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第六十七話 後半戦 前編

 激しい激突。地面はえぐれ、土煙がもう白い霧みたいに辺り一帯を覆っていた。

「……先輩!そんなもんか!」

 慎一郎が勢いそのままに俺へ詰め寄ってくる。

 肩口から流れる剣圧が、風そのものを強制的に断ち切っていくみたいで、腕にかかる衝撃の重さが尋常じゃない。

 受け流すだけで骨がきしむ。捌くので精一杯だ。


「クロ!」

「はい!」

 反射的に呼ぶと同時に、俺の肩に乗っていたクロの口元がぱっと開き、灼熱の紫色の炎が噴き上がった。空気が一瞬で焼け、視界が紫と白に染まる。炎はひねりも逃げ道も与えず、獣のように慎一郎へ食らいつく。


 慎一郎は目を細め、地面を蹴って飛び退こうとするが、炎は追尾するように軌道を変えて襲う。次の瞬間、

「熱い、、熱い、、熱い!」

 腕が燃え上がった。皮膚の表面が光に溶けるように赤く、痛みが声に滲み出ている。


 それでも慎一郎の魔力は上がっていくのがわかった。体が一瞬、星みたいに光り輝く。本能的に崩壊寸前まで出力を引き上げてしまったのだろう。


「ったく、、」

 ぼそりと呟くと、慎一郎はすぐに呼吸を整え、冷静に戻った目で俺へ剣先を向けてくる。


「……なんでこうなったんだろうな、、」

 俺は水星を使い、空気を裂くほどの速度で地面を蹴る。一気に距離を詰め、攻撃のタイミングを図る。視界の端で揺れるのはクロの羽ばたきの影。


「さすが我が君!」

「へぇ、あれがね……」

 後方からサマエルの声。興奮で少し震えている。知らない顔も見えるが、こっち側につく目だ。敵意は感じない。


 俺は慎一郎を殺さない。そう心で決めていた。


 ――――


「お前は魔王だ。なら、人を殺すか?」

 カガリは迷いも含みもなく、ただ真っ直ぐに言った。焚き火の音だけが静かに間を埋める。


 当たり前である。


「……そうか、」

 まるで俺の心の底を瞬間的に読んだような反応。いや、読んだのだろう。カガリはそういうやつだ。


「なら、どう世界を救うんだ?」

 その言葉は、鋭いけど暖かい。


「……弱い人を助けるよ、世界を、」

 思ったままを口にした。


「それは、勇者と一緒じゃないか?」

 ……核心を刺された感じがした。


「お前は、勇者にもなった。魔王にもなった、二つの視点がある。それに前世はただの学生。

 一般人としての考え方も………

 その上でお前はどうする?」

 カガリの声は淡々としているのに、胸を抉る。


「……俺は、めんどくさい。」

 口をついて出たのはそれだった。


「……それが、答えか?」

「だめ?」

「いや、お前らしいな。」

 カガリが少しだけ笑った。焚き火の光が顔の輪郭を照らす。


 めんどくさい。考え込みすぎると視界が狭くなる。なるようになる。それで失敗するかもしれないけど、俺はなんとなくの感覚が好きだ。


「多くの立場を経験したから、、その場その場で俺は変わるよ。」

「そうだな、じゃあそんなめんどくさがりの気分屋バカ弟子に稽古をつけてやる。」

「なぁ、すこし言い過ぎじゃないか?」


 ―――


「今の感覚を忘れるな。さっさと帰れ、」

 カガリは背中を向けたまま言う。焚き火がぱち、と爆ぜた。


「わかったよ、ありがとな。」

 それだけ言って歩き出す。振り返らない俺に、カガリも振り返らないままだ。


「………」


 ――――――――――――――――――――――


「俺はお前を殺さない!」

「なんだ、見えない……」

 慎一郎の口調にはもう人間味が薄く、戦闘の衝動がむき出しになっていた。


 魔力を大幅に減少させる。

 慎一郎は視力が弱い、その為相手の魔力を感じ取っているみたいだ。なので、俺は魔力を一段と下げる。

 そして、自分より強い相手に勝つには、

 まず、自分が相手よりも弱いと自覚する。

 そして相手の足運び、腕、視線、呼吸……そういう細部を全部拾って動く。


 星界律、水星の速度が発動し、身体が光の筋になったように動く。


 手の内で天王星の閃光を構築し、冥王星で慎一郎の魂へ触れる。瞬間、膨大な思考が洪水みたいに流れ込んできた。


「何すんだ…!…」

 慎一郎に弾かれ、体が大きく吹き飛ぶ。視界がぐるりと回転する。


 反射で木星の守護を展開。透明な薄膜が全身を包み、衝撃を吸収して地面に立つ。


「もういい、、俺は死ぬ気だ。お前を殺して、俺も死ぬ。道連れだ、」

 慎一郎の身体から眩い光があふれ、皮膚の境界が崩れるように揺らぎ始める。


「……皆んな出ろ!」

 慎一郎の身体が崩壊し、霧のような光の粒が溢れ出す。それが触れた柱は、音もなく溶け落ちた。


「慎一郎様!」

 戦闘中であるルルが飛び込もうとするが、エレンとイバラが力いっぱい押さえ込む。


「その人も連れてけ!皆んな一斉に来い!」

 俺が叫ぶと、全員が迷わず俺にしがみつく。リアナにロイ、そしてさっきまで敵だった成瀬までも寄ってくる。今は戦闘どころじゃないく休戦のようだ。


「私たちは……」

「行け、、ライト……」

 成瀬だけが俺に近寄り、二人のかつての仲間は後方に下がった。


 霧は床を溶かしながら迫り、空間の縁がちりちりと燃えていく。


「何してんだ?全員、一気に運ぶ、、早くしろ。話は後、」

 俺は2人を急かす、2人は渋々俺に近づく。

 月の能力を使い、姿を光の中へ消す。幸い夜な為

 力の出方が段違いだった。


 ワープで城外へ抜けると、アスがすぐに近寄ってきた。

「ライト、おかえり。」

 俺の頭に手を置いた。

「ただいま。」

 そう返すと、外にいた配下たちも合流してきた。慎一郎の部下たちも混じっている。


 実際、忠誠を誓っていたのはルルだけのようで、他は衣食住のためについていただけらしい。それでも信頼関係はあったのだろう。


 慧がふらつきながら俺に頭を下げる。

「……慎一郎さんをどうにかしてくれませんか?」

 足が傷んでいる。金星で即座に回復させた。


「そのつもりで来た。」


「なぁ、お前どうなってるんだ?」

 ヴァルヴィスが眉を寄せる。

「まぁ、なんか色々分かってね、今は星界律をちゃんと使いこなせる。詳しいことはまた後で話すよ。ネメア!」

 呼べばすぐにネメアが現れる。


「援護頼む、後、、街の崩壊については経費で……」

「いいが、魔王に経費なんてないぞ。」

 ネメアが半眼で返す。


 まあいい。今は慎一郎を助ける。それが先だ。


「俺がなんとかする、みんなは援護を頼む。未来を見ることは大切だからね、、」

 アスのほうを見て言った。


 クロを巨大化させ、その背中にまたがる。クロの羽がばさりと広がり、空へ舞い上がる。下の街が小さくなっていく。


 慎一郎の姿は、全身が燃え上がり、炎の竜のような輪郭を纏っていた。

 禁呪による魔力の暴走だ。


「異世界ってほんと変。」

 つい口をつく。


 先制しようとしたが、熱線のような高温の光が先に飛び出した。慌てて俺たちは避ける。

 街の一角がえぐれ、建物が光の軌跡に沿って崩れ落ちる。


「うわ、、よし!まぁこの国再度建国は難しいか、、いくらで買い取るか……サタンに少し金を借りよう、」

 そんなことを考えながら、最後の攻撃手段を練る。


「クロ、時間稼ぎよろしく!」

「はい!主人様!!」

 クロは力強く返事をし、紫色の炎をまといながら慎一郎に向かって急降下した。

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