第六十話 死相part2
「入りな。はやく!」
「ああ、」
ヴァルヴィスは短く返事をし、促されるまま城門をくぐった。重厚な扉の向こうは冷たい空気が漂い、薄暗い廊下がまっすぐ奥へと続いている。足音が石造りの床に反響し、彼の存在をやけに大きく感じさせた。
「ヴァルヴィス!」
城に入った途端、勢いよく走り込んできたロバートがその名を呼ぶ。驚きと喜びと安堵が混ざった声だ。ヴァルヴィスも彼に気づき、わずかに目を見開いた。
「ロバート……」
「お前何してんだ!?」
ロバートが思わず詰め寄る。肩を掴まれたヴァルヴィスは、眉を寄せながら逆に問い返した。
「お前こそ、」
その言葉にロバートは「あ、そうか」といった様子で頷き、簡潔に説明した。
「俺はここで、配下としてやってんだよ、」
「なんだ、おまえもか」
「お前も!?」
ロバートは勢いのまま復唱してしまった。驚きより先に、呆れが口を突いて出たようだ。
「俺は、自由にやらせてもらう。ダークがそうだったようにな、アンタらを信じて見たい。」
その言葉を背中で聞き、前を歩いていたアスがふと振り返った。赤い瞳がヴァルヴィスを静かに射抜く。
「そう、疑い晴れたのかな?」
「まぁ、悪いのは教会の奴らだな…」
ヴァルヴィスは少しだけ俯いたが、その顔にはもう刺々しい復讐の色は残っていなかった。代わりに穏やかな、どこか吹っ切れたような笑みが浮かぶ。
「今は慎一郎優先だ。」
「……話を聞くよ、」
アスの短い声を合図に、配下たち全員が会議室へ集まった。円卓の周りに緊張が張り詰める。様々な種族や立場の者が入り混じる異様な空間だが、皆の視線はヴァルヴィスへ一点集中していた。
「いいか、俺たち聖騎士は十人居たが今は4人亡くなり六人になった。」
「聖騎士がなんで、まだ機能してるんだ?」
ロバートの疑問はもっともだった。国は滅び、マルシオンもほぼ壊滅状態。ヴルドとライト――あの厄災級の魔王たちによって。
アスは短く息を吐き、続けた。
「……まぁ、色々あってな。それも含めてほかの聖騎士、そしてライトに合わせたい奴らがいる。そいつらと会って説明をした後、慎一郎を倒しに行きたい、」
「なるほど、まずは会ってからって言うわけだな?」
ロバートはすぐに理解した。昔の親友という関係が、その早さを支えている。
「……そうだ。そして、エルドレストが落とされた。」
ヴァルヴィスが重く告げる。しかし配下たちの顔には「どこ?」と言わんばかりの無関心さが広がっていた。
「大国だ。魔法に関する………にしても、お前らライトの配下にしても適当すぎじゃ無いか?」
「まぁ、その分バケモノ的に強いからね!」
明るく言うイバラだったが、まるで理由になってない。
場には微妙な沈黙が広がり、視線がさりげなくヴァルヴィスへ再度向かう。あまりの強さから、皆が少し気まずそうにしていた。
「……まぁ、いいが、取り敢えず気になることがあって、大国にはそれぞれ死相と言うバカみたいに強い奴がいるが、、」
(学園の時の、ライトと一緒にいた奴みたいな感じか……)
シドウとアスは、互いに目を合わせ、自然と同じ考えに行き着いた。
「で、エルドレストの死相が見つかってない。それで、慎一郎一派が死相と交わったとも聞いてない。死相は強い奴の味方だからな、慎一郎の狙いはライトだろ?もしかしたら……」
「死相が来るってこと?」
アスがやや小馬鹿にしたように聞き返した。
「バカにはできないぞ?とんでもなく強い、そいつの行方がわかってから動き出さないと、、後々……」
ゴオーーン!
会議室が大きく揺れた。石造りの床が震え、壁の装飾品がカタカタと音を立てる。
「なに?地震?」
誰かが呟く。だが次の瞬間、揺れの主が自ら正体を示すように甲高い声が響き渡った。
「……ライトとかいう奴は、誰だ!?」
扉が勢いよく開かれる。
「俺様は!エルドレストの死相、リフト!地震を操り………」
名乗りながら姿を現したのは、不気味で異様な生物――肉体の形も眼光も、どこか常軌を逸している。だが。
彼が踏み込んだ先には、
聖騎士団長
長い時を生き抜いた悪魔
鬼の王
魔王の配下
……など、歴代屈指の“化物クラス”が勢揃いしていた。
リフトは固まった。
「……………」
全員の無言の圧が、物理的な重圧のように空気を歪める。
「………あ、えっと? 間違えました〜、、」
そっと扉を閉めようとしたその瞬間、全員が一斉に怒号を上げた。
「「逃がすか!!」」
凄まじい勢いで死相へ飛びかかる。
リフトの悲鳴は、会議室の扉が閉まる前にもう聞こえなくなっていた……




