第四十六話 星界律
おそらく、アスはあの悪魔を倒して、四天王はあと一人になる。
想定外……いや、予想できたはずだ。
ヴェイドが居ないことを、
静かに周囲の魔素が揺れ、焦げた風が頬を撫でる。
戦場の奥、黒煙の向こうにヴェイドの影だけが見えない。
となると、城の方か?
だが、ロバートとの通信が来ないと言う事は、もうやられた?
そうなると、次に行くべきは……いや、城が落とされれば戦いは終わる。
ヴェイドは終わらせたくなかった。
楽しんでいるのか、この状況を……
俺は直ぐにエルを見つめる。
「エル、」
「はい!パパ、どしたの?」
エルがぱちぱちと瞬きをする。
俺は直ぐにクレアに視線を送った。
クレアは風の匂い、地脈の震えを読むように目を細める。
「わかったよ、………あそこだな、」
クレアの指先が、遠くの丘を示す。
そこには濃密な魔素の気配。
そして、おそらく、もしも俺がヴェイドなら真っ先にあそこに行く。
俺がヴェイドならば、周辺から来る事は想定内。
どうする……
俺は前世の記憶、知識をフルに使う。
脳裏に浮かぶのは、昔に観たことのある映画。
斧を持った雷神が、仲間のピンチに空から降り立つシーン。
それが答えだった。
―――――――――
「そんなものか!」
焦げた砂塵の中で、ヴェイドの太刀が弧を描いた。
刃の軌跡が黒い霧を裂き、シドウの身体を大きく吹き飛ばす。
「百鬼走雷!!」
地を踏み砕く轟音。
シドウが雷光のような速度で地面を蹴り、ヴェイドへ一直線に蹴りを叩き込んだ。
足先が触れた瞬間、地表の岩盤が爆ぜる。
「シドウ殿!」
バフォメットが角を震わせて叫ぶ。
ヴェイドは愉悦の笑みを漏らす。
「ほぉう、?これほどまでの力か、、
久しぶりだな、右腕が痺れたのは……」
ヴェイドが太刀を振り下ろす。
シドウの首を、取る。
その瞬間。
空気が揺れた。
雷鳴のような破裂音と共に“何者か”が空から降ってくる。
「主人……」
目の前に影が立つ。
シドウの視界が震える。
そこにライト。
肩にはクロが乗り、後ろにはクレアの姿。
「ヴェイドを連れてこい!」
「俺様だ!」
俺は蒼白星でヴェイドの太刀を受け、そのまま蹴り飛ばした。
霧が弾け、ヴェイドの姿が滑る。
(何故コイツが……しかも、空から?
アイツはどうなった……)
ヴェイドは困惑し、丘の上を見た。
そこには、首のない四天王の遺体。
そして、その首を満面の笑みで抱えるエル。
スナイパーの四天王。
クレアの索敵で位置が割れ、エルが一撃で仕留めたのだ。
それにより、俺の空からの奇襲は完璧に決まった。
「反撃だ。俺の配下に手を出した。
殺す。この世から抹消する。」
俺はヴェイドを睨む。
脳裏にヴルドへ呼びかける。
いいよね?ヴルド。
《勝手にしろ、俺は知らん。》
ヴルドは興味なさそうに眠りへ戻った。
「かかって来い。ヴェノム!」
ヴェイドが切り掛かってくる。
俺はすぐに配下たちを離れさせ、透明なバリアを展開した。
中には俺とヴェイドだけ。
クロは今回はシドウに預けた。
「荒火衝!」
地面がめくれ上がる。
火星、星界律が発動し、蒼白星の刃が赤い炎を纏った。
俺は一直線に突っ込む。
だが、ヴェイドは一瞬で察知し、影のようにかわす。
反撃の太刀が振り下ろされる。
「滅蝕刃……」
黒い腐食の刃が飛ぶ。
俺は蒼白星で受け止めた……その判断が、誤りだった。
蒼白星の刃が、じわりと黒く腐食していく。
金属が泣くような軋み。
《武器を粗末に扱うな、》
今そこで起きるのかよ。
にしても、マジでやばい。
「………」
「終わりだ。魔王ヴェノム、武器もなし
それじゃあ勝てまい。」
ヴェイドが俺の首へ太刀を振り下ろす。
だが。
蒼白星の能力。
忠誠心がある限り、蒼白星は持ち主、主人である俺の力を底上げしていく。
負けたのはどっちかな……
「ヴルド!」
《はいよ、》
指先から一滴の血が落ちる。
その血は蒼白星を包み込み、真紅の刃へと変貌する。
治癒と強化を兼ねたヴルドの血剣化。
そして武器は一つじゃない。
腰にあるダークの銃。
俺は迷いなく引き金を引いた。
轟音。
ヴェイドの肩を銃弾が貫く。
だが、ヴェイドは魔王。
当然、それで死ぬわけがない。
俺は蒼白星を構えなおし、光速を超える踏み込み。
斬撃を叩き込むが、ヴェイドは受け、弾き返す。
「……ここまでだ!」
禍々しい瘴気が爆発する。
蝕滅の呪。
赤黒い霧があたり一体を腐らせる。
近づけば触れた瞬間に終わる。
普通なら絶望。
だが、俺は魔王で元勇者で、
“配下達の主人”だ。
シドウたちは気づいた。
「こりゃ……」
「これは、、」
「主人様!!」
((((この戦い、主人様の勝ちだ!!))))
木の上から見ていたアスタロトも目を細める。
「勝てたね、ライト……」
ヴェイドは混乱する。
「……何が来る!?」
お前の負けだよ。
近づけないなら、遠距離で焼き払う。
お前の敗因は、お前が自分を過信した。それだけ、
星界律、それは星の力を自分の物として扱うことの出来る力。戦闘向きではないが、圧倒的な手札の多さから強力視される禁忌魔法の一つ。
それは、最古の魔法の一つであり、なにより強力な事は、太陽系惑星以外の”全惑星の力を行使できる“事、
(そうか……そうだった、、コイツが星界律、いつの時代も厄介な、、魔法……。“始祖”が……!)
「ベテルギウス: 紅巨衝……」
赤白い光が俺の身体から噴き出す。
周囲の空気が焼けて崩れ、地面が波打つ。
次の瞬間、
身体が爆発した。
轟音。
赤い閃光。
圧力でバリアが粉々に砕け散る。
「主人!」
シドウの叫び。
しかし、
《世話を焼かせるな……》
ヴルドの声と共に、俺の全身の傷が高速で再生する。
皮膚が閉じ、骨が繋がり、筋肉が膨らむ。
回復力、やっぱり異常だな。
「おわった?」
静かに降りてきたのはアスタロト。
「ああ、倒した、、ね!」
後ろを振り向くと、地面には巨大な穴。
周囲の岩盤が砕け、灰が舞う。
少しやりすぎたな。ほぼ自滅技だし。
「さ、他のモンスターはどうする?大将は死んだけど、、」
辺りを見ると、魔物たちは一斉に散っていき、野生へ戻っていく。
こうして戦いは終わった。
だが怪我人は多い。
俺は配下たちを城へ戻し、介護や処置を始めさせた。
戦場には俺とシドウ、アスが残る。
隣にはバフォメット、ルシアン、クレア。
三人が手をかざすと、空間がぐにゃりと歪み、巨大な扉が現れる。
魔王評議会の入り口らしい。
「じゃ、行こっか」
アスが軽く言って、先に入る。
「アイツ、あんな簡単になんで入れるんだ?」
「分かりません、長生き………にしては、おかしいですね、」
俺とシドウは顔を見合わせ、アスの後に続いた。




