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第八十三話 始祖と死相

(1000年待ったんだ。楽しませてくれよライト………)

 アスタロトは、胸の中でライトに対する期待を込めていた。

 時間の感覚すら曖昧になるほどの長い年月。それでもその思いだけは色褪せることなく、熱を帯び続けながら、ライトを思っていた。


 ⸻


 バフォメットが呼び出された瞬間、世界は一変した。


 地面は黒曜石のように赤く光を帯び、空気は肌を刺す熱を孕んでいる。

 灼熱の気流が渦を巻き、遠くでは溶岩が泡立つような音が聞こえる。

 ここは──サタンの魔王城。

 まるで地獄の中心に落ちたかのような空間だった。


 そこにサタンは背を預け、玉座に腰掛けていた。

 深紅に輝く瞳がゆっくりと開く。


「君はどう思う?

 この物語の主人公は、誰だと思う?」


 突然の問い。

 バフォメットは、近くの椅子に座り、思わず身を引き締めた。


「そりゃ、始祖の魂を持つヴェノム殿、では?」


 その声には、呼び出されたばかりの困惑が滲んでいた。


 サタンは肩をすくめ、天井を見上げる。

 その天井は炎の渦がゆっくり回転し、星のように火花が散っていた。


「まぁ、そうなるか………人生の主人公はいつだって自分だからな、決めるのは難しいよな、」


 バフォメットはその言葉の意図を掴めず、内心で眉をひそめる。

(一体なんなんです?)

 喉まで出かかった言葉を飲み込み、ただ静かに待つ。


 サタンは腕を伸ばし、指先で炎の粒を弾いた。

 赤い火花が音もなく空中に散る。


「……けどな、自分の人生の主人公は自分だが、

 その世界を変える力を持つ、世界の主人公は1人。絶対にいる。そいつを中心に世界(ものがたり)は回る。

 世界の主人公は、アスタロトだよ。」


 サタンはそう言って、炎とは対照的な柔らかな笑みを浮かべた。


 バフォメットは思わず目を瞬かせる。

「は?

 いや………なんで、」


 サタンは視線を落とし、指でこめかみを軽く押さえる。


「ライトは特別だ。」


 その声音は、熱に満ちた魔王城の空気とは違う静けさを纏っていた。


「神はこの星、この世界を作った。

 この世界は神が作った世界のうちの一つでしかない。

 神は、自分たちの代わりに世界を発展させるため、自分たちを模した、同じ能力を持つ始祖という人を作った。

 彼が持つ能力、星界律は一つ一つが惑星特有の性質を持ち、その魔法は、その後から生まれた人たちに一つ一つ教え、今現存している魔法の元を作った。

 その魂の生まれ変わり、それが光輝であり、後のライトだった。」


 バフォメットは、ゆっくりとその話を噛みしめていく。


 サタンは足を組み直し、続ける。


「だが、神は始祖を作った時、同じくもう1人の始祖を作ろうとした、だが失敗し、戸破心音である最初の死相を作ってしまった。

 戸破は、神の目を盗んでいくつもの仲間を作った。

 そいつらは、神に反抗した。そいつは人間の死因、昔からある呪いを持った異形の人々、死相が生まれた。

 死相は、始祖とは対となる13人の死神。」


 サタンは視線だけをバフォメットへ向ける。

「そんな死相を無視して、始祖を育てたのは誰だと思う?」


 バフォメットは少し考え、答えた。


「創造神の神、、とか?」


「いいや、神はそこまでは面倒を見なかった。

 なんなら、誰も見なかったな。俺もその1人だった。

 けど、1人それがアスタロトだ。」


 サタンの声に、わずかな悔恨のような色が滲む。


「アイツは、幼い赤ん坊の、魔物だらけの世界からライトを育てた。

 抱っこの仕方も、あやし方も分からない。

 他の世界で、人間を悪い穴に落としていたあの、

 アイツが不器用ながらな……」


 バフォメットは驚愕を隠せなかった。


「アスタロトが?」


 サタンはゆっくりと頷く。


「アスタロトは最古参の1人だ。

 サタン、ベルゼブブ、アスタロト、ルシファー……その中でも、アイツは異質だよ。」


 そして、語気を少し強める。


「そこでアイツはライトに逆行の魔法をかけた。

 ライトが死んだら、少しのクールタイムがあるものの、死ぬ前に戻る。

 寿命で死ぬ以外は全てにそれが適応される。

 ライトを救うためにな、、

 だから、アイツはこの世界で未来のことを体験しつつまたこの世界に生まれた始祖を、ライトを過去で起きたことから救ってるんだ。

 やり直してな、

 1000年いやもっと掛かっているかもしれない。

 人間でも魔王にまで行ったら、魔力が膨大になり寿命も伸びる、その過程で誰かに殺されれば再度やり直す。俺にもアイツがどこまで何をしたのかは詳しいことは、知らない。」


 サタンの説明は淡々としているが、語られる事実は世界の根幹を揺るがす。


 バフォメットの眉間に皺が寄る。


「なぜ、あなたがそれを知っていて、

 私に話したんですか?

 それと、なぜ魔王にライトを登らせた?彼女は……」


 サタンはわずかに笑い、真意を告げた。


「お前は信用できる。

 俺は過去にアイツから聞いて、戻る時俺も巻き込まれるようになった。記憶を持ってな、何かあった時協力してもらうためだろう。

 お前にもこれを話したことで、巻き込まれることになってる。」


 バフォメットはこめかみを押さえたくなる衝動に駆られ、息を吐く。


「そんな物騒なもの、話しただけで適応されるものを私に簡単に言わないでくださいよ、」


 ため息は重かったが、それでも理解しなければならない現実だった。


 サタンは姿勢を変えず、続ける。


「それで、多分魔王になれば俺もクレアもお前もいる。

 協力者もいるし、人も増える。ライトが勇者時代の仲間に裏切られるのを知っていて、

 魔王に落とした。

 ライト自身を守るのにそれが最適だったんだろう。

 アイツはアスタロトだ。未来が見える。

 どこまで見えるのかは知らないが、、

 アイツが世界を回してるんだ。俺はそれを聞いて、暇だし、何かを守る姿勢に共感した。

 俺は神からこの世界を守るよう言われてるからな……」


 バフォメットは少しだけ息を飲む。

 サタンが“守る”という言葉を使うのは珍しかった。


「なるほど……それで?」


 問いかけに、サタンは目を伏せた。


「イーサンがその能力を悪用した。

 どうやら、アスタロトを一時的に自分のところに保有したのは、その逆光の対象をイーサンにしたかったからだろう。

 だから、世界が一瞬戻った。俺はそう感じた。

 ライトが今死ねば、、アスタロトが暴走する。

 それと、そろそろライトの星界律も覚醒する。」


「なんで、それが?」


「過去にもあったんだよ……まぁ、その時はどうにかしたが、、今回は”そいつ”が居ない。

 アスタロトが暴走する、まずい状態ってことだ。

 手に負えない、、」


 サタンの声に焦りが滲む。

 熱気の揺らめきとは違う、現実的な危機がそこにあった。


 だが、2人はまだ動けない。

 アス──アスタロトの命令があるからだ。


 未来を確定で動かせるのはアスタロトのみ。

 その他の存在は“関与”までしか許されず、

 “行動”はできない。


 それが逆行魔法の縛り。


 炎と影に包まれた広間で、

 サタンとバフォメットはただ静かに、

 動き出す運命の気配を感知していた。


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