籠から棄てられた鳥は③
時折、ジンは王海の前から姿を消した。
何処かへ去る……と言う訳ではなく、館の外で薬やお茶の材料――朝露や草花、石や木の皮などを集める為に。
〝賦神〟の神境で過ごしていた時と同じように、こうしていると心が落ち着く、と笑うジンを、王海は自由にさせていた。神境に居る限りは居場所を把握出来るからだ。
だがその日、不意に転寝から目覚めると、ジンの気配が微塵も感じられず……王海は即座に探索を開始した。
目を閉じて集中し、館の周囲を探るが見付からず……不安が胸の内をざわつかせる。
慌てて一気に探索の範囲を神境全域に広めるが、やはり、居ない。
頭の痛みに目眩を覚え、王海は片手で額を覆う……経験のない不快さが重く纏わり着く。
鼻腔に残る香りの残滓に気付き、首を捻りながら、眠りに落ちる前の事を思い出す。
確か……タカオ神の奴が書斎へやって来て……
――あれをきちんと管理せよ
そう、言った。
ジンを物のようにあれ呼ばわりされ、腹を立てた王海はタカオ神を無視して書物を開き……そこから記憶が無い。
タカオ神の気配も無い……
ふと、文机の上に、見慣れぬ物を見付けた。
翡翠の指輪――ではなく香立てのようだが、香自体は既に燃え尽き、灰と成って文机の上に散っている。
どれ程の時を奪われた?
王海は大きく目を見開くと、肚の底に秘していた神気を身の内に解放した――鼻腔に全神経を集中させ、神境全域の匂いを拾い出す。
何処かに不審な神力の揺らぎ――不自然な匂いはないか――全力の探索を、開始した。




