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第五十九話 新たな配下?

 元マルシオン、小屋の中。湿った木の匂いがこもる狭い空間に、風を切るような音を立てて古びた扉がバタンと弾けるように開いた。埃が舞い上がり、張りつめた空気が一瞬揺れる。


「ヴァルヴィスさん!聖騎士がこれで2人やられました。……魔王でしょうか?」


 荒い息を吐きながら飛び込んできたのはラグノスだった。額には汗が浮かび、手は震えている。緊張が走るその報告に対し、ヴァルヴィスは新聞をゆっくりと折り畳み、わずかに首を横へ振った。


「アイツらはそんなことをしない、それに最近目撃情報がない、他の魔王もだ。」


 淡々と新聞の文字を追うような視線を落としながら告げる。静かな口調だが、その声の裏には確固たる確信があった。


「何故でしょう、、」


「全員集めろ、それと出発の準備だ。」


 ラグノスが息を呑むのがわかる。ヴァルヴィスの瞳が鋭く細められ、深い影がその表情を切り取る。


(慎一郎か、、)


 ヴァルヴィスはすでに土方慎一郎の存在に気づいていた。いや、認識したというより「これはあいつの匂いだ」とでも言うように、確信していた。

 一国家が丸ごと乗っ取られた事件は、世間を騒がせるほど大々的に報道された。

 その中心にいたのが“土方慎一郎”。あいつの狙いは明白だった――世間の注目を一点に集めること。


「今回は、、あの野郎と協力だ、、」


 何かを見据えるような、遠くを射抜くような目で、ヴァルヴィスは小さく呟いた。


 ――――――――――――――――――――――


 魔王評議会。威圧感のある巨大な円卓を囲むのは限られた魔王たち。重せまる空気の中、サタンが口を開く。


「で、どうするよ?慎一郎とか言う奴がお前ら魔王の領土の境界線で暴れてるようだが……」


 不機嫌そうに椅子を揺らしながら視線を巡らせる。今回集められているのはドラク、ネメア、ヴォルク、そしてエルド。


「この4人の境界線である国を落とす、よっぽどの器の持ち主だな、」


 ヴォルクは腕を組み、興味深そうに顎を上げた。まるで獲物を測る猛獣のようだ。


 その瞬間、エルドが机を勢いよく叩き、椅子を跳ね飛ばすように立ち上がった。


「感心してる場合じゃないよ!落とされたのはエルドレスト、私を信仰してた、魔法に精通してる大国だよ!」


 鳴り響く声には怒気と焦燥が混ざる。信者たちの顔が脳裏に浮かんでいるのだろう。


「まぁ、エルドが言いたいこともわかる。オレの所がそんなふうになったら、流石にキレるな」


 ドラクは腕を回し、エルドの肩を持つように口を挟む。


「オレさまも!アイツらに街をめちゃくちゃにされた!許せねぇよ!」


 ネメアの拳は小さく震えていた。怒りを押し殺しきれずにいる。


 サタンは一度手を叩き、場を落ち着かせるように視線を集めて話を切り出す。


「お前らの言い分もわかる。だが、ここでお前ら4人で……」


「俺は別に興味ないから、好きにしてくれって感じ。パスだな、」


 ヴォルクが飄々と話を遮った。エルドが睨みつけても意に介さない。


「わかった、じゃあ3人で行くとしてもネメア、頼んだんだろ?ヴェノムを……」


 サタンがネメアに視線を向ける。ネメアは顎を軽くしゃくって答えた。


「ああ、あとは任せろって、街の復興もあっちの獣人族を送ってもらって手伝ってもらってるよ、」


(なるほど、もう済んでるって訳か)


 サタンは内心で感心する。


「早っ!」


 無関心を貫いていたヴォルクですら驚き、声が裏返った。


「なら、もうこの件はラ……ヴェノムに任せていいんじゃないか?何かアイツには策があると思う。」


 サタンは柔らかく微笑んだ。


「確かに、なんかあいつはヴェノムを狙ってたけど…」


「え〜!サタンが言って終わらせないの!?そっちの方が早いじゃん!」


 エルドが椅子に沈みこむように肩を落とす。


「俺は暇じゃねぇな。」


「まぁ、そっちの方がいいかもな、」


 ドラクも静かに頷いた。


(ヴェノム……オレさまも手伝う)


 ネメアは心の中で、ライト――ヴェノムを信じた。


 ――――――――――――――――――――――


 サマエルはその異様な気配にいち早く気づいた。魔力の揺らぎがない、まるで“無”が歩いてくるような、そんな存在。


「あれは、、確か……」


 ライトから聞いていた“あいつ”の特徴が脳裏によみがえる。


「アスタロト!来客ですよ!」


 サマエルは急いで主人代理のアスタロトを呼んだ。


「なんだよ、スイ!いくよ!」


 アスタロトはベッドで大の字になって昼寝していたが、サマエルの声で勢いよく起き上がり、隣で寝ていたスイを抱え上げるようにして共に向かってくる。


 そして視界に入ったその姿を見た瞬間、アスタロトは露骨に眉をひそめた。


「………うわ、ヴァルヴィスじゃん、生きてたのか……」


 ずっと上から見下ろして見ていた。

 だが、ヴァルヴィスは、その視線に反応し、覇気をぶつけてくる。周囲の空気が一瞬歪む。


「げっ!」


 アスとサマエルは一瞬たじろぐだけで済んだが、スイはその衝撃に耐えきれず、膝から崩れ落ちた。


 アスはすぐに地上へ飛び降り、まっすぐにヴァルヴィスへ向かう。土の匂いが舞い、風が切れる。


「なに?」


 ヴァルヴィスは単身で来たようだ。かつての息子ダークの気配を思わせる、鋭い孤独の気配をまとっていた。


「話がある、ライトだろ?魔王、を呼んでくれ」


 冷えた声音で言い放つ。


 アスは鋭い視線を向けながら答えた。


「……今は不在。僕が代わりだよ。敵対しにきた訳じゃないだろ?」


 その確認の直後――。


 ヴァルヴィスの太刀が閃き、アスへ一直線に振り下ろされた。


 アスは紙一重でかわし、地を蹴って距離を取る。足元の砂が弾けた。


「……へぇ、そうくるか」


 アスはマッハで踏み込み、鋭い拳をヴァルヴィスへ突き出す。しかしヴァルヴィスは太刀の腹を使い、滑らかに拳を流し、逆にアスへ蹴りを叩き込む。


「くっ、」


 アスは即座に姿勢を立て直し、再び駆ける。ヴァルヴィスも身構えるが、アスが仕掛けた拳をまた太刀で受け流し、蹴りを入れようとする。しかしアスはそれを読み、ヴァルヴィスの足首を掴んで地面へ叩きつけた。


「何の用?死ににきたの?」


 アスが腰に手を当てながら、ゆっくりと間合いを詰める。


「いや……ようやくわかった、アンタは強い、上出来、満点だな……ハハ…」


 ヴァルヴィスは、かつてダークが持っていたのと同じ「何かを見据える目」を一瞬だけ見せた。


「悪かった。復讐に囚われ過ぎていたようだ、今回来たのはダークの件じゃない。慎一郎の件だ、ライトと話したかったが、居ないなら、アンタでいい。」


 ヴァルヴィスは微笑みすら浮かべながら言う。


 アスは、その突然すぎる展開に、警戒しながらも二歩ほど歩み寄った。


「話を聞こう。」


「助かる、単刀直入に言うぞ。俺はアンタらと手を組み、なんなら配下になってもいい、それで……

 “土方慎一郎討伐”を協力してもらうためにここに来た。」


 そう言った瞬間、アスの目が見開かれ、完全に固まった。


 唐突すぎる申し出に、理解が追いつかなかった……

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