***幕間***
時折、神の姿を垣間見る事の出来るヒトが存在する。
今の姿を見られでもすれば、やれ凶兆だ災厄だのと騒がれるだろう事が容易に想像でき、タカオ神は仮の角を造り上げた。見た目だけで中は空洞の、飾りの角を。
これで誰にも角が無い事は見破られない……筈だった。
龍の姿で里へと降り立ち、すぐ神身へと変化する。
「無事の御帰着、御喜び申し上げまする」
大仰な物言いで膝をついて出迎えるのは蒲牢。
流星禍の最中、無断で神具を持ち出して竜生九子中、七子を従え、神を捕らえると言う大罪を犯したのだが……タカオ神は不問に処した。その上、〝長であるのに力足らずで里を守れなかった己の責だ〟と頭を下げた姿に深く感謝し、以前よりも忠誠は深まっていた。
「里の守り、御苦労」
は、と凛とした美しい声で返事をし、蒲牢は顔を上げ、嬉しげに笑む。
「今日はもう休む……」
「あ、兄者――!!!」
慌てた様子でクラオ神が駆け込んで来た。
「どうしたのじゃ!? つ……」
嫌な予感がしたタカオ神は素早くクラオ神の口を押さえ、言葉を封じ込める。
「ああ、疲れた故、休む所だ。共に来い」
口を押さえ、目配せをしてクラオ神の耳を引っ張ってタカオ神は奥の間へと足早に向かう。
二神を見送って後、蒲牢は、つ? と呟いた。
寝所までクラオ神を引っ張り込むと、ようやく手を離す。
「角をどうしたのじゃ!?」
やはり双子の弟は騙せない……タカオ神はどう答えようかと逡巡する。
「遂に好いた女子が出来たのか!? 父様のように、つ、つ、妻になる……女子に贈ったのか!?」
「王海だ」
「おう……え? ……え? 師匠が想い神……」
「おぞましい事を言うな。奴が力を使い過ぎて憔悴して居たので、仕方なく……力を貸してやったのみ」
それを聞くと、クラオ神は、はは、と一つ小さく笑う……一呼吸置くと、大きな笑い声を上げた。
何故だか可笑しそうに一頻り笑い終える……と、にやり、笑う。
「まあ……そう言う事にしておくか」
クラオ神は兄の肩に両腕を回し、ぽんっと叩いてから離れた。
「兄者はこういう時じゃから気を抜けん、と言うかもしれんが、時には息抜きも良いモンじゃぞ」
何をどう、そう言う事にしたのかは分からないが、クラオ神の明るさに心軽さを感じながら、タカオ神は、このお気楽坊めが、と、笑んで拳で小突いた。




