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第13話 削れた未来

冷たい感触で、天城レイは意識を取り戻した。


土の匂い。

湿った草の感触。

夜明け前の河川敷。


「……っ」


息を吸おうとして、肺が拒絶した。

喉の奥が焼けつくように痛み、空気が血の味を帯びる。


「がっ……は……!」


体を起こそうとした瞬間、内側から何かが裂けた。


ごぼり、と鈍い音。

レイの口から、黒ずんだ血が吐き出された。


「レイ!!」


ミナトの悲鳴。

彼女が駆け寄り、背中を支える。


「動かないで!お願いだから……!」


だが、止まらなかった。


右腕。

刻印のあった場所から、皮膚がひび割れる音がした。


「……な、に……」


黒い砂が、皮膚の下から滲み出てくる。

血と混じり、粘ついた塊となって地面に落ちた。


「……っ、ぁ……!!」


痛みが遅れて来る。

骨の内側を、錆びた刃で削られる感覚。


ミナトが必死に白い砂を流し込む。

だが、砂は途中で弾かれた。


「……戻らない……

返還の代償が……大きすぎる……!」


レイは歯を噛みしめた。

噛みしめすぎて、歯茎から血が流れる。


「……返せたんだ……

それで……いい……」


「よくない!!」


ミナトの声が震える。

涙が頬を伝い、落ちる。


「あなたの未来が……

削れてる……!」


レイの視界が、断続的に暗転する。

音が遠ざかり、代わりに――声が増えた。


――一人分だ。

――だが、代償は均等じゃない。


――お前の“未来”を喰った。


――返した分、前へ進めなくなる。


映像が流れ込む。


教室。

凜の笑顔。

大人になった自分の姿――


その先が、真っ黒に塗り潰されている。


「……見えない……」


レイは呟いた。


「……俺の未来が……途中で、途切れてる……」


ミナトの顔が、恐怖に歪む。


「……まさか……

未来視が……欠損してる……?」


レイの右目から、血が流れ落ちた。


視界の右半分が、完全に黒く染まる。


「……っ!!」


激痛。

脳を直接殴られたような衝撃。


ミナトが叫ぶ。


「レイ!!しっかりして!!

見える!?私、見える!?」


レイは、かすかに頷いた。


「……左は……

右は……もう……」


言葉の途中で、再び血を吐いた。

今度は、内臓が焼け焦げた匂いがした。


返還は成功した。

だが、世界は帳尻を合わせに来た。


「……一人返すごとに……

俺は……壊れるんだな……」


ミナトは、唇を噛みしめた。


「……それでも、やるの……?」


レイは、震える手で地面を掴む。

爪が割れ、血が滲む。


「……やらなきゃ……

俺は……もう……」


息を吸う。

血の味。


「……生きてる資格がない……」


ミナトが、レイの頬を強く叩いた。


ぱん、という乾いた音。


「そんなこと言わないで!!」


彼女の声は、嗚咽混じりだった。


「あなたが返した命は……

ちゃんと、生きてる……!」


遠くで、サイレンの音。

クロノスが動き始めた証。


ミナトはレイを抱き上げる。

その腕が、震えている。


「……逃げるよ。

あなたが壊れきる前に……」


レイは、薄く笑った。


「……壊れるのは……

これからだろ……」


その瞬間。


空間が、音を立てて裂けた。


黒い裂け目。

そこから、イリス・クロウが現れる。


「……あら。

思ったより、早く壊れ始めたわね」


赤い瞳が、レイの欠けた視界を覗き込む。


「未来が削れる感覚……どう?

痛いでしょう?」


レイは、睨み返した。


「……それでも……

返す……」


イリスは、楽しそうに笑った。


「いいわ。

じゃあ見せてあげる――」


彼女の指が鳴る。


「あなたが**最後に返す“時間”**を」


世界が反転した。

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