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第六十五話 前半戦

 半分の兵を残して前線を維持し、もう半分を城へ送る――その命令を出そうとしたヴァルヴィスの声を、アスが鋭く遮った。


「半分はここで戦闘! もう半分は………」

「城に行け!、、でしょ?」

「そうだな、、」


 アスの声は狼煙のように戦場へ響き渡り、一瞬で全体の空気が切り替わる。

 無数のアンデッドたちが咆哮しながら押し寄せ、足元の大地が黒い血でぬかるむ。シドウはその中のひときわ広い空間で、慧と刀で正面から斬り結んでいた。火花が散るたび周囲の死者が吹き飛ぶ。


 横では、エルが空中へ手を掲げ、光粒子から次々と武器を生成。

 アヌビスはその武器を受け取り、荒れ狂う鉄の竜巻のようにアンデッドを一掃していく。しかし倒しても倒しても、数はまったく減らない。


「どうすんの!?これ!」

 焔が叫び、ノクスの肩越しに辺りを見渡す。

 ノクスは舌を打った。

「仕方ないだろ!つべこべ言わずに手を動かせ!」


 エレン、ヴァルヴィス、リアナ、ロイ、アス、サマエル、ロバート、イバラ、グレモリー、雫、

 10名が戦場を突破し、城へ向かう。残された者たちは、その背を守るために必死で層を作る。


 慧は血飛沫を浴びながら、薄く微笑んだ。

「………シドウさん、やりますね、、」


 慧は刀を逆手に持ち替え、着地の砂を巻き上げながら一気に距離を詰めた。

 前の戦いとは比べものにならない速度。シドウの首筋に冷たい刃が走る。

「くっ!」


 浅くはない。だが致命傷は免れた。赤い血液が一筋流れ落ちる。


(………なら、、俺様もだな、)


 シドウは俯き、焔蓮丸をゆっくりと構えた。その構えは見たこともない形。肘も、足も、隙だらけにしか見えない。


「見たことない構え、、」

 慧の直感は“ガラ空き”と告げていた。だからこそ——踏み込んだ。


 だがその瞬間、シドウは笑った。わずかに顔を上げ、焔蓮丸が黒い稲光のように走る。慧の足元、アキレス腱だけが正確に断たれた。


「……!」


 速度が落ち、膝が地面に叩きつけられる。


「カウンター、、ですか?」

 慧の声は凪いでいるが、表情の奥では焦りが滲んでいた。


「どうした?そんなもんか?」

 シドウの目は鋭く細まり、鬼の王のそれへと変わっていた。


 ――――――――――――――――――――――


 アンデッドの群れの中、ゆっくり歩いているひとりの老人。その存在の異様さに、聖騎士・赤のカインは即座に気づいた。老人は背筋を伸ばし、死者の群れの中でまるで散歩のように進んでいる。


「……あんた、誰だ?」

 カインは剣を抜き、老人の歩幅・呼吸・力みの一切を観察する。研ぎ澄まされた殺気が、老人の周囲にだけ濃く積もっていた。


 カインが踏み込み、斬りかかる。


落椿おちつばき……」


 老人の小さな呟き。次の瞬間、老人は半歩だけ後ろへ引いた。カインの刃が空を切ると同時に、老人の手が首元へ伸びる。片手で掴まれ、信じられない力で投げ飛ばされる。


 刀すら抜かず、聖騎士を放り投げた。


「私の名前は、篠原剣一……冥土の土産に、、」


 篠原は猛獣のような眼光の鋭さで刀を抜き、風切り音すら残さずカインの首へ走らせる――その刹那、横から蹴撃が飛び込んだ。爆風のような衝撃。


 篠原は吹き飛ばされたが、咄嗟に刀で衝撃を吸収し地面を滑りながら踏みとどまった。


「大丈夫かー?」

 駆けつけたアテナが乱暴に声をかける。


「……ああ、なんとかな、気をつけろ、あいつ強い、、」

「あそ、」


 アテナは警告も聞かず、拳だけで篠原へ突っ込む。篠原は刃を紙一重で操り、拳が触れる直前に体を捌いてかわす。隙を見つけ、一太刀。


 アテナは受け止められない。素手では本来無理だ。迫る刃にカインが再び割って入り、剣で弾いた。


「これでおあいこだ!」

「はぁ?あたしは自分で対処できた!」

「いや!できないな!」

「できたし!」


 二人の言い争いを、篠原は刀を軽く下げてただ見つめている。

「……訳がわからないですなぁ、、仲間割れですかい?」


 ――――――――――――――――――――――


「どこに行くんだよ!」

 王国内で、男女の転移者が激しく言い争っていた。周囲の住民は逃げ惑い、石畳には焦げ跡と血が飛び散っている。


「こんな戦い勝てるわけない!」

 桜井美澄は震える声で叫ぶ。顔は涙で濡れ、足は完全に逃走の方向へ向いている。


「戦わないとあの人に殺されるって!」

 遠野悠斗は桜井の腕を掴み、必死に引き留める。

 “あの人”とは慎一郎のことだろう。


「でも!戦ったらそれはそれでやられるよ?」

「………でも、」


 互いに正しいが互いに救われない。そんな会話が続いた瞬間――


「…あなた達だれですか?」

 静かな声が背後から落ちた。


 振り返ると、スイ、蒼、クロムが無表情に立っていた。桜井と悠斗は青ざめて硬直する。


「仲間か?慎一郎の、」

「………」


 桜井と悠斗は言葉を失い、喉が震えるだけだった。


「僕は優しいからね、大丈夫だよ、」

 蒼が微笑む。柔らかく、しかし底の見えない目。


「ほんと?」

 桜井は思わず反応してしまう。


 その一言を聞いた瞬間、蒼の笑みが変わる。

「ホントって反応したってことは、慎一郎の仲間か、、クロム!」


 クロムが無言で一歩前へ。クロムは何のためらいもなく剣を振り下ろす。


「ちょっ、、!まって!」


 桜井の叫びは、震える空気の中へ吸い込まれていった。

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