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第六十六話 中盤戦

 エルドレスト城。

 高い天井に荘厳な紋章が掲げられ、窓からの薄光が赤い絨毯を細く照らしていた。


「……慎一郎様、」

 王室奥、玉座に足を組み座る慎一郎へ、成瀬祐真が静かに声をかける。

 慎一郎は僅かに視線を上げた。今にも戦いの外気が胸に触れそうな、重い沈黙。


「、、わかっている。行ってこい、」

 低く短い声。成瀬はその意味を即座に理解する。

 出陣の合図だ。


「……はい行ってまいります。」

 背筋を伸ばし、振り返らず歩みを城門へ向けて進む成瀬。足音だけが静かな王室に響く。


 ――


 城外。

 石壁に囲まれた前庭、風が土埃を巻き上げる。


「もう直ぐ城だ!」

 ヴァルヴィスが仲間たちへ声を張る。その瞬間、頭上の瓦礫が不自然に揺れ、何かが一気に落下してきた。


 ドンッ!


 粉塵が舞い、着地の衝撃で地面が蜘蛛の巣状に割れる。

 その中心に成瀬が立っていた。無駄のない前傾姿勢、呼吸は乱れず、目は鋭い。


「お前らの相手は俺だ。」

 低く、挑むように構えを取る。片足が少し滑るほどの踏み込みで、完全に迎撃姿勢。


 成瀬は武道を極めた肉体。集団戦も単独戦も、近接も魔法も隙がない。

 だからこそ、周囲に張り詰めた気配だけで圧迫感が生まれた。


「俺を止めないと、お前らの仲間を相手しているアンデッド共は止まらんぞ。」

 成瀬は一同を睨みつけ、周囲の緊張だけさらに深めた。


「そうか、じゃあいくぞ!」

 ロバートはまるで散歩に行くような気軽さで言い、成瀬を無視して城へ向かう。


「ちょっと待て!」

 成瀬が慌てて手を伸ばす。足元の石片が跳ね、焦った動きが露わになる。


「なに?」

 ロバートがくるりと振り返る。完全にめんどくさそうな顔。


「なにじゃない!」

 成瀬のこめかみがピクつく。


「え、アンデッドだよ?めんどいよ?

 俺倒さないと、、まずいよ?」


「いや〜アイツらなら俺たちが戦闘を終えるまで食い止めてくれる。ここで余計な体力を使う必要はないんだよ、」

 ロバートの声は軽いが、言っていることは完全な正論。

 成瀬は口を開くが、返す言葉が詰まる。


「そうは、いかんでしょ!」

 半歩詰め寄り、思い切り手を広げて道を塞ぐ。


「わかったよ、、リアナ!ロイ!」

 ヴァルヴィスが渋い顔で呼ぶ。


「こいつらを相手させる、」


「なんで、私たち?」

 リアナが眉を寄せる。

「ホントだよ、」ロイも同意するように肩を竦める。


 その抗議を無視して、8人が一斉に城へ走り出す。石畳に靴音が交錯する。


 ――


「っ!」

 成瀬の拳がロイの頬にめり込む。ロイは後退しながらも即座に治癒魔法で裂けた皮膚を塞ぐ。

 同時に、背後からアンデッドの群れが溢れるように出現。


 リアナは左手を軽く払う。指先から糸が鋭く伸び、アンデッドの首が滑らかに切り落とされる。

 しかし量が多すぎる。


「そんなものか!」

 成瀬はアンデッドを蹴散らしながらロイへ突っ込む。

 ロイは距離を取りながら魔力を練る。


「ミスティックチェーン!」

 ロイの魔法が鎖となって成瀬の動きを縛る。しかし成瀬は筋力で鎖を一気に破壊し、飛び退いて爆発を避けた。


「やるな……」

 成瀬が薄く笑う。汗ひとつない。


「これでも、、魔王を倒した勇者と冒険した経歴があるんですよ、、」

 ロイが肩で息をしながら言う。リアナも隣で糸を握りしめ、無理に笑う。

 その過去は誇れるものではない——それでも今は、心を支えるために必要な言葉だった。


 ――――――――――――――――――――――


 王室。


 柱の影が伸び、風がなくともどこか冷たい空気が張り詰めている。


「待っていたぜ、」

 慎一郎はゆっくりと立ち上がり、刀を構えた。

 禍々しい気配、右腕は義手。五感はほぼ死んでいるはずなのに、存在だけが異常に重い。

 三代目勇者、その業火のような気迫だけで空気が震える。


「ルル、、半分相手しろ、」


「わかりました、」

 背後から現れた少女ルル。小柄だが、動きは刃そのもののように鋭い。軽いステップでナイフを構える。


「忘れてた、そいつもいたな。」

 アスが頭を掻く。その視線はルルに釘付け。


 エレンとイバラがルルの前に出る。残りの6人は慎一郎へ。


 戦闘開始。


 エレンが先に駆ける。

「遅いですね、」

 ルルはほぼ視界から消えるほどの速度で懐へ滑り込み、エレンの頬を掠めた。薄く血が走る。


 イバラは黒茨ノ大牙を振り回す。大きく重い剣筋だが、ルルはそれをひらりと避け、すれ違いざまにナイフを振るう。

 金属音だけが響く。


 ーー


「おら!」

 慎一郎が刀を振ると、ただの振り下ろしで城内が大きく揺れ、風圧がヴァルヴィスを直撃する。


「くっ、」

 ヴァルヴィスは柱を利用して死角から斬り込む。慎一郎は正面から受け、互角に打ち合う。

 刀と剣がぶつかるたび、火花が散り、床が削れる。


「付いてくるか!」

 慎一郎が距離を取り始めた瞬間、サマエルが魔法を唱える。


堕落の声(フォール・ボイス)

 チリ、と空気が歪む。

 魔法、魔力に制限をかける魔法、強者であればあるほど通じるものの、、、


「……残念だったな、、俺はもう魔法は使わない、魔力もな!」

 慎一郎は跳躍し、サマエルへ一直線に落ちて来る。


双剣乱華(ソード・ブロッサム)!」

 横からグレモリーが闇の剣を無数に飛ばす。

 しかし慎一郎は空中で全てを避け切る。軌跡だけが残り、刃が掠る距離すら許さない。


 ロバートが銃を向け、引き金を引く。

 銃弾は慎一郎の額へ一直線。

 だが慎一郎は刀で斬り、破片が逆にロバートの肩へ当たる。


 雫の瞳が金色に輝く。

 星界律・金星。

 金色の光がロバートの傷を塞いでいく。


「星界律、、禁呪をお前も使うのか!」

 慎一郎が雫へ突っ込む。

 サマエルとグレモリーの魔法が飛ぶが、一切視線を動かさず障害物だけを斬り裂く。


「雫!来るぞ!」

 アザゼルの声が響く。


「……もういい、逃げろ!」

 ロバートが叫ぶが、雫は一歩も下がらない。


 刃が届く瞬間——


「待って……」


 アスが割って入った。

星の英雄の演算アストラル・アルゴリズム、、」

 未来が見える。空気の流れ、魔力の軌跡、慎一郎の足運び。

 次の3秒の予測をすべて掴み、最適解で吹き飛ばす。

 そして、もう一つの未来を見て、


「そうはさせないよ、」

 アスは未来を読み、何かを見たようで嬉しそうに微笑む。


「アスタロト、、、悪魔か!」

 慎一郎がアスへ斬りかかる。

 アスは魔力で剣を形成し、刀と激突。

 互角のように見えるが、ヴァルヴィスは分かっていた。僅かに押されている。


「くっ……!」

 アスは跳ね返され、姿勢が崩れる。


「お前からだ………」

 慎一郎が殺意を乗せ、刀を振り上げる。

 決定的な隙。誰も間に合わない。


「すみません、我が君……」

 サマエルが悔しさで歯を食いしばり、どこか遠くにいる主人へ呟く。


 その瞬間。


「させねぇよ!」

 真横から爆炎が走った。


 轟音とともに城の屋根が吹き飛ぶ。

 夜空が露わになり、舞う瓦礫の向こうから一筋の光が降りてくる。


「いや、お前達よくやったよ!」

 白く輝く刀、蒼白星を構える。

 そこに立つのは魔王ライト。肩にはクロ。

 アスの前に立ちはだかる姿は、主人としてのそれだった。


「じゃ、反撃だな、、」


「来たか……先輩、」

 慎一郎が笑みを浮かべる。

 2人は正面から対峙した。


 その頃、城前ではネメア達もようやく到着。


「よし!ライト!遅れたな、、手伝うぜ!」

 全勢力が揃い、空気が変わる。


 ここから——後半戦が始まる。

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