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第八十一話 厄災の前奏曲、そのおわり

むずい

「そんなものか………」

 死相2人は、これ以上相手にする価値はないと悟ったように背を向け、霧のように気配を薄れさせながら去っていった。


 エレンは口元を押さえるが、指のすき間から赤い血液が滲む。

 内側から焼かれるような熱と痛みが走り、立っているだけで限界だ。

 カインは剣を握ろうと試みるが、握力が抜けて震え、刃がカチリとわずかに揺れる。

 スミスは抵抗する気力すら奪われ、乾いた呼吸を繰り返しながら横たわる。


 ペストリスの病の呪いが血管を焼き、

 トワルの老化の力が身体の奥から時間を奪っていく

 三人はただ、消えかけの蝋燭の火のように、かろうじて命を繋ぎとめているだけだった。


 周囲の空間は妙に静かだ。

 焔やアヌビスたち仲間に送ったはずの“自然伝達”は、壁に吸い込まれるように消えていく。

 気配を探れば、城の地下全体に結界が張り巡らされているのがわかる。

 魔法通信を遮断するための、強固な封じの魔法だ。


「………上に行こう、、

 ここから抜けるぞ、」


 カインは膝を震わせながら、剣の柄に体重を預けてゆっくりと立ち上がる。

 その動きだけで息が荒くなる。

 だが背筋は折れておらず、仲間を導く意志だけはまだ燃えていた。


 エレンとスミスはその背を見て、

 もはや折り畳まれそうな脚を無理やり引きずりながら、カインのあとを追った。


 ――――――――――――――――――――――


 外では、空気そのものが変わっていく。

 魔力の形が“大きくねじれていく”のが遠くからでもわかった。


 ヴルドの身体を通る血流が異様な速度で回転し、

 瞳は濁ったような赤に染まり、

 髪も白から血色へと変貌していく。


 目の下から首筋にかけて浮かび上がる赤い線は、まるで体内から血が滲み出ているかのようだ。

 白い装束は解けるように影に吸い込まれ、

 代わりに動きやすい漆黒の布が身体に沿って形を整える。


 彼の足元の地面が小さく震え、歩き出すごとに影が揺れた。


 アスとの激突で吹き飛ばされたヴルドは、

 城から大きく離れ、ルクサニア王国の端の方へと落ちた。

 まだサマエル達が追いつかないほど遠い。


 遠方で住民たちが悲鳴を上げて逃げ出す。

 地面が波打ち、空気が爆ぜる。


 そんな混乱の中、

 二人の拳がぶつかった瞬間、

 まるで雷鳴のような衝撃が周囲に広がった。


「そんなもんか!」


 ヴルドが挑発する。

 彼の拳には血液が薄い刃のように纏わりつき、振るたびに空が切れる。


 アスは無言のまま。

 微動すらない表情で念動力を放つと、

 周りの建物の瓦礫が一斉に浮かび上がり、矢のようにヴルドへ向かって飛んだ。


 ヴルドは即座に距離を取り、指先から赤い液を伸ばす。

 瞬時に固形化した血の刃が弧を描き、迫る瓦礫を真っ二つに断ち割った。


血呪腕(けつじゅわん)……」


 そう呟いた瞬間、右腕が膨れ上がる。

 赤黒い筋肉が弾けるように盛り上がり、

 まるで獣の腕のような太さへと変質した。


 地面を踏み砕き、ヴルドはアスへ突撃する。

 腕を振りかぶった瞬間に生じた爆風が、砂埃と破片を巻き上げ竜巻のように迫る。


 叩き込まれる直前──

 アスは微かに笑った。


零域念壊(れいいきねんかい)。」


 発した瞬間、周囲の空間がきしみ、

 アスの周囲1メートルの物体が、

 まるで存在そのものを否定されたかのように粉々に潰された。


 ヴルドの巨大な腕も例外ではない。

 衝撃と共に機能を奪われ、

 力の源ごと粉砕されていく感触に、ヴルドの顔が歪む。


 倒れ込むヴルドを見下ろし、

 アスは冷えた声で言い捨てる。


「見越してる。

 まんまと来てバカみたい、」


 そのまま背を向け歩き出そうとした、その時。


「……まぁ、そうなるか、、

 ライト、お前の言う通りにしてみてよかった、俺だったらこのまま脳筋でやって終わるとこだった。」


 《お前がそう感謝するなんてな、

 策を考えた甲斐があったよ、》


「ん?」


 次の瞬間。


王血領域(おうけつりょういき)……」


 地面に広がっていた血液が、まるで生き物のように一斉に跳ね上がる。

 そして細かな弾丸へと変形し、空気を裂いてアスへ殺到した。


 未来が見えるアスを“未来通りに動き誘導し、隙を作る”──

 ライトの策だった。


 だが。


未来重奏(みらいじゅうそう)


 アスの手が前へかざされる。

 0.5秒先から3秒先までの未来を重ね合わせ、

 防御と攻撃を同時に成立させる技。


 一瞬で未来の攻撃の重なりがヴルドへ殺到し、

 ヴルドには“防御魔法を撃つアス”しか見えていなかった。


 実際はその同時、

 3秒先の攻撃が伏せて放たれていたのだ。


 避けたはずの未来すら潰す──

 悪魔三代支配者の一人、アスタロトだからこその芸当。

 落ちていた瓦礫が槍のように形が変わり、ヴルドへ向かって飛んでいく。


 なんとか避けるものの、流石のヴルドでも苦しそうな表情を浮かべる。


「くっ……身体がもたないが、使う!」


 《おい待て!俺の身体!》


「知るか!このままだと俺たちも死ぬ!」


 ヴルドは叫びながら血を爆発させる。


血獄葬界(ちごくそうかい)!」


 その瞬間、アスは理解した。

 未来視が示した。

 ヴルドは“力任せに真正面から突っ込んでくる”。


 なら対応できる──

 そう思った、その瞬間。


 背後に、気配。


「……え?」


 アスの脳が追いつく前に、背中でヴルドの存在が“確定”する。

 未来視すら空振りした状況に、アスが目を見開く。


 ヴルドは胸を張って言った。


「お前が未来を見るのなら、その未来を確定させるよりも、それよりも早く動いてお前が対応できなくすればいい、!」


 アスはアス自身が思った以上の脳筋だった事に驚きを隠せない。


 しかし同時に、

 ヴルドの言葉は理屈だけでなく“現実に裏付けされたもの”だった。


 人間の眼は0.02~0.03秒ごとに画像を更新する。

 高速で動き続けると、脳は動きを処理できず──

 1本の線に見えるか、止まって見える。


 ヴルドはそれを利用した。


「俺は血液を操れる。

 血液の速度を上げる事だってできる。それを自分の身体能力として適応させることもできるのだ。

 故に、ライトの身体は耐えきれなく今に死ぬだろう。

 いいのか?お前の大切な主人が死んでも?」


 その直後。


 ヴルドの魔力反応がふっと消え、

 髪は色を失い、目の光も薄れ──

 白髪の“ライト本人”へと戻っていった。


 彼は力なくアスの胸元へ倒れ込んだ。

 アスは驚いて両腕で受け止める。


 その瞬間。

 イーサンが掛けていた高度な洗脳魔法が、

 まるで氷が割れるように消えていった。


 いや──

 元々、壊れかけていたのだろう。

 アス自身が必死に抵抗し、

 思い出を手繰り寄せようとしていた。


「……手加減してたろ?完全に洗脳されてたら殺すだろ?

 俺たちを殺さないように、頑張って解いて手加減してたな?アスタロト、」


 ライトの声は弱々しく、震えていた。

 しかし確かな意志があった。


 アスは戻ってきた“主人”を見つめる。

 すると、小さく笑った。


「ごめん。戻ったよ。主人様(ライト)……」


 アスの瞳が、わずかに揺れる。

 力が抜けているライトに向かって、アスは抱きついた。


 ライトは優しく、ただそう言った。


「おかえり。」


 その言葉は、どんな魔法よりも、深く優しかった。

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