第五十二話 衝撃の再会
短めだよ!
あれは、15年と数ヶ月前――。
「光輝!一緒に帰ろうぜ!」
「今日どこいく?」
「今日は無理、さっさと帰りたい気分なんだ」
夕焼けは街全体をオレンジ色に染め、
帰宅ラッシュのざわめきと、友達の笑い声が混ざる。
制服のシャツの袖を揺らす風はどこか涼しく、
“いつも通りの日常”を思わせていた。
その時だ。
道端で跳ねたボール。
走り出す小さな足音。
そして、道路の真ん中で立ち止まった少女の姿が目に飛び込んできた。
トラックのクラクションが、耳をつんざくように鳴り響く。
考える暇なんてなかった。
ただ、体が勝手に走っていた。
少女の肩に手を伸ばし、その小さな体を後方へ押し出す。
夕焼け色の空がくるりと回り、世界が上下に揺れた。
次の瞬間――
何が起きたのか理解するより早く、
空気を裂く音と衝撃が重なる。
視界が一気に白くかすみ、
耳鳴りだけがぼうっと響く世界。
遠ざかる意識の中、光輝は淡々と考えていた。
(なんだ、、案外あっけないな、)
男子高校生だった前世のライトは、そのまま目を閉じた。
かすかに聞こえたのは、少女の震えた声。
「お兄ちゃん!!大丈夫!?ごめん、起きて! ……,」
少女はしゃくり上げながら叫び続け、
その声が途切れた瞬間、彼女の体が力なく横へ倒れ込んだ。
倒れている二人を囲むように、人々が集まってくる。
怯えた顔、興味本位の顔、スマホを向ける手。
ざわめきが大きくなり、
誰かの「救急車呼んだぞ!」という声が混ざった。
やがて救急隊が到着し、
ライトと少女は担架に乗せられ、
サイレンを響かせながら病院へ運び込まれた。
しかし――ライトはその後、息を引き取る。
少女も生まれつきの心臓疾患が限界に達していた。
病院の一角。
手術室前の冷たい蛍光灯の下で、医療スタッフの声が淡々と響く。
⸻
「レシピエントの少女、状態悪化。心不全が進行している。通常の治療では持たない」
「移植しか選択肢はないが、登録上の適合ドナーは現在ゼロだ。間に合わない」
「……そこへ、事故で光輝君が搬送。脳損傷が致命的だが、心臓の機能は維持されている」
「適合条件はほぼ一致。年齢差はあるが、サイズは許容範囲。医学的には使用可能だ」
「家族には状況を説明した。『自分の息子の最期を、誰かの命に繋げてほしい……』と同意済みだ」
「では、少女の救命を最優先し、移植手術に入る」
「了解。準備を開始する」
⸻
そして――現在。
石畳の路地を駆け抜ける少女は、
肩で息をしながらも、ライトに顔を向けた。
涙が頬を伝っては、走る振動でこぼれ落ちていく。
「……あの日ね、私は怪我なんてしてなかったの。でも、生まれつき心臓が弱くて、もう長くもたないって言われてたの。
あなたが助けてくれたあと、救急隊の人たちが“あなたの心臓なら私に合う”って言って……
私、あなたの心臓で、生きてるの。」
少女は言葉を吐き出すたび、胸を押さえるようにして震えていた。
後方では追手の足音が近づいてくる。
慎一郎がこちらに迫ってきている。
「おいおい!言ってる場合か!」
俺がそう逝って、少女の手を引くが、
それでも少女は俺を見ていた。
まるで、ずっと言えなかった言葉を、ようやく吐き出せたかのように。
俺は思わず言葉を失い、ただ少女の胸に宿る前の“自分の心臓”の鼓動を、
目の前で感じていた。




