第五十五話 魔法の始祖
「……で、俺のもとにやってきたのか?」
荒れた大地にひび割れた岩肌。黒煙のような魔素が渦を巻き、その中心でサマエルはゆっくりとフードを外した。対峙するのは、座らず、ただ立っているだけで圧を放つ魔王サタン。空気が重く揺らぐ。
「ええ、あなたは何か知らないんですか?」
サマエルが一歩踏み込み、真紅の瞳が微かに揺れる。
相手は、魔王の中でも最強格。最初に魔王となり、この世界の今の形を作った存在、サタンである。
「特にこっちにはそれと言ったことは起きてないが……転生者と転移者が増えてるとなると、天使がなんらかの力を使ってる、用心しろ、特に星界律は死守だ。
あいにく、魔王と悪魔、天使とは仲が悪い。」
低く響く声に、周囲の魔力が一瞬だけ震える。
「星界律、あなたにあの能力が必要なんですか?」
サマエルの問いは淡々としているが、その奥に探るような気配があった。
サタンは眉をほんの少しだけ上げ、不思議そうに見返す。
「お前知らないのか? 星界律はこの世界の魔法の始祖だ。全ての原点が星界律、今ある魔法は禁呪以外、
それの派生に過ぎない、」
「……なるほど、それを持って生まれた我が君は、、確かに死守ですね、」
「ああ、頼むぞ。」
サマエルは静かに頷き、黒い羽をひるがえして去っていった。
――――――――――――――――――――――
「星界律……」
《どうした?》
薄暗いダンジョンの中。壁に仕込まれた魔石のかすかな光だけが足元を照らす。湿った空気、奥で滴る水音。俺はひとりで進みながら、胸の奥にわだかまる疑問を再び思い返していた。
なんで魔王になってから星界律がここまで強化されたのか。
勇者だった頃は、身体強化くらいしか使えなかった。
だが今は星の呼吸、鼓動、性質までもが手に取るように伝わってくる。
「……どうした?来い……」
え?
目の前に現れたのは、あり得ない存在ヴルドだった。
ゆらり、と影が揺らぐように姿を形作る。
ヴルドは本来、俺の内側にいるはずだ。なんで……?
「お前が今見ているのは幻だ。だが、幻なんてものは、信じる者が一人でもいれば真実になる。
稽古をつけてやる。」
「後悔させるぞ?」
「やってみろ、」
条件反射のように星界律が発動する。火星の特性
爆発、炎、衝撃波。
掌に赤い光が集まり、俺は炎の球を一気にヴルドへ放った。
だがヴルドは風を払うように片腕を振るだけで弾き飛ばす。
「中々のもの作ったんだが……」
俺は手を頭の後ろに当て、肩を落としながらぼそっと呟く。
「あれでか?」
「……コイツ腹立つな……」
ヴルドが俺の周囲をゆっくりと歩きながら言う。
「星界律は、星の特性を使う。だから、無闇に撃ってはい解決とはならん。その時その時の特性と特徴を常に覚えて使え、じゃなきゃ、次に行けんぞ?」
立ち止まり、こちらを真っ直ぐ見つめるヴルド。その瞳の奥に、叱責と期待が混ざる。
確かに、星界律の性質を理解してないと話にならない。今の俺はある程度わかるぐらい、まして星界律についてで、元の星の特徴などはさっぱりなところがあったかも知れない。
今の俺は星界律を“扱っている風”なだけで、実際は星界律に振り回されている、
「わかった、、」
そう呟くとヴルドの姿は霧のように溶けて消えた。
俺は城へ戻り、一直線に書庫へ向かう。
巨大な扉を押し開けると、香ばしい紙の匂い。天井まで伸びる棚にびっしり並ぶ本の山。
その中から星に関する本を引き抜いていく。
その量、およそ……何冊だこれ。
《100とちょっとだな、、》
「集めすぎだよ……」
俺は苦笑しながら、ひたすら読み続けた。
――次の日――
「ライト………」
部屋の扉がキィと開き、アスが顔をのぞかせる。
机の上に散乱した本を見て、呆れたような、心配したような表情で近づいてきた。
「どうした、?」
アスは一枚の紙を差し出す。
新聞だ。表紙には大きく〈マルシオン〉の文字、そして〈魔王ヴェノム〉。
俺の名前がデカデカと載っている。
どうやら、俺が滅ぼしたマルシオンの残党が俺を探しているらしい。
まぁ、俺は城を動く気はない。
だが、サマエルが周囲に張った結界のおかげで、普通の人は近づくことすらできない。入ったら黒焦げまでがワンセットだ。
「これがなに?」
俺が尋ねると、アスは新聞の別記事を指差す。
「マルシオンのヴァルヴィス率いる聖騎士によると、慎一郎と名乗る者達とうちらが関係あるって、」
「……疑われたわけか……」
アスは肩をすくめ、続ける。
「そろそろ戦おう? 作戦会議しよう。それとさ、
ライト最近頑張ってるみたいだけど……一気に強くなりたいなら勇者時代の伝手を辿れば?」
椅子から勢いよく立ち上がった。
「伝手?誰のこと?」
わかる。あの人のことだ。
だが頼りたくない。まだ……いや、もう会いたくも、
「まぁ、ライトがいいって言うなら良いんじゃない?おすすめするだけだし、、ただ強くなるには必須でしょ?世界滅ぼす時、あの人はどうするの、?」
あの人とは、、俺の勇者時代の師匠。
胸がざわつく。言葉が出ない。
「………」
「どうする?」
「……考えとく、一旦みんなと会いたい……」
そう言い残し、俺は部屋を後にした。




