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第四話 先輩魔王の忠告

「なるほど……いい椅子ですね、」

 バフォメットと名乗る男はそう言って、俺の魔王の玉座に腰を下ろした。

 玉座は漆黒の革で覆われ、背もたれの赤には古びた金の装飾が刻まれている。表面には長年の油が馴染んでおり、男が腰を下ろすと低くきしむような音が辺りに響いた。薄暗い広間の蝋燭の炎がその姿を揺らし、男の顔に不思議な陰影を落とす。


 《俺のなんだけどな、》

 それはそうである。俺の席に座っていることに、アスは少し機嫌が悪くなりつつも、それをバフォメットと一緒に来ていた女性が制止する。

 リリスというらしい。隣の狼の名前はスコルと言って人の言葉を理解しているかのように耳をピクつかせ、鼻で主人であるバフォメットの匂いを嗅いでいた。


「何の用だ? 話があるなら、奥にそれ用の部屋があるからそこで話そう。」

 そう言って、俺たちは緩やかに廊下を進んだ。


 俺は後の会議室にする予定の部屋へと案内した。部屋の中には長い机があり、向こう側に同じく対面用の三席を置いてお互いに腰を下ろし話を始めた。椅子に座るたびに革が擦れる音、黒檀の机に指が触れるかすかな音が、会話の前の静けさを満たす。


「君の名前は?」

 バフォメットがそう言って俺の名前を聞いてくる。彼の声には好奇と計算が入り混じっていた。口元には常に薄い微笑があり、瞳がゆっくりと俺を測る。


 俺は、アスに目をやるとアスは頷くだけ。

 アスの頷きはぎこちないが確かな同意で、肩の筋が一瞬だけ緊張した。


「ヴェノムでいい。」

 俺がそう言うと、バフォメットは頷き話に入る。


「私が、今回あなたに会いに来た要件、それは魔王についてのお話をしに来ました。 ヴェノム殿。」

 バフォメットは微笑んで俺を見つめる。その微笑は暖かいものではなく、まるで冬の朝に差し込む薄い日差しのように冷たい。リリスはその隣で腕を組み、スコルは床に伏せて尾をゆっくり振った。会議室の空気が、更に引き締まる。


「あなたはここ最近魔王になられました。

 ですが、なられたと言うか、称号を獲得しただけで正式にはまだなっていません。」

 バフォメットの声は平坦だが確固としていた。


「俺は、魔王になって世界を滅ぼす。 世界を滅ぼすには魔王になったほうが早いと思う。 で、どうやったら正式に魔王になれるんだ?」

 俺がそう聞くと、バフォメットは微笑んだ。俺の声には冷たくも軽い確信が混じっていた。アスは俺の隣で身体を少し前に寄せ、状況を注視している。


「なるほど、世界を滅ぼすのですか…… 魔王の中には人が嫌いな魔王もいれば好きな魔王もいる。あなたはそれらを敵に回すことができますか?……」

 バフォメットは首をかしげ、言葉を慎重に選ぶ。彼の表情に一瞬だけ哀愁が差し、その後すぐに元の穏やかな顔に戻る。


「構わないよ。 それらも相手しよう。」

 俺がそう言うと、シドウが高らかに笑った。彼の笑い声は深く、鉄の塊を叩くような低い響きで部屋に広がった。


「ハッハッハッ!、 随分と大口を叩くなものだ、、流石我が主人… 付いていく価値があるな、そこまで言われると」

 シドウが信用してくれてよかった。こいつが暴走すると、倒せなくはないがかなりめんどくさそうなのでね。おそらく、あの時の戦いも少し手を抜いていただろう。シドウは膝を叩き、掌を軽く机に乗せながら豪快に笑った。その動きひとつで、周囲に安心感と危険が同居する奇妙な空気を撒き散らす。


「良い配下を持っているな。 では、魔王になるための正式な条件を今から伝える。」

 バフォメットはそう言って、説明を始めた。


 バフォメットが言うには、正式に魔王になるためには他の魔王に認められる必要がある。条件と言うのは、他の魔王に認められるための条件だ。

 彼はゆっくりと指を立て、一つずつ条項を示すように話していく。灯りが彼の指先を照らし、その影が机に長く伸びた。


 それは、4つある。

 まず、1つ目、配下および召使いなどの配下を最低五人以上は作ること。

 魔王の中には、群れる魔王もいれば、そう言ったことがあまり好きではない魔王もある。だが、一匹狼だといけないので最低五人以上は作ることが条件だ。


 そして、2つ目。 ランクを最低でもSSランクにまで登ること。 これは、魔王としての威厳のため当たり前である。


 3つ目は、人間の国家を一つ以上壊滅させること。 この条件は、自分の魔王としての力を示すためらしい。 一つ以上であって、滅したければ程々にもう一つもいいらしい。

 その瞬間、アスの表情が微かに変わった。

 それは、恐怖心なのか興奮なのか俺にはわからない。


 そして最後は、これらをクリアした上で他の魔王たち4人以上の賛成があれば、正式に魔王として君臨できるらしい。 ただ、魔王の人数は13人であり今はちょうど13人。 席を開けるのであれば、一人の魔王を潰す必要がある。 自分で座る席は自分で開けるのが、魔王の世界のルールらしい。

 バフォメットは最後にそう付け加えると、少し肩をすくめた。部屋の空気が、一瞬だけ硬く結ばれたように感じられる。


「……以上です。」

「なるほど、、意外に魔王になるのもめんどくさいな」

 俺は机に片肘をつきながら、ため息をひとつこぼした。

 それでも胸の奥に、言葉にならない引っかかりがあった。


 でも、俺には少しの疑問があったのだ。

「わかったけどさ、なんでそんなにあんたは俺に説明してくれるんだ?」


 俺がそう言うと、バフォメットは一瞬キョトンとした表情を浮かべ、角を持つ頭を傾げた。

 次の瞬間には、面倒くさそうに額に手を当て、深いため息をつく。


「何百年にも前に、魔王になった人がいるのですが、、その人にはきちんと教えなかったため、他の魔王と勝手に対立して長きにわたる戦争をしたんです、そして死亡しました。

 そんな風になるのがめんどくさいので今回は、そう言ったことがあったら早めにと、来た次第です。」


「なるほどね、、」

 俺は思わず笑みを漏らした。バフォメットの言葉には、どこか人間臭い疲労と現実味があった。


「それと、あなた勇者を名乗っていましたね。

 それから、魔王を倒し、魔王になった。

 はっきり言って異例なわけなので……他の魔王たちも目をつけています。なので、色々と気をつけてください。私はその忠告も含めて来ました。

 あなたと一緒に魔王として過ごせることを楽しみにしています。」


 そう言って、バフォメットはゆっくりと立ち上がった。

 隣に控えていた配下たちも、無言でそれに続き立ち上がる。


 俺たちは、城の広い廊下を通り、門のところまで彼らを送ることにした。


 バフォメットは、来た時と同じ黒い帽子を被り、口元にうっすらと笑みを浮かべる。

「では、」

 その一言を残して帰ろうとした――が、突然足を止めた。


「言い忘れていました。」

 振り返ったその目は、どこか妖しく光っていた。

「一つ、魔王になる近道として、使える者、、特に人間は上手く使ったほうがいいですよ。

 後々滅ぼすにしても……」


 その言葉を最後に、バフォメット達の姿は霧の中に溶けるように消えていった。


「どうする?ライト。」

 アスが、腕の中に抱いたスライムを軽く揺らしながら聞いてくる。

「仲間を増やそう。話はそれから。」

 俺は玉座の方を一度だけ振り返り、静かに呟いた。


 そうして、俺達は再び城の奥へと戻っていった。


 ーーマルシオン王国ーー


「どうします?国王、先ほどから膨大な魔力は消えましたが、兵士を派遣しますか?」

 片目に傷を負っている老人が進み出て、静かに尋ねた。

 国王は長く沈黙し、重々しく椅子の肘掛けを叩く。


「ああ、だが……近づくな、適度な距離を保ちあくまで偵察として向かえ。」

 その声には、王としての威厳と同時に、どこか恐れが滲んでいた。


 国王はそう命令し、緊迫した空気の中で会議を早々に打ち切った。

 周辺諸国の使者を別室へ移し、今度は冒険者の三人を呼び寄せる。


「君たちはどう思う?」

 静まり返った部屋の中、

 その問いに、紫色の髪色をした冒険者リアナは小さく首を横に振った。


「分かりません。」


 たった一言。しかし、その言葉の裏にある「不気味な確信」を国王は感じ取った。


(魔王が……復活したのかもしれぬ。)


 胸中でそう呟くと、王は地図を広げた。

 古びた紙の上、彼の指がゆっくりと一点をなぞる。


 そこにはマルシオン王国の北方、

 魔物が群れをなす危険な森“ヴェルデンの森”。

 そして、そのさらに奥。

 廃墟のようにそびえる“ヴルドの魔王城”。

 今はライト達が住んでいる城だ。

 そして、その奥に、小さな村がひっそりと記されていた。


 ――――――――――――――――――――――


「、?大きな魔力だったな……」


 その村では、金髪の少女が額の汗を拭いながら、薪を抱えて空を見上げていた。 

 少女の頭には、獣の耳が生えており、尻尾も生えていた。

 夕暮れの空が紅く燃える中、彼女の瞳がほんの一瞬だけ揺らぐ。

 肌を撫でる風が、遠くに潜む巨大な魔力の残滓を運んできていたのだった......

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