番外編 喧嘩
ある程度話数が増えたら、
番外編を挟んだりしたい思います。
料理系の作品みたいになっちゃったけど、本編は世界滅ぼす話です。
「あ!それ僕のだぞ!ライト!」
振り返ると、アスが急に俺に向かって突っ込んでくる。
素早く動きすぎて完全に“猫の反応”である。
俺はプリンのカップを持ったままため息をつく。
ええ、めんどくさいな……。
獣人族の村を救って以来、礼として食材が大量に届くようになった。
どれも農家さんが泣いて喜ぶレベルの野菜や果物。
その中で、ひときわ異彩を放っていたのが──プリン。
主人という理由だけで献上される獣人族特製プリン。幸せすぎる。
……なのに。
「それ僕の!!」
アスが飛びついてくる。
そのスピード、完全に狩りの時のそれ。
いやね、結構量届いてるのよ……。
城にある図書館の本を読んでみると、実はこの世界には転生者・転移者が案外いる。
その関係で、前の世界の料理が色々残っている。
つまり──プリンも存在するのだ。
「いや、アスさ……あるから、他にも色々。」
「『あのさ』みたいに言うな!そのプリンはな……!」
アスの謎のこだわりはこうだ。
――――――
【朝のアス】
――――――
保存庫でアスは“神の光のように”輝くプリンを見つけた。
「ほー!プリンがある!」
目を輝かせ、プリンを一直線に見つめる。
「近頃こんな物が出ているのか………ふむ、前回はこんなのなかった、食べよ!」
だが、プリンに触れた直後──
(昼まで我慢して、欲をマシマシにしてから食べた方が悪魔的に美味しいよな……)
アスタロトは、そう悪魔的思考に陥った。
※悪魔です。
(よし、熟させよう!)
プリンを棚に戻すアス。
※プリンは熟成されません。
――――――
【回想終了】
――――――
「って事があったんだ!」
力説するアス。
「……いや、これだからいっぱい量あるって!」
俺がそう言うと、アスは震える指で保存庫を指差す。
「もう無い!」
は?そんなわけ──
ゴミ箱を見ると。
「むしゃむしゃ……あ!主人様!」
金髪に輝く髪の毛が見える。アテナが両手にプリンカップを抱えていた。
その横でクロも油断した顔でプリンを食べている。
「……アイツらが原因だろ!」
「ねぇねぇ、お願い!食べないで!」
アスが俺の足に巻き付き、必死に泣きついてくる。
「無理!だったら名前の一つでも書いとくんだな!」
俺は意地悪く、アスの目の前でぷるぷる震えるプリンを完食した。
「食べられた……」
アスは床に崩れ落ち、魂が抜けたように肩を落とす。
すまん。
久々のプリンは……罪深かった。
「もう、ライトなんて知らない!」
アスは部屋に逃げ込み、バタンッ!と扉を閉める。
その衝撃で2階の窓がビリッと震えた。
まぁ、悪いのは……うん、俺でもあるが。
9割くらい、アテナとクロだ。
「何個食ったんだよお前ら……」
「8!」
「11だな!」
アテナとクロがガッツポーズして自慢してくる。
なんのポーズだよ。
プリンカップを片付けようと裏返した瞬間──
(“アスタロトの!”って書いてある……)
(え……書いてたのか?
これ悪いの俺じゃね?
…………やってしまった!!!!)
《世界を滅ぼす魔王が何してんだよ……》
ヴルドの冷静すぎるツッコミが心臓に刺さる。
ヤバい。謝罪プリンが必要だ。
――
「シドウ!アスを見なかったか!?」
庭で素振りしているシドウに飛びかかるように尋ねる。
「アス?見てないですが、なんかしたんすか?」
したよ!すごくしたよ!
二階へ向かうと、アスの部屋の前でスライムが溶けかけていた。
「ふわぁぁ……」
「スライム!?」
「何したんだよ、ライト……」
二階は瘴気で空気がもやもや。
アスの精神状態が、魔族クラスで空間汚染を起こしていた。
――――――――――――――――――――――
プリンが無いなら作ればいい。
ということで──
「サマエル!」
「はい!我が君!」
全力で振り向くサマエル。なんでそんな嬉しそうなんだ。
「料理を教えてくれ!」
「はぁ!我が君が、、料理!?
任せてください、なんの料理ですか?カレーですか?グラタンですか?それとも、私オリジナルの……」
「プリンだ!」
「………ん?我が君、それは…料理というか、、」
「料理だ!」
「はい、我が君が料理というなら料理ですね!」
これが、完全服従。
サマエルによる料理教室が始まる。
〜SAMAEL’Sキッチン〜
「料理は、愛情を込めれば込めるだけ美味しくなるのです!」
よし、愛情!任せろ!
そして完成したのは──
「我が君、、、これは……ダークマターですか?」
見るからに“新しい生き物”。
「失礼だな、プリンだ!」
皿の上の謎の物体が、ぼふっ……と小さく煙を上げた。
サマエルが俺の腕を掴む。
「それ、誰に食べさせるんですか?」
「アスだ!」
サマエルの表情が“国が滅ぶ3秒前”みたいに驚きの表情を浮かべる。
「もう一個作ってみましょう。ちゃんと一から教えます。」
「え、?いいけど、、」
《命の危機だろ》
なんか言ったか?
《別に?》
――――――――――――――――――――――
数時間後。二作目のプリンが完成。
「ふむ、、黄色くはなったな…」
「……我が君は、食べ物を色でしか判別できないのですか?……」
まぁまぁ、形はプリンっぽいから合格やろ。
「手伝ってくれてありがと!行ってくる!」
二階の瘴気もかなり薄まり、事態は平和に向かっている。
「アス?」
「なに、」
扉の向こうから力の無い声。
完全に拗ねてる。
「プリン持ってきたけど……」
ガチャッ!
勢いよく開いた扉からアスが飛び出し──
しかし皿の上の不恰好なプリンを見た瞬間、
表情が暗くなる。
「あの、、もう無くて作ってみたんだけど……」
「仕方ないなぁ、僕が試食してあげよう」
アスは一口、そろりとすくって食べた。
──顔がゆっくりと歪む。
「……まずい、」
「……ごめん。」
俺は心の中で崩れ落ちた。
――アス視点――
ライトの顔が暗くなった。
やべ……言いすぎた。
……でも不味いんだよ。本当に。
この上に乗ってるカラメル?これ、こんな苦いわけないでしょ、洗面所のカビみたいな味する。
でも、僕のために作ってくれたんだよな。
「……まぁ、食べれなくはないけどね!」
自分で言いながら泣きそうになる味だが、勢いで全部食べた。
ライトが「え?」って顔してる。
「次はもっと美味しいの作ってね!」
「……おう!待っとけ!」
「人の食べといて……」
「それは、、本当ごめん。」
ライトが部屋を出ていく背中を見送りつつ、アスは思った。
(なんで、悪魔の僕がこんなに気を遣ってんだろ、変な主人。)
こうして、プリン事件は終結した。




