第七十六話 信じる
最後まで突っ走るぜ〜!
次回作をどうするのかは、まだ考えてます。
「始まるよ。
ライトの最後の地上戦が……」
男は、石造りの城の最上階で、ゆっくりと目を細めた。
高い城の上から見下ろす王国の景色は、朝霧に包まれた静寂の街並み。
その奥で、闇を湛えた彼の瞳がじわりと歪む。
唇は笑っているのに、そこに温度はない。
まるでこの世界の終わりを、ただ楽しみに待つかのような――邪悪な笑みだった。
――――
出発当日。
ひんやりした朝の空気が、城の広間を薄く満たしていた。
俺が魔王になってから、半年なんてとっくに過ぎている。
重たい扉を押し開け、広間へ足を踏み入れると――そこには、出発を待つ十人の影が整列していた。
アス、シドウ、アテナ、サマエル、イバラ、焔、蒼、クロ、スイ、アヌビス。
皆、緊張の中にも、どこか覚悟の色を宿した目をしている。
他の配下たちは城に残し、必要になればいつでも召喚できる状態にしてある。
今回は、あまりに予測不能。
招待状。突然の呼び出し。明らかに怪しい状況だ。だからこそ、この精鋭だけを連れていく。
俺は一歩前に出て、皆を見渡した。
「今から起こる事が、本当にわからない。
けど……ここにいるみんなは俺にここまでついてきてくれた。
裏切らないと思うし、俺は信用してる。
何かあっても切り抜けるぞ?
これまでみたいに……俺はお前達を信じる。」
広間の空気がわずかに震えた。
自分でも驚くほど、言葉に迷いがなかった。
「こっちも信じてますよ、主人。」
シドウは、いつもの無愛想な表情を少しだけ緩めて、静かに笑った。
「主人っちだからここまでついて来たんだよね〜」
焔が軽く手を振りながら冗談めかして笑う。
でもその声の奥には、確かな信頼があった。
「……ああ、ありがとう。
じゃあ、行くか、ルクサニア王国へ!」
俺たちは一斉に歩き出し、巨大な城門が軋む音と共に、地響きのような足音が響いた。
ルクサニア王国へ――これは、避けられない戦いの始まりだった。
――――
魔王評議会を行ったあの部屋。
黒い大理石の床に、重く濃い空気が沈んでいる。
その中央の長机を挟み、サタンと戸破心音が向かい合って座っていた。
「で?何の用? サタン。」
心音は椅子に浅く腰掛け、脚を組む。
その顔は冷静……だが、瞳だけはどこか挑発的に笑っていた。
「お前、何かしてるだろ?」
サタンの声は低い。
胸の奥に溜め込んだ怒気を無理やり押し殺すような声音だった。
「それ、、言っても意味ないよね?」
心音は唇の端をわずかに上げる。
その態度は強気というより――余裕。
そして何より、彼女は実際に強い。
魔王の中でもサタンといい勝負ができるほどの存在だ。
「何か狙っているならやめとけ。
今はもうお前の時代じゃない。」
サタンの瞳が細く鋭く光る。
敵を見る目。
長年の経験が、危険をはっきり告げている。
「……だからまたその時代を来させるの。」
心音は軽く肩をすくめ、あくまで余裕を崩さない。
「お前には手を出さないさ。
それは、この世界の管理人がする事じゃない、」
言葉とは裏腹に、サタンの肩はわずかに強張っている。
「始祖に言われた事まだやってるんだね。
始祖とか星界律とか私は全部を壊す気でいるよ。
君のその地位もね。」
「勝てないだろ?」
「仲間がいる。」
「ダサいな」
「君に何ができるのかな?」
「挑発するのもいい加減にしろよ?」
次の瞬間――サタンから溢れた魔力が、空間そのものを撓ませた。
黒い壁が軋み、机の上に置かれた羽ペンが震えて転がる。
圧倒的な力に、心音の表情が初めて強ばった。
歪む空気。
焦げるような魔力の圧。
その本気を前に、心音は無言で立ち上がり、背を向ける。
サタンを見捨てるわけじゃない。
ただ、これ以上言い合えば本当に戦いになる。
それを理解しているからこそ、彼女は何も言わずに部屋を出て行った。
サタンは深く息を吐く。
「俺は他の仕事がある。
クレア、ライト達をみてやれ、こっそりだぞ?」
すると、空気が揺れ、影からクレアが飛び出してきた。
「やった!! また!ライトに会える〜、分かってるよ。
任せて〜!」
嬉しさを隠しきれず、その場でクルッと回転し、光の粒となって姿を消す。
(……心配だな。)
サタンはほんの一瞬だけ、眉をひそめた。
「ゼノ、いるか?」
扉の影から、白髪の青年が静かに現れた。
透き通るように白い肌。
無表情気味だが、目だけは異様に鋭い。
「分かってますよ、クレアさんを監視すればいいんですよね?」
「そうだ。」
サタンは短く返す。
「星界律のライトでしたっけ?
少し調べてもいいですか?」
「遠くから解析するぐらいにしとけ」
「了解です。」
ゼノは淡々と答えたが――その口元には、わずかな興味の色が浮かんでいた。
(コイツも少し、心配だが……まぁいいか。)
サタンはそう思いながら、もう一度深く息を吐いた。
こうして、
ライトをクレアが見守り、クレアをゼノが見張り、さらにその全てをサタンが気にかけるという、奇妙な監視網が完成した。
心配だが、サタンは仲間の魔王達を信じることにした。
世界の管理人として......
サタンは死相や他の勇者に狙われるライトを心配していたのだった。




