第三十六話 オークの群れに、、
まとめるのむずすぎ
(チッ……何でこんなガキと……)
獣人族の村を目指し、ロバートは無言で山道を進んでいた。
背後から聞こえる足音は軽く、間の抜けたリズムで続いている。エルが、遅れがちになりながらも必死についてきているのが分かる。
振り返る気はなかった。
視界に入れるだけで苛立ちが増す気がしたからだ。
足取り、呼吸、気配。
どれを取っても戦場向きではない。
(……何で、よりにもよってこんなガキなんだ)
嫌気が差す。
だが、それだけではなかった。
歩きながら、頭の中に何度も同じ疑問が浮かぶ。
(何故、賢いダークが、こんな魔王の味方をした……)
ダークは愚直な男ではない。
理屈を重んじ、危険を嗅ぎ分ける嗅覚を持っている。
仮に丸め込まれたとしても、だ。
あの男を騙し切れる存在が、この世界にどれほどいる?
(……引っ掛かるんだよな)
ロバートは小さく舌打ちし、思考を振り払うように歩みを進めた。
やがて、獣人族の村に到着する。
入口には一人の女性が立っていた。
狐の耳と尻尾を持つ獣人。
静かな立ち姿だが、無駄のない重心と、こちらを測る視線に隙はない。
ライトの武器、魔刃蒼白星を打った女。
「私の名前は、イナリだ。
ヴェノムから話は聞いている。
じゃあ、さっそく依頼だ。」
(ヴェノム……)
ロバートは内心で鼻を鳴らす。
(偽名だな)
名前に重みがない。
意図的につけた匂いがする。
イナリから告げられた依頼は、オークの群れの討伐だった。
ヴェルデンの森。
広大で、魔物の巣窟として知られる場所。近隣国も滅多に足を踏み入れない。
だが、ここだけは別だ。
ライトの城と獣人族の村には、サマエルが張った強力な結界がある。
それに、魔王ヴェノムという存在を、魔物たち自身が理解している。
「オークの群れは、20体程いる。
数は少ない方だが、最近やつら、ここの村の作物を勝手に取ったりしていてね。
退治して来てくれ。」
ロバートは即座に違和感を覚えた。
「おい、俺たちは二人だぞ?」
「それがどうした?
ヴェノムの派遣した人たちだ。やれるだろ?」
イナリは微笑みながらそう言う。
その視線には、確信めいたものがあった。
(……獣人族なら、自分たちで片付けられる)
ランクは最低でもB。
強者ならAにも届く。
(なのに、外部に頼む理由がある)
エルは話についていけていない様子で、ただ首を傾げていた。
「わかったよ……」
ロバートは渋々了承し、エルを連れて結界の外へと出る。
(ダークをやられた……)
胸の奥が、じわりと熱を帯びる。
(なら、あの魔王を殺すには……)
視線が、無意識に背後のエルへ向いた。
(この娘を仕留めた方が早いんじゃないか?)
親友の息子。
そして、自分の息子のように育てた弟子。
それを殺された。
ならば、同じやり方で返す。
(それが、報いだ)
十分ほど歩いたところで、丘に出る。
二人はその上からオークの群れを見下ろした。
テントがいくつか張られ、数は二十体ほど。
一体一体の気配は軽く、Cランク程度。
「エルとか言ったか?」
ロバートが口を開く。
「お前の強さを見たい、やってみろ。」
「え、でも……」
「ほい。」
「え?」
返答を待たず、ロバートはエルを後ろから蹴り落とした。
「ン?………」
オークたちが一斉にこちらを見る。
「ウゥゥ……ニオイ……ウマソウ……」
斧を持ったオークたちが、エルを追いかけ始めた。
(あのおっさん落としやがった!!)
涙目で睨んでくるエルを、ロバートは崖の上から見下ろす。
「マテーー!!」
「ぎゃあぁ!!!」
「ハッハッハッ……こりゃ、傑作だ!」
思わず笑い声が漏れる。
「アソコニンゲン!!」
オークの一体がロバートを指差した。
――――――――――――
「「ぎゃあぁ!!」」
「マテーー!」
結局、二人揃って追われる羽目になった。
だが、その時ロバートは咄嗟にナイフを握り、体術でオークの懐に潜り込む。
一閃。
頭部に突き刺さり、巨体が崩れ落ちた。
元聖騎士。
伊達ではない。
「反撃開始だ…」
混乱するオークたちを、地形を利用して一体ずつ仕留めていく。
(……知能は低い)
岩陰にエルを隠し、狭い道へ誘導する。
「おお、すごいね。おっさん。」
「おっさんじゃねぇ、ロバートだ。」
「おっさん!」
「……好きにしろ、」
だが、残り数体になった時、再び違和感が浮かぶ。
(何故、ここまで知能の低い連中が……)
獣人族の村には結界がある。
盗みに入れるはずがない。
(……まさか)
その瞬間、オークの頭が吹き飛んだ。
「ったく……何事かと思えば、俺以外全滅か?」
現れたのは、三メートル近い巨体。
鎧に身を包み、両手剣を携えた存在。
「……!」
「そこにいるな、人間。」
オークは、剣を振り下ろし、岩を軽々と砕いた。
「ったく、、」
ロバートはナイフを投げる。
だが、ナイフは鎧の前ではただの石ころのように軽々と受け止められてしまった。
オークは、ロバートの腰にある銃を見つける。
「銃か……
見るのは初めてではないが、なるほどな……」
(……なんだ、コイツ
Sランク……いや、それ以上か)
「俺の名前は、ザクリオン。
“ここの”オークのリーダーだ。」
次の瞬間、ロバートは殴り飛ばされた。
(……最悪だ、、
頭がクラクラする………俺ひとりならまだ逃げれる、逃げよう。アイツを置いて……)
ザグリオンは、次にエルを見つめた。
「お前は、女か?
ただの人間じゃなさそうだな、美味そうだ、、」
「あ……うそ、」
ザグリオンは、エルを掴み頭上まで上げる。
エルは恐怖で硬直して動けなかった。
「美味しく食ってやろう。」
ザグリオンは、そうして大きな口を開きエルを食べる。
その直前、
またしてもナイフが飛んでくる。
「……その子を、離せよ。」
次のナイフは、ザグリオンの手、まだ鎧で守られていない箇所に突き刺さり出血する。
「何本も持っているわけか、逃げれたのにな。」
ザグリオンは、エルを投げ飛ばし両手剣であたりの岩や崖を叩き切り、辺りを広く動きやすくする。
「部下たちのようにはいかん。
お前から殺してやる。」
「……やってみろ。」
ロバートは頭から血を流しながらも、余裕を見せる。
ザグリオンは、久しぶりの人間の狩りに喜びを隠しきれずにいた。
――魔王城――
「大丈夫なの?」
アスがそう聞いてきた。
俺は、遠く離れたエルを見つける。
「うん。予定通り、大丈夫だよ。
エルもちゃんと仕事してくれてるし、、俺はアイツを信用してるしね。まだ何かあるみたい……」
俺は、あの時のロバートの言葉を思い出す。
得意だもんな、銃……
「変な主人……」




