第七十七話 策略
もう一回投稿させて
「すごい……」
俺は思わずそう呟いた。
城門の前で足が止まる。巨大な白壁は太陽の光を反射してうっすら金色に輝き、城へと続く道には無数の旗がはためいていた。
後ろにいる配下たちも、きっと同じ光景に心を奪われているのだろう。誰もが視線を左右に忙しく動かし、まるで観光客みたいに見惚れていた。
ルクサニア王国。
この国を統治するのは、魔法使いのエリート一族──ルクサナ王家。
人口は二百〜三百万人ほど。
大陸中央南寄り、四つの国に囲まれた交易の要所。
だが強力すぎる結界のせいで、他国からは“軍事侵攻ほぼ不可能の孤立国”として警戒されている。
一見すると閉じた国で、鎖国っぽいが──中に入ると全く違う。
市場の奥からは笑い声。露店は活気に満ち、子どもたちが駆け回り、色とりどりの果物の香りが流れてくる。
俺の隣でサマエルが目を細めた。
「これは、我が国も尊敬しなければ……」
今は代理としてエルドレスト王国の運営をしている彼の言葉には、わずかな嫉妬の色があった。
確かに、あそこは少し文化が足りない。
だが代理であれほどの国をあそこまで立て直せるのは才能だ。
まぁ、それは置いておいて──俺は自分の城だけで毎日手一杯だけどね。
《無責任め。》
うるさい。
そんなやり取りをしていると、俺たちの前に一人の男が現れた。
高級な黒いロングコートに、やたら整ったセンター分け。後ろに束ねたオレンジ色の髪が陽光を反射する。
「これはこれは!
あの!最年少にして、最も早く魔王になられた!
ヴェノム様、そしてその御一行ではありませんか!!」
男は深く頭を下げた。
突然の熱量に、俺は一瞬どう返せばいいか迷う。
そこで前に出たのはシドウだ。
「誰だお前?」
警戒が滲む声。
男は顔を上げ、整った笑顔を作る。
「わたくし、カリサといいます。
ここ、ルクサニア王国の案内役として、この度ヴェノム様御一行を案内いたします。
宜しくどうぞ。私あなた方の大ファンでして!
それは、それは、、もういろいろ話が王国内で賑わっておりますよ!」
テンションが高い。
街の人々もこちらに気づき始め──
「あ!魔王様!」
「おお、すげぇ、本物だ!」
歓声が一斉に飛び、俺たちは囲まれはしないものの注目の的となった。
確かに人気者らしいが、それが逆に妙に引っかかる。
オレンジ色の髪をひとつに結んで、目元は笑っているが奥は読めない。
執事に近い黒の服装なのに、どこか動きが軽い。
──怪しい。
「怪しいな」
俺がそう思った瞬間、アテナが同じ言葉を口にし、ジロリとカリサを睨んだ。
案外勘がいいじゃないか、と思ったのも束の間。
「今夜泊まっていただけるホテルは最上級のものをご用意しています。」
「いい奴だな!」
買収が早い。
俺でなければ見逃しちゃうね。
「では、ルクサニア王国を案内いたします。」
俺たちはカリサの後を歩く。街を進むたび、白と金の建物が連続し、煌びやかな装飾が光を反射して眩しいくらいだ。
カリサは途切れることなく国の歴史を語っているが──
正直、聞いているやつは誰もいない。
どうでもいい。
それよりも──
「なんで今回俺たちを招待してくれたんだ?」
俺の問いに、意外にもカリサは素直に答えた。
「私共、先ほど言ったと思いますが、ファンでして、
特に、ここの国王様もヴェノム様と一度話したいと……アスタロトさんともね、」
アスが少し首をかしげる。
「僕とも?」
「ええ、一番最初の配下として、お話をいろいろ聞きたいそうですよ!」
カリサは身体をわずかに震わせ、興奮している様子だった。
正直ちょっと気持ち悪い。
「その国王って、ルクサナ王家の人?」
ある程度サマエルが調べたものを共有しているので、話なんか聞かなくても、歴史などはすぐにわかるのだ。
「いや、、今は少し、血統が違いまして……まぁいいでしょう。
どうですか?夜お食事でも……ホテルでひとまずお休みください。」
そして案内されたホテルは──
「すごいホテルだな……」
まるで王城の内装をそのまま移したような金銀の装飾。
広さは11人がゆうに走り回れ、さらに余裕がある。
どうなっているのか……
「主人っち!見て!すごいベッド跳ねるよ!」
焔が楽しそうにベッドの上で飛び跳ねる。
「あの、そこ私の荷物あるで、、あまり……」
スイが慌てて荷物を引っ込め、アヌビスは静かに部屋を歩き回って物珍しそうに見ていた。
少し休み、夜。
カリサが案内に来て食事の席へ向かった。
―――
「……皆さん!ぜひ食べてください!」
カリサが両腕を開き、豪華なテーブルを示した。
煌めく料理の山、香ばしい匂い。
「うまい!」
クロは尻尾をバタバタ。
「シドウ様!ここ最高!」
イバラは目を輝かせ、蒼もため息混じりに
「ほんとにすごいな、」と呟いた。
俺とアスの皿だけ、好物がきれいに並んでいる。
他の配下は同じメニュー。差の意味は謎だが、気に留めている余裕もない。
部屋も広々と大きな繋がっている机が広い部屋の中央にドンっと、置いてある。
装飾の凄さは言うまでもない。
そんな食事の最中──
扉が開き、赤髪の男が入ってきた。
カリサは彼の姿を見ると、すっと部屋の隅へ下がった。
俺は、その顔を知っていた。
忘れられるわけがない。
かつて一緒に勇者を目指した親友、
「やぁ、ライト、ちゃんと来てくれたんだね。
覚えてる?今は、ヴェノムって言った方がいいかい?」
イーサンだった。
「お前っ!」
俺が立ち上がろうとした瞬間、イーサンが片手を前に突き出す。
次の瞬間──身体が急激に押し潰され、机に叩きつけられた。
重力だ。
配下たちが武器を構えるも──一瞬で全員、動きを奪われた。
「血気盛んなのは、変わらないな。
君のことは全てわかってるんだから、対策しない分けないだろう?」
イーサンがゆっくり歩いてくる。
その余裕が腹立つが、動けない。
「それに、今君たちとは戦う気はないよ。
それに、戦えないだろうしね。
僕には近づけない。
食べたろ?ご飯……魔物や人外には魔力を制限させるための食べ物が大量にある。
それを、それに混ぜたから力は100%は出せない。1%でも出せればいい方だろう。」
身体が重い。
声も出ない。
まるで透明な鎖に四肢を縛られているみたいだ。
盛られた。
毒ではないが、それに近いものを──。
イーサンはアスに歩み寄った。
眠りこけたアスの頬に手を添える。
「……アスタロト、君が狙いだよ。」
その腕でアスを抱え、出ていこうとする。
「カリサ、他の物はそうだな、昔馴染みに仲だ。
殺さず、牢に突っ込め。」
「承知しました。」
静かすぎる返事。
カリサの目は笑っていなかった。
「アスタロト…」
アスタロトが連れ去られる。
サマエルが震えながら抵抗しようとするが、身体は動かない。
まだ聞けていない、アスなら始祖の事を……
話せてない、、
《動け。》
ヴルドの声が脳内に響いた瞬間──
俺の身体が、部分的に黒く変質する。
ヴルドの身体なら、俺と同じ体でも魂が違う。
別人だ、この毒も妨害も効かない。
俺は重力を力ずくでぶち破り、イーサンへ飛んだ。
「まじか、やっぱ君は………いつも僕の常識を超えてくるな。」
だが──イーサンもまた手を伸ばし、重力を叩きつける。
俺の身体が床に沈み込む。
「魔力妨害の手枷をかけておけ」
最後にそう命じ、イーサンはアスを抱えて部屋を出た。
扉が閉まり、俺たちは動けないまま取り残された──。




