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第七十五話 一先ず会議、挟みます。

「………それで、その王国に向かうのですか?」

 サマエルが静かに問いかけた。特徴的な赤髪がわずかに揺れ、その瞳は目隠しで見えないが、

 状況を正確に見極めようとするように鋭く見える。


 もちろんそうだ、と俺は軽く頷いた。


 会議室には、初期からともにいるアスタロト、酒呑童子、アテナ、サマエル、イバラ、焔、蒼、スイ、クロ、アヌビス――十名の幹部が円卓を囲んで座っていた。

 重厚な木の机、壁に揺れる魔導ランプの灯り。全員の視線が俺に注がれている。


「まぁ、罠かもだけど……行くとしたら、

 このメンバーかな、」

 俺は椅子に深く腰をかけ、天井を見上げながら言った。喉の奥がわずかに重い。

 相手の狙いにわざわざ乗っていくようで、どうしても気が乗らない。


「まぁ、いざとなれば実力行使でいく。」

 現状の戦力なら問題はない。俺の配下は数も質も整っている。

 緊急時にはヴァルヴィスと言った配下達も呼び出せる。切り札は十分にある。


「わかった。そういう事なら、主人に従う他ないな。」

 シドウが静かに告げた。整った顔立ちのまま、いつもの落ち着いた調子だ。


「シドウ様が言うなら!俺様は否定はしない!」

 酒呑童子は豪快に笑い、拳を机にどんと置いた。


「主人様!私も行く!」

 アテナは勢いよく前に乗り出し、両手を机に置いて瞳を輝かせる。

 いいけど、まあ、この場にいる全員を連れていくつもりなんだけどね。


 こうして、俺たちはルクサニア王国からの招待状を受ける方針を固めた。

 死相の気配が気になるが……


「そんなのにビビるわけないでしょ〜」

 焔が炎のゆらめきのような笑みを浮かべて肩を竦めた。根拠はないけど、多分大丈夫なんだろう。


「ちょっと待って!なんで、うちに任せちゃうの!」

 横からイバラが文句を言ってきて、会議室の空気が一瞬だけ和らぐ。


 その時空間が歪み、黒い霧が静かに広がった。

 ぞっとする冷気。サタンの時と同じ“異空間”だ。


「ヴェノム殿……」

 姿を現したのは、魔王バフォメット。一人だけで来たらしい。


「どうした?」

 俺は肩の力を抜いて尋ねる。


 バフォメットは歩み寄りながら、低い声で言った。

「最近暴れ過ぎでは?」


 うん、正論すぎる。

 自覚はある。でも、そうしないと――世界は取れない。


「ダメなの? 魔王じゃん?」

 俺が笑って返すと、バフォメットは小さく、しかし隠しきれないため息をこぼした。

 丸聞こえだぞ。


「あのですね?

 あなたはこの世界の中心人物であり始祖な訳で……その中心人物が強くなると共にそれに匹敵するものが出てくるのです。

 あなたの世界にいた、漫画やアニメなどもそうでしょう?」


 この世界には転移者や転生者が多い。

 俺がいた元の世界のアニメや漫画みたいな概念がこの世界でも普通に回ってくる。


 ――つまり、主人公が強くなれば、それに釣り合う強敵が現れる。

 王道の展開が世界法則として成立するわけだ。


 ……いや待て。


 ん?なんで俺がこの世界の中心人物なんだ?

 発展はしてるが、まだ世界を滅ぼしてもいない。


「中心人物、始祖?」

 思わず首を傾げる。


 すると、バフォメットの顔色が変わった。

 明らかに“やらかした顔”。


「なんのこと?中心人物?始祖?って、説明!」

 問い詰めると、バフォメットは一瞬で逃げ道を探す獣みたいな目をした。


「ルクサニア王国に行くのであれば死相もいると思います、その人に聞いてみては!?」

 そう言い残し、異空間に飛び込み逃げていった。


 ……逃げたな、あの人。


 椅子に座り直し、俺は円卓のメンバーを見る。

 妙に視線を逸らすやつが多い。


「お前らさ、もしかしてバフォメットが言ってたこと知ってるの?」


 ギクッ、と音が聞こえそうなくらい全員の肩が跳ねた。


 彼らは人ではない。魔物、モンスター。

 歳月も知識も俺やそこら辺の人間よりも遥かに深い。


 特に――


「アスにシドウ、サマエルに焔、クロ、お前らあからさますぎるぞ?」


 メンバーの中でも反応が大きい面々だ。

 蒼は紅茶を優雅に啜り、わざとらしいほど穏やか。嘘が上手いのを俺は知っている。

 アヌビスは読めない。スイは平然を装って動揺が漏れている。

 アテナとイバラは……多分本当に何も知らない。


「いや……まぁ、、」

「なんのことですか、?主人……」

「我が君に!隠し事なんて……」

「うちらそんなことしないよ、?」

「そうそう!主人様!?」


 アス→シドウ→サマエル→焔→クロの順で、言っていることが全部バラバラ。

 逆に怪しさが増すだけだ。


 特にアス。いつも冷静な奴が焦っている。

 確定演出か、?


「アス?」

「ん?」

「隠してるな?」


 アスは一呼吸置き、観念したように目を伏せた。


「……始祖の事か……分かったよ、ライトには隠し事はあまりしたくないからね。

 でも、ルクサニア王国から帰ってきたら話すよ。」


 その瞬間、他の面々が“素晴らしい”と言わんばかりに拍手をした。


 ……全員、怖いくらいに怪しい。


 始祖――なんだよ、それ。


 こうして、俺たちの会議は一先ず幕を閉じた。

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