第六十八話 後半戦 後編
(熱い……なんだ、どうなった、先輩……)
全身を包む灼熱に慎一郎は意識を掴まれ、誰もいない空間にぽつんと取り残されたような錯覚を覚えた。
焦げた空気が皮膚を刺し、息を吸うたび肺の奥まで焼かれるようだ。
だが、霞む視界の先には、自分へ一直線に迫ってくる巨大な影――クロに跨り、こちらへ向かってくるライトの姿だけが鮮明に映っていた。
(攻撃される、、)
瞬間、慎一郎の身体が反応する。手が震えながらも刀を胸元へ引き寄せ、必死に構えをとった。自分の身を守る、それだけを考えて。
――
ドラゴンは俺に向かって炎を吹いてきた。目の前の空気が揺らぎ、灼熱の奔流が地面を融かす。
ったく、近づけないんですけど!
「おら!!ドラ野郎!こっち向けや!」
「ネメア様!」
離れた位置で、ネメアとその配下が大声で注意を引いているらしい。
しかし、炎に包まれたドラゴンは、一切気を逸らすことなく、ただ敵を焼き尽くすために咆哮を上げ続けていた。
「なら、喰らえ!」
ネメアの掌から放たれた白色の炎が流星のように走り、ドラゴンの後頭部に直撃する。
衝撃で巨体が揺れ、ドラゴンは反射的に空を裂く声をあげた。
「グオォォォォ——ッ!!」
巨大な羽が力任せに広がり、風圧が木々を薙ぎ払う。ついに攻撃を受けたと気づいたのか、ドラゴンがネメアへと視線を向けた。
「ナイス!」
そう思った矢先、ドラゴンは怒りのままにネメアへ突進していく。
「サマエル!」
呼ぶと同時にサマエルの影がふわりと現れ、ネメアを抱き上げると空へ跳んだ。
「大丈夫ですか?」
しかしネメアの視線は下――まだ地上に取り残された配下たちへ向けられていた。
「……ちょっ!」
バルクは火柱の合間を縫い、必死に逃げ惑う。そこへ割って入るように一振りの剣が炎を弾いた。
彼女?は聖騎士の紫――エルドだった。
「大丈夫ですか?」
紫色の髪を揺らしながら差し伸べられた手。
ドラゴンは体勢を立て直すと、再び鋭い目つきで2人をロックオンする。
「はいはい!通りますよ!」
「あんた面白いな!」
「……」
焔、グレモリー、クロムが横から一斉に攻撃を仕掛ける。
轟音と共に魔力が弾け、ドラゴンの動きが僅かに鈍る。その一瞬の隙を逃さず、成瀬が影を操るようにしてアンデッドを召喚し、さらに追撃した。
「僕たちもいくかい?」
「そのつもりだ。」
ロイとリアナも武器を構え、さらに前線へ踏み出す。
慧と篠原は風を裂くような脚さばきで一気に距離を詰め、刃がドラゴンの鱗へ触れようとした瞬間――
「待って!まだ!離れろ!」
リアナの制止が響いた。
逆方向から、遠野が脚に力を込めて一直線に突っ込む。
「おう、中々の身体強化だ、」
「はぁ、、」
蒼が感心するほどの一撃で、ドラゴンの巨体がわずかに吹き飛ぶ。
リアナが止めなければ、仲間が下敷きになっていたかもしれない。
「今!」
掛け声とともにリアナの糸が宙を走り、ドラゴンの動きを縛りつける。
ロイが魔法を放ち、慧と篠原が刃で切り刻む。
ルルは震える手でナイフを握りしめ、ドラゴンの羽を切り裂いた。
(ごめんなさい、、)
心の中で謝罪しながら。
さらに、イバラ、アテナ、雫、アルらが次々と攻撃を重ねる。
「あんたら、やるじゃない!」
ノクスの声が響き、彼女も加勢する。
エル、アヌビス、そして聖騎士エレン、カインまでも連携し、剣技によってドラゴンをさらに怯ませた。
弱ったその瞬間、、
ロバートとヴァルヴィスが勢いよく飛び出した。
「久しぶりだな!」
「うるせ、」
2人の合撃がドラゴンを大きく吹き飛ばす。
その先にはアスタロトとシドウの姿があった。
「しぶとすぎるだろ、傷口が再生してる、、次にやることは?」
「分かってるだろ?ライトの元へ飛ばす。」
2人は同時に足を振り上げ、灼熱のドラゴンを空高く蹴り飛ばす。
巨大な影が宙を舞い、ライトの元へと運ばれていく。
この2人だからこそ出来る技だ。
「ライト任せた!」
アスの声が風を裂いて届いた。
《ヘマするなよ?》
するもんかよ、
「スイ、居場所わかった?」
俺が呼びかけるとスイが頷く。
「はい!
桜井さんによれば、慎一郎はドラゴンの頭付近に肉体が……ですよね?」
「え、ええ...」
スイが桜井の転移能力で慎一郎の位置を特定してくれた。
「わかった、ありがとう。皆んな、よくやった、さすが俺の配下たち一同とその仲間だ。
よし……クロ、人を見つけたら直ぐにキャッチしろ少し部位がないかもだけど、、」
俺はみんなが時間稼ぎをしてくれた事で放てる技を、、手に力いっぱい込める。
カガリ、俺は変わったから………できる限りやるよ、
――
(なんだ、どこなんだ、、)
慎一郎の意識が揺れる。まぶたを開けた瞬間、目に飛び込んできたのは――敵も味方も入り乱れ、炎と光に包まれた混乱の戦場だった。
「……やめろ、、やめろ!」
目の前にはライト。
その手に集まる光が、これから何かを放とうとしているのは誰が見ても明らかだった。
防御しようとするが、遅い――
「星界律:アルタイル……翔烈!」
ライトの蒼白星が唸り、星界律の力が一点に凝縮された光となってドラゴン――慎一郎のいる胸部へ叩き込まれる。
閃光が走り、ドラゴンの身体が胸部から崩れ始める。
「クロ!」
「はい!」
クロが一直線に飛び、崩れる肉体の中から慎一郎を掬い上げる。
慎一郎の身体は力なく、俺の腕の中に収まった。
「………先輩、、ダメだ、失敗した………地獄の門の前で先に待つぞ、、」
慎一郎は死に際でも口角を上げ、ニヤリと微笑み、そう言い残した。
慎一郎はライトの手の中で静かに息を引き取った。
その罪は彼ではない。
突然この世界へ転移させられ、禁呪に魅入られ、抗えなかった――ただそれだけ。
この世界、いや天界を壊すか……
ライトはゆっくりと顔を上げる。
暗い空の奥、遥か彼方を睨みつけるのだった。
戦闘終わり!




