第三十二話 地下へ散歩です。
「おい、出てきた。」
アスが低く呟いた瞬間、何か変な臭いがさらに濃くなった。アスが差し出した手には、ぽつんと**異様な存在感を放つ“指”**が乗っていた。埃にまみれているくせに、どこか生々しい。
ん?
俺は思わずシドウの方を振り向き、互いに「いや、待てよこれ」と目で会話した。
《それは、、ヴェイドの指だな、》
ヴルドが静かに告げる。その声音は、驚きというより「あぁ、まだ残っていたか」という諦めにも似ていた。
どういうこと?
ヴルドが説明するには、、かつてヴェイドがこの城を訪れたことがあり、その際に取っ組み合いの喧嘩に発展し、城の大半が崩壊しかけたという。
なるほど。壁のヒビ、天井に走る黒ずんだ継ぎ目。ずっと違和感だった“脆い感じ”の答えが今ようやく繋がる。
というか、
よくこの城は、魔王二人の戦いに耐えたな……。
そして思い至る。
まて、ひょっとしてこれはかなりの手掛かりなんじゃないか?
この指を分析すれば、ヴェイドの居場所なんてわかったりして……
《配下に掃除を任せたが、、まさかまだ残っていたとは……》
ヴルドがため息を混ぜて言った。
「配下?」
アスが不思議そうに首を傾ける。
《これでも魔王だ。
正式に加入はしていなくても、配下の一人や二人くらいはいる。》
「それって、今も生きているのか?」
シドウが眉を上げながら問いかける。
《アイツらは長寿だ。
そう簡単には死なんだろう。
最近は、会っていないが………この森の地下にいるんじゃないか?》
「「「え?」」」
俺たち3人は、揃って間抜けみたいに声を上げた。
この森の地下?
そんなものがあるなんて知るわけがない。
そう言うことで、俺たちは早速ヴルドの案内で地下へ向かった。
指については、サマエルと蒼に分析を依頼した。
彼らの能力なら、残留魔素や細胞の痕跡から――何かが必ず掴めるはずだ。
が……
《サマエルは連れて行け。》
ヴルドが短く言い放ち、俺の肩を軽く押さえて止めた。ような気がした。
え?
普段なら余計な口を挟まないヴルドが、あえて“同行者の指定”をするなんて珍しい。
まぁ、サマエルの実力なら全然戦力になるだろう。
「……サマエル!」
呼ぶと、影の中から音もなく現れる。
「はい!我が君……指の件は、まだ、、」
包帯に覆われた両目なのに、確実に“俺を真っ直ぐ見ている”のが分かる。
その視線の気配があまりにも鋭く、思わず背筋が冷える。
コイツ、めっちゃ俺をみてる。
なんか、怖い。
「いや、お前も今回来て欲しい。
指のことは、蒼とアヌビス、スイも最近勉学に進んでるだろ?その3人に任せて来て。」
サマエルの気配がわずかに震え、胸へ手を当てた。
「わかりました!
我が君からの直属の依頼、、受けましょう!」
「あまり人数を増やしすぎてもアレです。
今のこの四人でさっさと行きましょう。」
シドウが俺たちを一瞥し、真剣な眼差しで言う。
その通りだ。人数が増えれば動きは鈍る。
という事で、連れて行くのは“俺とアス、シドウ、サマエル”の四人。
これ以上は人数を増やさない。
「パパ!私も行く!」
振り返る前から分かった。あの小さな足音と勢い。
「わかった。」
即答した俺に、シドウの顔がゆっくり引きつる。
そうして、俺たちは5人で向かった……
「いや、ちょいちょいちょい、」
ん?
またしてもシドウの制止の声。
なんだ?注文の多いやつである。
「いや、俺今言いましたよね?
これ以上人数は増やせない。
そっちは、わかった。……何ナチュラルに増やしてるんですか?」
「………行こう!」
「おい……」
シドウのため息だけが虚しく響いた。
⸻
そうして、俺たちは地下に向かった。
地下といっても、ただの階段ではない。
あの“この前のダンジョン”迷宮の奥へと続く、冷えた空気の通路。
どうやら、アレもヴルドの仕業らしく、、
《ここは、一定のランクに到達していないと開かないようになっている。》
ダンジョンの壁画が並ぶ部屋に入ると、俺の腕が勝手に動いた。
まるで“鍵穴を知る鍵”のように、壁の中心へと手が導かれる。
恐らくヴルドが動かしているのだろう。
手のひらが触れた瞬間、石壁が低く震え、壁画が滑るように左右へ動き出した。
まさに隠し扉。
《入るぞ。》
ヴルドが残していった声が頭に残る中、
俺たちは薄暗い洞窟の最奥へと進んだ。
「パパ……」
エルがぴたりと背中へくっ付く。
洞窟特有の湿り気と冷気、そして足音すら吸い込む静寂。
子供が怖がるのも当然だ。
ここでアテナやイバラと何度も訓練した場所。
――だが、まさかこの奥に“さらに深い階層”があったなんて知らなかった。
10分ほど歩いた。
岩壁が広がり、少しだけ空間が開けていた。
「疲れた……」
エルがぱたんと座り込む。
細い肩が上下している。無理もない。
「アス。」
「うん、ここら辺は特にモンスターとかは居なさそう。
というか、入った時からここは、比較的安全だと思うよ、」
アスが地面に手を当て、魔素の流れを読み取る。
アスが言うなら間違いない。
俺たちはその場で短い休憩を取った。
――その時だった。
洞窟の空気が、一瞬 ビリッ と裂ける。
急激に、先程まで存在しなかった巨大な魔力反応が二つ。
まるで“突然生まれた”かのように現れた。
背後。
完全な死角。
俺の首筋に、冷たい殺気が触れた。
誰かが攻撃を仕掛けて来たのだ。
「……!」
振り向くより早く、風が裂けた。
「我が君!」
サマエルの鋭い声が、洞窟全体に反響した




