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夜の帳《とばり》の内側で

第三話 幕間 の、前に入るエピソードです。

「嫌いです」

 オオノ神――王海の胸に顔を埋めたままでジンは呟く。ようやく涙が止まり少し平静を取り戻していた。

「貴方と居ると感情が制御出来ないから、嫌いです」

「き、嫌いだと?」

 王海は慌ててジンの顔を覗き込む……拗ねた顔で上目遣いでこちらを見る姿に見蕩れる。

「……泣かせるつもりでは無かったんだが……スマン」

 嫌いと言いながらも己の胸に両手を添えたまま、その細く(しな)やかな身を預けているジンに微笑みかける。

「でも……貴方の神気は……安心も、します……」

 泣き腫らした目に(そそ)られ、自然とオオノ神は唇に唇を寄せる。

 ゆっくりと離れてから、ただこちらをぼんやりと見るジンを眺め、困り顔をした。

「……心配だ……」

「何が、ですか?」

「元の世に戻れば、ジンを欲しがる奴らが増えようが……」

「僕を? 何故?」

「……分からなくて良い」

 余りにも美しく無防備なジンを奪われたくない想いから、王海はその細い身体を少し強めに抱き締めた。

 今の内に、より濃く己の匂いを纏わせたいと考える。

 少し虚ろな表情に、密着した柔らかな身体に、雄としての本能が働きかけている己を自覚する。

 再度、唇を寄せる……最早そうされる事に慣れてしまったのか、ジンは全く抵抗する素振りも無い。

 長い口付け……ん、と小さく唸るその声が昂りを煽る。

 やがて唇を離した時、ジンはすっかり心地良さそうに蕩けた目をしていた。

 (おもむろ)に首元に口付ける。

「んん……僕、を、食べる……?」

「喰いはせん(ゆえ)……安堵して儂の神気に浴しておるがええ」

「な、に……っ……?」

 少し怯えるジンに、王海は顔を上げた。

 大きな両の掌で頬を包み込み、甘く囁く。

「愛しいお前に……愛を与えたい……」

 愛しい、と言われ、何故だかジンの胸が高鳴った。

 〝恋愛〟の知識を得た時、〝愛〟と言う言葉を知ったのだが、愛と言う考え方が良く分からなかった。不思議な言葉だと、ただそう、思ったのだが……

 今、自分の事を好きだと恋焦がれている男が教えようとしている……真剣な男の顔を眺めていると、とくとくとく、と胸の高鳴りが速くなり……ジンは小さく頷いて、その身を男に、(ゆだ)ねた。

 

 波の音が冷静に立ち戻らせる――仰向けで星を眺めながら、王海は眠るジンを己の胸板の上で抱き締め、沈思していた。

 このまま己の神境へ(さら)い閉じ込めるのは容易(たやす)いが、命令に固執するジンは大人しくはしていないだろう。

 いっそ、まだ御神体のままの神々を全て滅ぼし尽くし()べき事を無くしてやるのも良いかもしれんが、そうなった後の世はどうなるか見当も付かん。

 ならやはり一番良いのは、この世を元通りにし、ジンの使命とやらを終わらせた上で神境へ連れて行く。

 ただ、ジンが本体と呼んだ流星禍の奴をどうするか……分身だと言い張るが、命じ命じられる関係であれば、ジンは手下なのであろうし……手放しはしないだろう。

 敵として滅するのも不味そうだ。ジンの存在が危ぶまれるかもしれん。

 話を……せねばならんな。何とかジンを解放させる……

 長々考えていると、ジンが眠りから覚め、一つ、身動(みじろ)いだ。

 ゆっくりと瞼を開き、朦朧としたままでただ、海を眺める。

 やがて、正気に返ると、抱かれたその胸に手をついて身を起こそうとする……が、抱き竦められてしまう。

 自然と逞しい胸に頬を寄せる格好になり、頬を染めた。

「愛……って、何だか……恥ずかしいですね……」

「心地良くはないか?」

「心地……自分が制御出来なくて……何だか良く分かりません……」

 けど、とジンは続ける。

「素肌を重ねると……貴方の力がより温かくて……心地良いです」

 そうか、と嬉しさを含んだ声音で言い、王海はジンの乱れた髪を愛おしそうに撫でる。

 拘束する腕が解かれ、ジンは息を一つ、吐いてから身体を起こしてオオノ神の顔を覗き込んだ。

 何とも幸せそうに目を細めて笑む顔にどきり、胸を鳴らす。

「儂の愛を受け入れてくれて……有難う」

 ジンを抱いたままでその身を起こすと、そっと頬に手を置き、王海はただ、嬉しそうに眺めた。

 愛を受けた……のは好奇心からだったかもしれない。けれど、ただ素直に……想いのままに自分を求めるこの男が好きなのかもしれない。

 そう思うと、自然とジンの身体が動いた。

 自ら顔を近くに寄せると、唇を重ねる……意図せず、ちゅ、と音が立ち、少し頬を染める。

 心の縁から浮かんだその気持ちは言葉にはせず、自分の()た事に照れたジンは王海の肩に顎を乗せた。

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