朝が来た。
カーテンの隙間から射し込む光が、白いシーツを照らしていた。
病室のベッドには、まだ眠る妹・凜。
その顔を見つめながら、天城レイは静かに息をついた。
「夢……じゃなかったんだよな」
右手を見下ろす。
そこには、昨夜と同じ――黒い砂時計の刻印が浮かんでいた。
まるで皮膚の下に埋め込まれたように、淡い光を放っている。
病室のモニターは安定した心拍を示していた。
凜の胸は、昨日と違って穏やかに上下している。
助かった。
けれど、助けるために何をしたのか。
思い出そうとするたび、頭の奥がざらつくように痛んだ。
「……誰かが、倒れた気がする」
そのとき、ドアがノックされた。
「天城くん?」
顔を上げると、同じクラスの白鷺ミナトが立っていた。
制服姿のまま、病室の入り口でこちらを見ている。
「白鷺……どうしてここに?」
「偶然。……ここで誰かが亡くなったって聞いたの」
レイは一瞬、呼吸を止めた。
ミナトの瞳が、まっすぐ自分の右手を見ている。
「その印……やっぱり、出たんだね」
「知ってるのか……?」
ミナトは一歩近づいた。
そして、自分の左手を差し出す。
そこには、白い砂時計の刻印が輝いていた。
「私は“与える者”。
あなたは“奪う者”。
二つでひとつ――時間の理に選ばれた人間」
レイの心臓が跳ねた。
「ふざけるな。俺はただ、妹を助けたかっただけだ」
「その願いが、どれだけの命を奪ったか……分かってる?」
ミナトの声は静かだった。
しかしその瞳の奥に、確かな怒りがあった。
レイは立ち上がり、思わず声を荒げる。
「ならどうすればよかったんだ!
見捨てろって言うのか!?」
「違う……私は、あなたを止めたいだけ」
ミナトは一歩近づき、指先をそっとレイの右手に重ねた。
その瞬間、空気が震えた。
黒と白の砂時計が共鳴し、部屋の中の時間が一瞬止まる。
モニターの音も、風の音も消える。
ただ二人の間で、光と影が渦を巻いていた。
「時間を奪う者がいれば、与える者も現れる。
それが、この世界の均衡なの」
レイは息を呑んだ。
ミナトの指先から流れる温もりが、なぜか悲しかった。
「……君は、俺の敵なのか」
「分からない。
でも、あなたの手をこのままにしておいたら、
世界は“終わる”」
ミナトは言葉を残し、光の中へと姿を消した。
時間が動き出す。
雨上がりのような静寂の中で、レイはただ右手を見つめていた。
刻印は、ゆっくりと脈打っていた。




