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第三十九話 策士

 あれから一日が経過していた。

 時間が経ったことで、頭の中に散らばっていた情報は、ようやく形を持ち始めている。


 ヴルドとクレア、二人から断片的に聞かされた話をつなぎ合わせ、俺は現状を整理していた。

 魔王評議会、それはこの世界に存在する魔王全員が集い、名目上は報告や調整を行う場だという。

 だが実際には、力関係の確認と、牽制(けんせい)と、裏の思惑が交錯する場所だ。


 そして今回、その場に俺が呼ばれている。

 ルシアン、バフォメット、サタン、そして新たにクレア。

 四人は俺を「歓迎する」という形で名を連ねていた。


 支援者は揃った。

 少なくとも、表向きには。


 あとは、俺が席を空けるだけ――

 そう思っていた矢先に、最悪の報せが重なる。


 ヴェイドの復活。


 クレアは“決定的な瞬間”を目撃し、ヴルドもまた、確かにその気配を感じ取っていたらしい。

 二人の感覚が一致している以上、これは誤報ではない。

 まぁ、席を空けるべき人物がようやく現れた。

 とポジティブに捉えるとする。


 問題は、戦力差だ。

 相手は三万の軍勢。

 正面からぶつかれば、勝ち目は薄い。

 いや、正直に言えば、

 正攻法じゃ普通にやっても勝てまへん。


 だからこそ、クレアは軽い調子で、しかし核心を突く提案をしてきた。


「勝ちたいなら、ルシアン、バフォメット達から配下を借りればいい。

 あれなら僕も手を貸してもいいよ〜

 アイツが勝ったらヴェルデンの森の支配権も取られるかもしれない。」


 ヴェルデンの森。

 この異世界の大陸、そのほぼ中央に位置する広大な領域。

 魔力の流れ、地理的要衝(ちりてきようしょう)、資源、

 どれを取っても、魔王達が目の色を変える理由には事欠かない。


 もしヴェイドがここを奪えば、独占する可能性は高い。

 それは他の魔王達にとっても、決して見過ごせない事態だった。


 ルシアンやバフォメットの配下が加われば、数では及ばない。

 だが、個々の実力では十分に拮抗できる。

 そういう計算だ。


 そうして俺は、ようやく「現状」を把握した。


 ⸻


 朝の食堂には、穏やかな空気が流れていた。

 少なくとも、表面上は。


「ここの朝食は、美味いな!

 誰が作っているんだ?」


 クレアは皿を抱えるようにしながら、満面の笑みでそう言った。

 夢中で食べ進めているせいか、口元には食べカスが残っている。

 最強の魔王という肩書きとは、あまりにも不釣り合いな光景だった。


「アンタが昨日ボコった人だよ、」


 サマエルである。

 一切の感情を乗せず、事実だけを突きつける。


「………聞かなかったことにしよう。」


 クレアは一瞬だけ動きを止め、すぐに何事もなかったかのように食事を再開した。


 食事が終わり、クレアが二階へ向かおうとしたその時。

 彼女は、不意にアスの方へ視線を向ける。

 その視線には、先ほどまでの無邪気さはなかった。


 階段を上がる途中、クレアは立ち止まり、声をかける。

 その声音は、いつものおちゃらけた調子ではなく、どこか探るような低さを帯びていた。


「何してんだ?アスタロト。

 お前、こういうお遊び好きだっけ?」


 クレアは微笑みながらも、鋭い視線でアスを捉える。


「なに?お前……」


 アスはポケットに手を入れたまま、警戒を隠そうともせずに返す。


「いや、別にいいんだけど、猫被るならうまくやれよ。昔から知ってる僕から見ると、弱く見せすぎ、

 何が目的で、ライトを使ってるの?」


 空気が、一瞬だけ張り詰める。


「……昔から?

 僕の何がわかるんだよ、」


 アスはそう言い残し、クレアの横をすり抜ける。

 だが、その瞬間、

 彼女はほんの僅かに身を屈め、声を落とす。


「しーっ……」


 指を口元に添え、視線だけで黙れと告げる。

 相手が“最強の魔王”であるにも関わらず、そこに怯えはない。

 むしろ、触れられては困る何かを隠すような、鋭い威圧があった。


「はいはい……言わないよ、演技頑張れよ、」


 クレアは肩をすくめ、それ以上踏み込むことなく、その場を離れる。


 アスはその背中を見送り、すぐに自分の部屋へ戻った。


 扉を閉めると、部屋の中には既にスライム状のスイが、ベッドの上でくつろいでいる。


「アス様?」


 形を保ったまま、スイは小さく身体を傾ける。


 アスは扉の向こうに気配がないことを確認してから、低く呟いた。


「……なんでもない。少しだけ、予定外なことが起きただけだよ、」


 目を細め、そのままベッドに腰を下ろす。

 思考は既に、次の一手へと向かっていた。


 今後の計画を.........


 ────────────────────


 中庭には、乾いた衝撃音が絶え間なく響いていた。

 石畳を踏み砕く勢いで、イバラが踏み込み、拳と刃を振るう。


 速度、威力、そのどれもが常人の域を遥かに超えている。

 破壊的な一撃が放たれるたび、空気が震え、衝撃波が中庭の植え込みを揺らした。


 だが......

 シドウはその全てを、まるで予測していたかのように捌く。


 攻撃の軌道を読み、半歩だけずらして回避。

 受けるべきものは受け止め、力を流し、その反動を利用して即座にカウンターを叩き込む。

 一つ一つの動きに無駄がなく、経験と冷静さが表れていた。


「くっ、流石シドウ様!」


 息を荒げながら、イバラが声を上げる。

 額には汗が浮かび、肩で息をしている。


「攻撃が単調だぞ?

 ライトと組み手してるんじゃないのか?」


 そう問いかけるシドウの声は、戦闘中にも関わらず落ち着いていた。

 その一言に、イバラの動きが僅かに止まる。


「そうなんすけど、最近はクロムとよくやってて……」


 イバラは視線を落とし、言葉を濁す。

 自覚があるからこそ、表情は曇っていた。


「ああ、あの黒い鎧の奴か、

 まぁヴルドの配下だろ?仕方ない。」


 組み手を終えたシドウは、軽く息を整えると中庭のベンチへ腰を下ろす。


「……最近、登場が少ない気がする、他の配下も……」


 ぽつりとこぼされたイバラの言葉は、戦場とは無関係な不安を滲ませていた。


「メタ発言は、やめろ。

 量が多くなってきたんだよ、きっと。」


 冗談めかしつつも、シドウは軽く肩をすくめる。

 その言葉に、イバラはわずかに苦笑した。


 その時だった。


 城の外壁付近から、不自然な気配が漂い始める。

 気づけば、いつの間にか無数の烏が集まり、屋根や塀、木々の枝にとまっていた。

 羽音が重なり合い、空気がざわつく。


 それに気づいたシドウは、ゆっくりと立ち上がり、目を細める。


「なんだ、烏?」


 その一言には、警戒と違和感がはっきりと含まれていた。


 ⸻


 一方その頃。

 薄暗い広間には、重苦しい空気が漂っていた。


「うちの諜報部員によれば、魔王ルシアン様、

 バフォメット様、ヴェノム様、これら三人に加えて

 クレア様も戦いに参加する可能性が……」


 男は感情を挟まず、淡々と状況を説明する。

 その声は冷静で、事実だけを積み重ねていくようだった。


 男の名は、悪魔アムドゥスキアス。

 ヴェイド直属の配下であり、長年行動を共にしてきた相方のような存在だ。

 片目を覆う黒のアイパッチが、彼の鋭さと過去を物語っている。


「アイツら二人出るのは厄介……

 クレアが出ると勝算が無いぞ、」


 ヴェイドは腕を組み、低く唸るように言った。

 声には苛立ちが滲んでいる。


「アスタロト、、アイツが関係している可能性が大です。

 ですが今まで彼女が誰かの味方についた事はなく、つくこともありません。

 いろんな大国、特に西の所や魔王が欲しがっているほどの策士ですが……」


 アムドゥスキアスは視線を伏せることもなく、事実を並べる。

 その言葉は、分析であり、警告でもあった。


 だが――

 ヴェイドにとって、それ以上に重くのしかかっているのは、クレアの存在そのものだった。


「四天王を呼べ。

 クレアが出たと言う事は、サタンが出てもおかしく無い。」


 命令は短く、しかし明確だった。

 空気が一段、冷える。


(ったく、我が寝てる間に何があった……)


 内心でそう吐き捨てながら、ヴェイドは奥歯を強く噛み締める。

 状況は、確実に自分の想定を超え始めていた。





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