第六十二話 それぞれの意味
「イーサンは、、知らないな。
何もあれから連絡はない。お前は?」
カガリはそう告げ、じっと俺を見つめた。
その目の色で分かった。本当に“なにもない”のだろう。
「勇者を目指した、ミラの分も含めて、でも魔王を倒したのはいいがその後仲間に裏切られて………
その後は、まぁ、魔王になって配下作って、、、世界を壊す。イーサンとは違う風に、」
「わかった。」
カガリは一言だけだった。
叱られると思っていた俺は、その静けさに少し驚いた。
怒りでも軽蔑でもなく、ただ俺の言葉を受け止めるだけの声音だった。
「まぁ、、あのさ!図々しいのは分かるんだけど、鍛え直して欲しい、」
図々しい、それは分かってる。
カガリは簡単には了承しない、それはわかっていた。
そう告げると少し間を作りながらも、カガリは話し出した、
「......魔王に教えることはないと思うが、、仮にも弟子だ。、ただし2日だけ、だ。2日経ったらどんな状態でもここから出ていけ。帰ってくるな。」
「わかった。」
それは追放の宣告であり、同時にカガリなりの慈悲でもあった。
俺は“わかった”とだけ返した。余計な言葉を挟める空気じゃない。
でも、案外簡単に了承がでて俺は感謝で胸がいっぱいになった。
空気感は気まずさが皮膚の上を流れるように重く残る。
庭へ出ると、冷えた空気が張りつめていた。
カガリと俺は木刀を握り、クロは小屋の入口からこちらを静かに見守っている。
「いいか?星界律は俺にも分からん。剣技については上々だろう。」
その言葉に、俺は胸の奥が少しだけ誇らしくなる。
ヴルドの配下・クロムから教わってきた成果。
慎一郎ほどではないにせよ、確かに実力はついたはずだった。
そう思った瞬間だった。
腕に鋭い衝撃が走る。
自分でも何が起きたのか理解する前に、木刀が手からすっぽ抜けて宙を回って落ちた。
痛みで指が言うことをきかない。
「……え?」
顔を上げたときには、もうカガリの姿が消えていた。
背中に重い一撃。呼吸が詰まる。
反射で距離を取ったつもりが、その意図ごと読まれ、すぐに背後へ回り込まれていた。
カガリが視界に映らない。いや、映らないように気をつけているのだろう、
「、変わってないな!」
土が弾け、俺の身体が横に弾き飛ばされる。
砂煙が舞い上がる中、腕と背中がじんじん痺れていた。
「イッタ!手加減!」
カガリは腕を組んだまま、呆れたように言う。
「手加減?魔王を倒したんだろ?元勇者、現魔王が何言ってるんだ?武器がないなら、そんな時こそ魔法だろ。」
完全な正論だった。
言われてみればその通りなのに、反射ではまだ“剣”に頼ってしまう自分が悔しい。
「星界律は手札が多いんだろ?使い分けろ、一つ一つの惑星については?」
「それは、、本で学んだ。」
「お前に座学が出来るとはな、」
あれ?馬鹿にされてる?
でも、手札の量が強みだがかえってそれが俺を苦しめているのかもしれない。
それを感じ取ったのか、カガリは直ぐに話を切り出した。
「お前は、トランプでババ抜きというのを知ってるか?」
「...?、知ってるよ。アイツらとやってたし……」
「なら、じじ抜きは?」
「知ってる。」
「神経衰弱、大富豪、七並べ、」
「全部知ってる。」
「……では、それぞれのカードの具体的な意味は?」
そんなの、
「知らない。」
堂々と言うと、カガリは肩をガクッと落とした。
「トランプの色は赤と黒、それぞれは昼と夜で分かられている。その為、ぞれぞれ2色で分かれている。
トランプのクローバーは春、ダイヤは夏、ハートは秋、スペードは冬、カードのエース(1)はその季節の一週目になる。
カードの枚数は全て52枚、これは1年間の基本的な週の数。そして、1から13全て足すと91、それに4つの季節をかける。すると364、一年になるな。」
「でも、それだと、1足りないよ。一年は365だもん。」
俺はどうだと言わんばかりに、返してみた。だが、返答はすぐに返ってきた。
どうやら、まんまとやられたらしい。
「トランプにはジョーカーがあるだろ?」
「あ〜」
「それを足すと365、そしてジョーカーにはエキストラジョーカーというもう一枚白黒のものがある、それも足すと366、ほら4年に一度の閏年の完成だ。」
説明を聞きながら、思わず感心してしまう。
ただのゲームのはずのものが、一気に世界の仕組みに近づいた気がした。
「でも、それと星界律がなんの関係があるの?」
問い返すと、カガリの口調が少しだけ柔らかくなった。
「お前は、トランプを使うゲームでこんなことを考えながらしてるか?
ましてや、カード一枚一枚にも調べれば色々意味が出てくると思うが、そんな事を知らずにお前も色んな人も関係なくゲームをする。
何故なら、別に分からなくても、ルール的には関係もなくどうでもいい、ゲームは進む。
極論言うと、魔法も分かっていれば強いし詳しくなる。
でも、大まかなルールさえ覚えていれば大丈夫だ。全てを使う必要はない、どれが必要でどれをどう使うのか、それをどうその場面、どのゲームの種類で役立てるかが重要だ。
全てを入れるな、捨てれるなら捨てろ、その分楽で軽くなる。」
なるほど。
俺はずっと“全部”使おうとしてた。
星界律が万能すぎて、逆に扱いづらかった理由が今やっと腑に落ちる。
カガリは木刀を横へ放り投げる。
構えを取れという合図だ。
今度は剣ではなく、“魔法で来い”という意思が伝わってくる。
「分かったよ、、」
俺も静かに構えを取った。
空気が重くなる。
砂の上、俺の影とカガリの影だけが向かい合う。
そうして、俺は自分の使えるものを選択した。




