表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

3話

 播磨の男、フラレは旅を続けていた。


 マリィという人間の豪邸で、少しばかり人間の風俗を解した。どうやら人間は『魔法』というものを使うらしい。火を出したり氷を出したり、陰陽道よりもよっぽど奇怪な術を使うらしい。


 悪魔の術は呪いに近いものなので、そこまで恐ろしいというものではない。だが、悪魔の体躯は人間よりも大きいものが多いので、それが人間にとって脅威のようだ。


 もしフラレが悪魔だということが世間に知られて、そんな炎で焼かれたらひとたまりもない。フラレは一層、慎ましく人助けをすると誓った。


 フラレは、近くの街を目指すべく、とある山道を歩いていた。その折、山道の脇に一つの髑髏が落ちていた。この前も見た烏丸によく似た黒い鳥が、髑髏の割れ目を突いている。


「なんと可哀想な……。人の死骸が悪魔に転じることがあると聞くが、あれでは悪魔になっても不憫な姿になるに違いない。」


 フラレは烏丸のような鳥を追い払い、髑髏を持ち上げて土を払い、そして目立たない木の上に置いてやった。


「これで烏丸に突かれることもないだろう。」


 と言って、フラレはまじないの呪を唱え、その場を立ち去った。




 *




 その夜、フラレは運良く空き家を見つけた。ぼろぼろだが、一晩雨風を凌ぐには十分だろう。フラレはその空き家で一晩を過ごした。


 そうして眠りにつこうとしたその折、戸がこんこんと音を立てた。


「こんな夜中に、誰だろう。」


 フラレが出ると、戸の前にいたのは、若い男であった。


「どうもこんばんは、悪魔様。」


 急にそんなことを言われて、フラレは驚く。もしや自分が悪魔だと、一目で見抜かれたというのか。そう思ったが、若い男は、悪魔特有の着物を着ていた。


 どうやら、悪魔と人間では風俗が大分違うらしい。悪魔は、フラレの前世のような着物を着ているのが普通だ。それに対し人間は、フラレの全く知らない衣服を纏っている。マリィは『洋服』と言っていた。悪魔を見分けるのにも役立つらしい。


「なんと驚いた。あなたは悪魔ですか。」

「はい。今朝、あなたに木の上に置かれた髑髏でございます。」


 なんと、今朝に木の上に置いてやった髑髏が、早速悪魔となったようだ。そしてフラレのもとに訪ねてきたというわけらしい。

 

「あなたのおかげで、ちゃんと形を保って悪魔になれました。あなたにお礼をしたくて参上致しました。」

「あらたふと。いえいえ、礼にはおよびませんよ。」


 と言っているものの、フラレは毎度の如く食に困っていた。もうすでに二日も何も食べていない。


「あともう少しで、お礼の品を持ってくる者が参ります。」

「え、あなたが持っているわけではないのですか?」

「はい。死んでいる私が持っているわけはないでしょう。」


 言われてみれば、確かにその通りだ。フラレは納得し、床に座ってそれを待つ。髑髏の男も、座って、おもむろに話し出した。


「せっかくなので、私が死んだ経緯をお話ししましょう。私は行商人でして、弟と一緒にここら周辺で商売をしていました。私が死んだ日には、太っ腹な人がいっぱい物を買ってくださいました。……しかし、弟はその手柄を独り占めしたくて、私のことを殺して金を奪っていったのです。母は今でも、私が通りすがりの盗賊に殺されたと思っている。」


 なんとも気の毒な話だ。血縁の者に殺された挙句、死体を烏丸にたかられる。とても報われない話だ。


「……でも私は考えを改めました。悪魔にも、貴方様のような素晴らしい方がいる。これからは胸を張って、悪魔として生きていけますよ。」


 そう言ってもらえて、フラレはそこはかとなく、温かい気持ちになった。自分のやったことによって人が救われるならば、報われるようである。


「……ではそろそろ。私の家族が来ますので。」


 といって髑髏の男はぼろ家を去って行った。




 *




 そのしばらく後、二人の母子がぼろ家に訪ねてきた。


 先ほどの髑髏の母と、髑髏の弟らしい。


「あら、人が……」


 母は寝床についたフラレを見て、非常に驚いたようだ。フラレも起きて、二人を見る。そして、これがさっきの髑髏の家族か、と一人で納得した。


「申し訳ありません。私はただの旅の者です。一晩だけここを使わせてもらっています。」

「あぁ、そうですか……」


 二人は見慣れない洋服を着ていたが、見慣れなくても生活に行き詰っているのが分かる、そんな姿見であった。


「ここは、死んだ私の息子の家なんです。この弟と住んでいまして……。」


 弟の青年はそっぽを向いて、どこか不貞腐れているように見える。


 ははあ、とフラレは全てを察した。


 この弟は、兄を殺して金を得ようとしたが、葬式の費用で結局全て飛んでしまったのだろう。結果兄のみを失った哀しい男だ。


「これ、供物です。あなたにあげますよ。」


 母は見慣れない人間の料理を、一皿だけ持っていた。それをフラレにくれるという。

 

「え、そんな、悪いですよ。」

「どうせここに置いても腐るだけなので。どうぞ食べてください。」


 フラレは身支度を開始した。この食事をいただくつもりはない。


「いえ。この食事は、貴方たち二人で食べてください。」

「えっ?」

「安心してください。」


 全ての荷物を持って、フラレはこのぼろ家を去る。申し訳程度に腕で顔を隠し、去り際に母子へ言った。


「私は悪魔です。貴方のお子さんは、悪魔になって生まれ変わりました。今は元気に、悪魔として暮らしていますよ。」


 最後に、弟の方を鋭く見据え、フラレはその場を後にした。


 弟が殺したことに関しては、伝えない方が良いように思った。あの髑髏が元気に生きている。それだけ伝えれば、それで十分なように思われた。


 フラレは結局、寝床も食糧も失って、その夜は野宿をすることに決めた。


「お腹が空いたな……。」


 後に伝え聞いた話だと、髑髏はあの後、デイマー帝国に行き、また商人として食い繋いでいるという。紫の布を纏った悪魔の話は、デイマー帝国の下町にも廻るようになった、とこう語り伝えているということだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ