第九十六話 大天使ミカエル
白く巨大な部屋。
何千もの光粒が漂う神域──その中心に、背筋を伸ばして座る青年がいた。
冷たく鋭いその瞳、羽ばたくことなく広がる純白の翼。
その存在だけで周囲の空気が震える。
ミカエル。
「君がライトとか言う魔王か?」
淡々とした声が静寂を裂いた。
その声音には怒りも侮蔑もない。ただ“事実確認”のつもりで放たれた言葉。
しかし相手を見下ろす神々しさは、否応なしに圧を伴う。
俺は、その視線を真正面から受け止める。
「……そうだ。」
一言だけ返すと、ミカエルは無言で反対側の席を指差した。
天使ですら無駄な言葉を省くのだろう──座れ、という意味だ。
俺はゆっくりと腰を下ろし、正面からミカエルと向き合う。
彼は足を組み、玉座のような椅子に深く背を預けたまま、
“神の使者”としての余裕を滲ませて俺を見据えた。
「で?
俺を倒すのか?天界を壊すために……」
おっと?バレてる〜?これ?
胸の奥が一瞬だけ跳ねた。
《当たり前だ。バレバレ、》
ヴルドが、呆れ声で心に直接語りかけてくる。
いやね?流石にバレるの早いな……
「まぁ、そう。
一度世界をリセットとしようと思って……人間は愚かすぎるよ、始祖で、人間、勇者に魔王をやって思ったけど、、利益しか考えていない。」
吐き捨てるように言うと、ミカエルはふっと目線を逸らす。
数秒後、今度は淡々と名を並べた。
仮にも天使だ。
人間の傲慢さはミカエル自身も、体験して理解しているのだろう。
「酒井日高、ハイル・アクロイド、
島田広樹、 ワイアット・ブルース、日浦ちとせ、
レゼ・ヴァルネス、リリー・スサラ。
どれも他世界、他の宇宙での主人公。
もちろんライト・ウィリアムズ。お前の名前も入っていた。」
「だから?
俺が勝つよ。」
即答する俺に、ミカエルは首を振る。
「そう言うことではないし、ワイアットとハイルには無理だ。自分の力を過信し過ぎるな。」
その目つきは、まるで“問題児を叱る教師”のようだった。
しかし放たれる威圧は、星を潰すほどに強烈。
「……あのさ、、とりあえず計画通りにいくと、
俺はあんたを倒す、人質にとって天界を滅ぼそうと思ってるんだけど、やられてくれる?」
《敵に交渉するやつがいるのか?》
いるんだよ、ここに。
ミカエルは小さく笑った。
「素直だね。嫌いじゃない!」
バンッ!
次の瞬間、視界が揺れた。
ミカエルの手が俺の頭を掴み、机へ叩きつけていた。
硬い天界石が額を打ち、鈍い衝撃が頭の奥にまで響く。
思わず意識が揺らぐ。
だが俺は反射で拳を放つ──が、
空振り。
ミカエルの姿は、まるで初めからそこにいなかったかのように消えていた。
直後、鋭い蹴りが脇腹にめり込む。
呼吸が一瞬止まり、身体が宙を舞った。
白い床へ転がり、滑り、止まる。
……一筋縄では行かないな。
立ち上がろうとした時、
ミカエルはもう目の前に来ていた。
「……その腐った根性叩き直してあげる。」
完全に“叱る目”だ。
はなから俺を気に入っていなかったのかもしれない。
いや、違う。これは──“本気の敵意”。
よし。
結局こうなるのはわかっていた。
「あんたを倒す。」
拳を握り、構えを取る。
ミカエルは薄く笑う。
「頑張って………だけど、分かるはずだよ、俺の目的。」
目的?
なんのことか分からない。
しかし今は俺の目的だけ果たす。
ミカエルの瞳が細まった。
(弱いんだよな、全てが……)
彼は心の中で、静かにそう呟いていた。




